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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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もう一人の俺とは

俺が気付くと同時に、ローナたちも俺が何を目にしたかを察した。

わずかに空気が張り詰める。


「【変身】の天恵持ちか。」

「それがあいつ?」

「で、でもどうして?」


ローナとタカネ、ネミルの訝しげな言葉が連続する。俺も同感だった。


ミズレリ・テート。

既にモリエナから聞いている。教団に所属していた、【変身】の天恵の

使い手だ。神託師になりすましたり教皇女ポロニヤになって女王陛下に

謁見したりと、主に対外面で重要な役どころを担っていたらしい。


しかし彼女は、女王との謁見の際に策略により捕らえられてしまった。

その事態に対し、副教主のネイルはあまりにも非情な判断を下した。

自死に見せかけ、その日の夜の内に殺害してしまったのである。


実行犯はゲイズ・マイヤール。

手引きしたのは他でもないモリエナ自身だったらしい。

ミズレリがあまりにあっけなく始末された事と、ランドレが用済みだと

認識された事とが、離反の引き金になったと言っていた。

つまりもう、ミズレリはこの世にはいないはずだ。


だったら、なぜ。

そして、どうして俺の姿を。



困惑が、ますます空気を張り詰めたものにしていた。


================================


交差点の人通りが、ほんの少しだけ途絶えたその刹那。


向こうの道に佇んでいた「俺」が、さも当然というように歩き出した。

迷いのない足取りで、俺たちの方に向かって。

ローナもタカネも、それなりに臨戦態勢になったのが空気で分かる。

同じようにそれを察したネミルが、かすかに身を固くしたのも。


最初の街で、いきなりエンカウントする事になるのか。しかもこんな、

街の真ん中で。さすがにすぐ戦いになるとは思えないけど、甘いか?

迷う間もなく、もう一人の俺はすぐ目の前まで近づいていた。


と、次の瞬間。


「こんにちはー!」

「え?」


あまりにもにこやかで、それでいて俺そのものの声で発せられた挨拶。

違和感バリバリの接触に、さすがのローナもタカネも反応に窮した。

もちろん、俺とネミルも。…何だ、誰だこの俺は?


「お久し振りですね。もしかして、そちらもお祭りに出店ですか?」

「え?」


ってか、知り合いかこの俺?


「…あの、どなた?」

「え?ヤだなあネミルさん。お忘れなんですかぁ?」


口を尖らせた目の前の俺は、かなりわざとらしく頬を膨らませる。

頼むからやめてくれ。色々キツイ。って言うか、まさかこの人…


「ひょっとして、ルソナさん?」

「正解!」


変なポーズと共に、目の前の俺の体に一瞬のノイズが走る。次の瞬間、

その姿は見覚えのある女性のそれに変わっていた。


ルソナ・ラズペスさん。

ずっと前に店に俺たちの店に来た、【変身】の天恵の持ち主だ。



何で忘れてたかなあ。

ピリピリし過ぎだ、俺たち。


================================


「ビックリしましたよ。」

「ゴメンね。すぐ分かってくれると思い込んでたから…」


俺の言葉に、ルソナさんはあっさり謝罪した。どうやら俺に化けたのは

単なるイタズラだったらしい。俺もネミルも彼女の事は知ってるから、

笑い合っておしまい、というオチを想定していたんだとか。


…うん、まあ無理もない話だな。

あれほどのゴタゴタを経て知り合いになったんだから、そうそう簡単に

忘れる事は考えられない。ってか、事実彼女の事はちゃんと憶えてる。

もしもっと普通のシチュエーションなら、すぐ思い出せていただろう。


ロナモロス教の事やミズレリの事が頭にあったせいで、目が曇ってた。

いかんいかん、もうちょっと気楽な心持ちで事に臨まないと。


「それで、そちらのお二人は新しいお友達ですか?」

「ええまあ、そんなとこ。」

「タカネです。よろしくね。」


興味深げなルソナさんの問いかけに対し、二人は無難な言葉を返す。

うん、まともに自己紹介をするのはまずいからな。それでいいと思う。

ともあれ、イイ感じに肩の力を抜くきっかけになった。もちろん本題は

忘れないけど、少しくらいこういう時間を設けてもいいだろう。


「それで今日、トリシーさんは?」

「もちろん一緒に来てますよ。」

「へえ…」


そこに「もちろん」が着くのかよ。なかなか隅に置けないなあ。


「前日に来たって事はもしかして、トリシーさんも出店するとか?」

「もちろん。」


おっと、そっちももちろんなのか。ちょっと興味湧いてきた。あの人は

散髪屋だ。小売り系じゃないから、つまり出張の理髪店って事なのか?


「どこで?」

「北の催事場です。ついさっき到着したばかりで、あたしはちょっと

本会場視察に行った帰りでして。」

「あ、北催事場なんだ。」


毒気を抜かれた口調でローナがそう言った。俺たちもちょっと驚いた。

まさか同じ会場とは。つまりさっき入れ違いになったって事なのか。


「ちなみに、ルソナさんは…」

「もちろん手伝いますよ。あたし、こう見えてアシスタントなので。」


ちょっと胸を張るルソナさん。

前に見た時とは雰囲気が大分違う。ずいぶん明るくなったなあこの人。


「皆さんはどちらに?」

「同じく北催事場。」

「え!?じゃあ行きましょうよ!」

「うん、行こう。」


ルソナさんに引っ張られるような形で、北催事場に戻る事になった。

正直、気を張ってウロウロするよりその方がよほどいい。ご近所さんに

挨拶もしたいからな。


何だか、純粋な意味で気分がかなり上向いてきた気がする。多分それは

ネミル達も同じだろう。



お祭り参加は、こうでないとな。

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