表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
321/597

オトノを目指して

俺の人生は、つくづく変なところで加速がかかる。

19歳の誕生日にいきなり自分の店を持つ決意をし、幼馴染との婚約も

勢いで決めた。もちろん、どっちに対しても後悔なんかは微塵もない。

だからその事自体はいいんだけど。…とにかく追いつくのに精一杯だ。


今だってそう。


さすがに店の経営に慣れてきたし、人を雇ったりできるようになった。

頼まれて出張にも行ったし、自信もついて来たと思ってた今日この頃。

気付けば俺は免許取りたての身で、移動店舗と化したトラックを自分で

運転している。あらためて考えると本当に、ワケ分からなくなる。


変な経験は色々してるだろうって?

確かにそれは否定しない。ネミルが神託師になった関係上、変な経験は

本当に枚挙にいとまがない。天恵というやつは、どこまでも不条理だ。

だけど、そうじゃないんだよ。

天恵絡みのあれこれは、言うなれば常識の外の出来事がほとんどだ。

そういうのは第三者的な立場から、興味深く関与していく事が出来る。


それに対して、これは俺たちの生活や人生自体にガッツリ関わってる。

たとえ主目的が人探しだとしても、商売を拡張するという事実は重い。

まだ店を持って1年しか経ってない俺にとって、ビビるには十分だ。

その辺は察して欲しい。

…………………………


まあ、やるしかないんだけどな。


================================


腹を括ったところで、現状確認だ。


俺たちの最終的な目的は、ネイル・コールデンを見つけてトモキの許に

連れていく事。そこは揺るがない。ローナもタカネもそれに邁進する。

ローナの見立てによると、その目的を達成するためにはネミルの同行も

必須となる。そうなれば当然、俺も一緒に行く事になる。で、こういう

突拍子もない計画が実行に至った。


では今現在、ネイルの所在に関する情報があるのか。

答えはノーだ。

さすがにモリエナが離反した状況を考えれば、息を潜めているだろう。

とりあえず彼女が転移出来ない場所に潜伏している、と考えられる。

だが当のモリエナいわく、ネイルはいつまでもそんな隠遁生活なんかを

続ける人間じゃないらしい。いずれ何らかの形で、再びロナモロス教を

始動させるだろう…との事だ。ただ実際のところ、それがいつになるか

何処になるかは見当もつかない。


ひと言で言うなら、あてがない。

今日明日にでも会いに行くような、そんな性急な展開は望めない。


もちろん、ローナは自分なりの方法を用いてあちこちを捜している。

彼女の場合、ノートパソコンを使う事で世界中のどこでも「覗ける」。

痩せても枯れても、そこは恵神だ。俺たちにはとても真似できない。


しかし悲しいかな、覗けるだけだ。

特定の人間を自動で検知するとか、そういう便利能力の類は一切ない。

何にも情報のない状態で人ひとりを探し当てられるほど、世界ってのは

狭くも小さくもない。そこが現在のローナの限界らしい。


「何度も言ってるけれど、あたしは元々個人の認識が出来なかったの。

この体を得てようやく人間と接する事は出来たけど、こっちでは逆に

世界を俯瞰する力が損なわれる。」


本人の見解がこれだ。何と言うか、実にもどかしい。本来の概念では

そもそも人を認識できず、人の体を得て降臨すると神目線がなくなる。

ほどほどの全能性といったものは、望むべくもないというこの不便。

もちろんそれが本当かどうかなど、俺たちには確かめようがない。

ただローナを信じるしかない。


ともあれ、何をするにもまず情報が必要だ。些細な事でもいいから、

ローナの世界検索に何かしら条件を設けて「結果」を絞り込みたい。

国名とか団体名とか、彼らが関わりそうな何かを知りたい、って事だ。


あらためて確認すると、実に厄介な話に首を突っ込んだなぁと思える。

まあいいや。


とりあえず、出発した後でも後悔は湧いてきてないから。


================================


そういうわけで、まずは商いの前に最初の情報収集を試みる事にした。


目指すのは隣街のオトノ。ちょうど明日から毎年恒例のお祭りがある。

かくいう俺たちも、前回はロナンやポーニーと一緒に参加したっけ。

その時、偶然ロナンがオレグストを見つけた。思えばずいぶん前だな。


ただしこのお祭りの開催は年二回。だから前回から一年は経ってない。

状況を考えれば、あのオレグストが呑気に来ているとは考えられない。

ダメもとと言えば身も蓋もないが、実際にはそんな程度の話だ。


まあ正直な話、初日からそこまでの結果なんか期待していない。

どっちかと言うと、近場で試験的に営業をしてみたいってだけの話だ。

そういう意味では、お祭りの前日に行ってみる…というのは悪くない。

人もそこそこ多いだろうし、テストの舞台としては申し分ない。


「まあ、とりあえず行ってみよう。お祭りってのも興味あるし。」


他ならぬローナがこんな感じだし、今回はそれでいいじゃないか。

おっかなびっくりの運転でも、もう間もなくオトノに到着する。ほら、

街の入口が見えて来たし…


「ちょっと停めて。」


うん?

どうしたネミル。


とりあえず、路肩に車を停める。


「どうかしたか?街はもうすぐ…」

「ごめん、酔った。」

「え?」

「何か袋ない?」

『ダッシュボードに入ってるよ。』

「どうもすみません…」


あたふたと袋を取り出し、ネミルはドアを開けて駆け出していった。


「…………………………」

「追っかけないの?」

「あ、うん。」


ローナに言われて、俺もそそくさと車から降りた。

降りた途端に、俺もちょっと車酔いしている事実に気付いた。

さすがに吐くほどじゃないけれど、何とも言えない気分で空を仰ぐ。


…まだまだだなぁ、俺たち。



とりあえず、オトノはもうすぐだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
何時もありがとうございます。 まさかまさかのタカネ登場ビックリしました 当然のことながら「骨身を惜しまず…」を又読みたくなり3回目読み終えました。 1回目、2回目を遥かに凌ぐ感動の数々自分でも驚いてい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ