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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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夕刻のお客さん

「一段落した感じね。」


ローナのそんなひと言で、ようやく俺もネミルもひと息つけた。

午後から本当にてんてこ舞いだったものの、さすがにもうお祭り初日も

終わりに近い。帰路の時間も考え、ほとんどの人は帰る態勢だろう。


『いやはや、初日から結構な繁盛で何より。』


どこから声出してるのか分からないタカネも、何だか満足そうだった。

一方のネミルは、もうよれよれだ。さすがに予想外の忙しさだった。


「後はやるから、外に降りて椅子に座ってろ。」

「う、うん。お願いね。」


特に遠慮もなくそう言い、ネミルはそそくさとキッチンから出ていく。

いやはや、いきなり慣れない現場で無理させてしまった。少し反省。

とは言え、従来の営業と比較すればボリュームはそれほどでもない。

こんな疲れたのはやっぱり、勝手が違うからだ。慣れればこのくらい、

何とでもなるはずだろう。


まあ、初日としては上々だったよ。


================================


とは言え、主目的はそれじゃない。俺たちは俺たちで手一杯だったから

成果はむしろローナに尋ねる。


「で、どうだった今日の会場は?」

「成果なし。」


身も蓋もないな。


「お客の天恵は全部確かめたけど、モリエナの言ってた連中はまったく

現れる気配なしよ。ってか、天恵の宣告を受けてる人間すら今日は全然

見当たらなかった。」

「まあ、それが普通だろうな。」


その報告にガッカリするほど、俺もネミルも「もの知らず」じゃない。

そもそもここオトノは隣街である。今の時代、ひとつの街に神託師が

必ずいるなんて事はない。仮にこの街で天恵宣告を受けようと思えば、

その人は確実にオラクレールに来るだろう。言わばこの街は、ネミルの

縄張りだ。だからこそオレグストが天恵を教える出店を出していた。


言っちゃ何だか、近郊の天恵持ちはそこそこ把握してる。お祭り初日に

出てくる人たちであれば、天恵持ちがいないのも完全に想定内だ。


「なるほどね。」


俺の説明にローナは頷き、大げさに肩をすくめてみせた。


「いずれにせよ、やっぱりこういう場にフラフラ出てくる事はないか。

少なくとも、今日の印象ではそんな風に考えられるかもね。」

「そうか。」


接客をしていたローナの感想なら、それなりに信用していいんだろう。

とりあえず人の集まるところという感覚で来てみたけど、そう簡単には

手がかりは掴めないって事だな。


「…考えたくないけど。」

「何を?」

「ひょっとするとロナモロスの連中は、もう既に海を渡ってるとか?」

「それは何とも言えないわね。」

『確かに。』


俺の懸念に対し、ローナもタカネも曖昧な言葉を返してきた。…まあ、

そこはどこまで行っても仮定の域を出ない話だからなぁ。


【共転移】の天恵持ちのモリエナが離脱した今、ロナモロス教の人間は

本格的な消息不明だ。何と言ってもモリエナの追跡を振り切る必要が

あるだろうから。彼女が知らない、あるいはまだ行った事がない場所に

潜伏するとしても、イグリセ国内でその状態のままなのは無理がある。

これから何をするにせよ、いずれは外国に行くって算段になるだろう。


しかし、それはいつになるのか。

そして、どうやって行くのか。


いずれにしても、もし海外に逃げるなら俺たちも追っていくしかない。

別に追い詰めるとかではなく、単にネイル・コールデンに会うためだ。

彼女の捕捉さえ出来れば、後の話は至って簡単だ。オラクモービルは、

モリエナが「転移先」としての登録をしている。ならどこにいようと、

彼女を召喚してネイルを本店にまで運んでもらえばいい。そうすれば、

トモキを元の世界に送り返すという目的の目途が立てられる。もし仮に

行きたくないと言われた場合、逆にトモキを連れて来るって手もある。

タカネと違い、彼の記憶はせいぜい15年分。【共転移】の副作用には

なり得ない。そしてここにタカネがいる以上、連れて来ても安心だ。


俺たちは別に、ロナモロス教と事を構えたいわけじゃない。彼らが今後

どんな道を進もうと、よほど凶悪な事をしない限り干渉などはしない。

恵神ローナがそれでいいと言ってる以上、俺たちも妙な正義感なんかは

持たないつもりでいる。


何がどう転ぶにせよ、まずネイルを見つけないと話にもならない。

そしてローナいわく、目的を果たすためにはネミルの存在が不可欠だ。

とりあえず初日を終えて、二号店がそれなりに「やれる」と分かった。

ローナに大した成果がなかった事を嘆くより、そっちを喜ぶべきだ。


まあ、今日はそろそろ店じまいに…


================================


「あー、終わりですかもう?」

「え!?いえいえまだ…って、あらロナンちゃん!」


椅子で伸びていたネミルが、不意の来客に頓狂な声を上げる。

そっちに目を向ければ、紛れもないロナン・ガンナーの姿があった。

おっと、こんな時間になって彼女が来るとは思わなかったな。ってか、

最近では学業が忙しかったらしく、会うのもけっこう久々だ。

そう言えば去年、この場所で彼女がオレグストを見つけたんだっけか。

察したらしいローナは、さりげなく離れた場所に移動していた。


「いらっしゃい。」

「ご無沙汰してます!」


いつも元気だな、この子は。

そして兄のシュリオさんと同じく、この子もかなり「持って」いる。

目立った成果のなかった今日という日の結びに、この子がやって来た。



ちょっと期待していいんだろうか?

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