表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
320/597

最初の目的地

そんなこんなで、いよいよ出発。

まだ人もまばらな時間なので、今のうちに目立たないように発とう。


もちろん、同じ街中で商売しようという考えは微塵もない。

そんな事をすれば、本店とも両親の店とも競合する羽目になるだろう。

誰が好き好んで、そんな骨肉の争いなんかしたいもんか。

そもそも移動店舗は、ロナモロス教の連中を捜す手段でしかないんだ。

もちろん商売はちゃんとやるけど、そっちに重きを置くつもりはない。

だから今日は、とにかく街を出る。それが最優先だ。


「んじゃ行ってくる。」

「こっちはよろしくね!」

「お任せ下さい。」

「お気をつけて!」


ごく短い挨拶を交わし、俺とネミルの乗るキッチンカーは出発した。

名目上、この車は二人乗りである。サイズの割に乗れる人数は少ない。

まあ、詰め込めばもっと乗れるとは思うけど。



出発は、至ってあっさりしていた。


================================


『さあて、やっと出発ね。』


最初の信号で停車したのと同時に、ハンドルの脇のランプが赤く光って

脇のスピーカーから音声が流れた。もちろん、いつものタカネの声だ。

彼女は今回、この車体と一体化してサポートしてくれる事になった。

本人いわく、「カーナビ」とかいうテクノロジーの真似事なんだとか。

もちろん言われてもピンと来ない。恐らく俺たちの世界基準で見れば、

何十年か何百年後あたりに世に出る代物なんだろう。…いや、あるいは

天恵でもたらされるかも知れない。


どっちみち、今の俺たちが気にする話じゃない。我が道を行くだけだ。

まだまだ俺の運転は心許ないけど、タカネがサポートしてくれるのなら

そこそこ安心だ。心置きなく経験を積んでいこう。


と、次の瞬間。


ガラッ!


「あー狭苦しい!」


いきなりすぐ後ろに設けられた小窓が開き、顔を出した女性が一人。

もちろんローナだ。トラックは元々二人乗りなので、後部の荷台部分に

とりあえずシートを着けた。しかし後部と合体する構造上、その席には

窓がなく、光が入らないのである。そりゃ狭苦しいよな。


「何であたしがこんな待遇なのよ。挨拶もしてないし!」

「それは最初から決めてただろ。」

「あらためて納得いかねー!」

「まあまあ。」


口を尖らすローナを、助手席に座るネミルが宥める。悪いけど頼むな。

今は運転に集中させて欲しいから。


「タカネさん。」

『はいはい。』

「後部座席の側面部に、窓を開ける事って出来ますか?」

「お安いご用。」


即答の直後。


ギュイイイン!


何とも形容し難い音と共に、背後の側面部に長方形の窓穴が開いたのが

バックミラーに映った。あんな所に窓なんか無かったはずだけどなあ。

まあ、後部はトラックとは違って、完全にタカネの一部になっている。

部分的に孔を開けるくらいの変形は朝飯前なんだろう。…デタラメだ。


「ああうん、まあこれなら…って、思ったより風が入るなあ。」


うるさいな後ろの人。いや恵神か。

実際に走り出すまで気付かない事もあるだろう。何事も予定通り、とは

行かないのは世の常だ。だから少し我慢してくれると…


『じゃあキャノピー付けるね。』

「へ?」


シュン!


それが何なのか訊くヒマさえなく、ローナ側の窓に透明の板が被った。

ガラスでない事だけは分かるけど、何なんだあれ。


「ジアノドラゴンの横隔膜よ。」

「そうか。」


詳しく訊くのはやめとこう。怖い。何なんだよドラゴンの横隔膜って。

と言うか、街を出る前に早くも車がマイナーチェンジしてる。



どうなるんだかな、一体。


================================


親への説明はディナに丸投げした。我ながら力技だったなと思うけど、

どっちみち説明してもあまり理解は出来ないだろう。だったらもう、

後で怒られる方がいい。と言うか、別に本店を空にするわけでもない。

少なくともポーニーの仕事に間違いはないし、新参三人も戦力としては

十分だ。これまでにも出張の経験がなかったわけじゃない。って事で、

とにかく行ってしまえ!って結論。


もちろん、俺とネミルの二人で行くという名目だ。そうでない事は、

ポーニーたちだけが知っている。

実際のところ、それより多い人数で行くのは現実的じゃない。そこまで

対応したキッチンカーを目指せば、もっと巨大なものになっただろう。

いくら何でも、そんなでは大ごとになり過ぎて本末転倒だ。


そもそもローナは、世界のどこでも転移で行ける。目的地をきっちりと

設定する必要はあるけど、この車にならあっという間に来れる。そして

本店に戻るのも自在だ。だったら、同行もそういう前提にしてもらう。


そしてタカネ。彼女がいなければ、そもそもこの旅は成立し得ない。

キッチンカーを作ったのも、今現在ナビをしているのも彼女自身だ。

何と言うか、思った以上にノリノリで協力してくれている。


トモキを元の世界に返すって目的はもう聞いているけど、それにしても

ずいぶんと出し惜しみがないなあ。


「どうせなら楽しむ。ずっと昔からあたしの信念は同じよ。」


少し前に聞いてみたら、そんな事を言ってちょっと笑っていた。


「たとえリータタカネのコピー版であろうとも、あたしが実際にここに

いるって事実は変わらない。ここに拓美がいないという事実も、そして

友樹が転生してきたって事実もね。あたしにとってそれがいい事かは、

今の時点じゃ何とも言えない。ならいっそ、好き勝手やって何か結果を

出す方が性に合ってる。それが今は友樹を送り返す事なのよ。」

「面倒事に向き合う事になっても、ってか?」

「ええ。それも慣れっこだし。」

「そうか…」


それ以上、突っ込んだ事を訊くのは控えた。

計り知れない話が多い彼女だけど、理解できないってわけじゃない。

少なくとも、今ここに存在する事がいいかどうかは断定しないらしい。

その気持ちは分かる。だからこそ、トモキを送り返すという目的には

俺たちも邁進する。その上で彼女の力が必要なら、もう遠慮はしない。

進化するキッチンカーがあったっていいじゃないか、一台くらい。


何はともあれ、俺たちは出発した。



まず目指すべきは、オトノの街だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ