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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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キッチンカーを作ろう・10

最近、よく昔を思い出す。


コピープログラムである身で「昔」と形容するのは、変かも知れない。

だけど、自分がナノマシンである事を鑑みれば、別にいいとも思える。


ともあれ、思い出すのは学友たちの顔だ。

シュニーホ魔法学校、実動クラスの4組。そこで共に学んだ友人たち。



元気にしてるかなあ、みんな。


================================


戦闘向きじゃない魔法を使うという理由で、落ちこぼれと呼ばれていた

彼ら。でも決して卑屈にはならず、自分たちの魔法の研鑽をしていた。

あの前向きな生き方には、あたしも大いに影響された覚えがある。


あの子たちと力を合わせて、多くの難局を乗り切った。その経験もまた

かけがえのない記憶だ。あたしは、記憶を拠り所にして存在している。

この、拓美のいない世界に。


…どうして今になって、彼らの事をこんな頻繁に思い出すのだろうか。

その理由は、わざわざ考えるまでもなく明白だ。


モリエナ・パルミーゼ。



彼女が、かつての学友たちにとても似ているからだ。


================================


力任せでは、どうにもならない事がある。それはどこの世界でも同じ。

異なる世界を渡り歩いた、このあたしだからこそ断言できる。だから、

足りない部分は補い合う。そして、知恵を絞って工夫を凝らす。

シュニーホの学友たちも、そういう無茶振りによく応えてくれていた。


勢いと悪ノリで、あたしたちもまた色んなモノを作っていたっけ。

自転車を皮切りに、乗り物も多彩なバリエーションを展開していった。

あの時の創意工夫は忘れられない。


そして今。

思いがけないきっかけから、あたしはこの世界で創意工夫をやってる。

さすがに今まで作った事ないなあ、キッチンカーなんて。



どうしよ?


================================


自動車を作るという事自体は、別にそれほど難しくない。エンジンやら

何やらは無理としても、要は走る事さえ出来ればいいって話だから。

しかし、ここで求められているのはキッチンカー。すなわち、車体が

そのまま飲食店の調理用スペースになっている車である。何気にこれが

かなり厄介だったりするのだ。


細かい部分はいいとして、大前提がある。つまり料理をするという点。

最低でも、お湯を沸かす機能くらい備えておかないと、話にならない。

しかしこれ、何気に難しい。最悪、在り物コンロを搭載するしかない。

この部分に関しては、あまり自前にこだわると話が進まないだろう。

割り切って相談するしかない。何せ時間が無いんだから。


そしてもうひとつ。こっちはもっと切実な問題かもしれない。

要するに、食材の調達と管理だ。


レストランじゃないから、生肉とかそんなものを用意する必要はない。

店で出るのは軽食程度だし、無理と思うのならメニューを削ればいい。

そこはトランたちも分かっている。丸ごと持っていくのが無理なのは。


しかし、最低限揃えるべきメニューというものはあるだろう。そこは、

あたしとしても削りたくない。ならどうあっても、食材の調達と保存、

そして補充は続けないといけない。それが出来てこその移動店舗だ。

…などと偉そうに語っているけど、これまた難しい。加熱以上に保冷は

生物の能力で再現しづらいし、また補充に関しても問題が多過ぎる。


何と言っても、どこへ行くかが皆目分からないのである。そんな状況で

「業者に届けてもらう」なんてのは無理だ。国内ならどうにかなっても

外国へ行った後はもう当てがない。商売を続けるにはどうすればいい?


ハッキリ言って、無理ゲーだ。

いくらあたしでも、それらを独力で解決するなんて不可能である。

ならどうする?


悩むまでもない。


独力で無理なら、周りを見てみろ。

何もかも自分でやろうとせず、誰か一緒にやってくれる人を探せ。

シュニーホで、いつもそうしてきたように。



いけるよね、モリエナ?


================================


彼女の天恵は、実に興味深い。

一緒に転移した相手の記憶の一部を得るなんて、どんな原理なんだか。

まあローナ自身も初耳らしいから、詳しく知ろうとしても無駄だろう。


大切なのは原理じゃない。それを、どう活用するかだ。


あたしと一緒に転移すると、彼女はパンクしてしまう。それは禁忌だ。

だったら手首の治療に全力を注ぎ、天恵を使う時だけ離脱すればいい。

そこはどうにでもなる。本人は少し痛い思いをするけどね。

そして最大の難関。

認識した場所にしか転移出来ないという制約を、「乗り物の中に転移」

するというトンチで見事にクリア。本人も大いに驚き、喜んでいた。


これで、ほぼ食材の問題は解決だ。


彼女の【共転移】は、人ひとり分の体積や重量と一緒に転移できる。

それはローナにも、そしてポーニーにも出来ない彼女だけの能力だ。

それだけの余裕があれば、本店から食材を運んで補充する事ができる。

一瞬で運べるんだから、熱い料理をデリバリーする事さえ可能だろう。

これで、キッチンカーに求められる基本機能は劇的に削る事が出来る。

冷蔵庫を備える必要もない。まあ、さすがにコンロは必須だろうけど。


もちろん、何から何までモリエナに頼る気はない。そんな事をすれば、

別の意味で彼女がパンクしてしまうだろう。職場がブラック過ぎるよ。


あくまでも、食材の補充をメインに据えた連携を目指す。何と言っても

水はあたしがほぼ無制限に出せるんだから、工夫次第で何とかなる事は

色々ある。機能的な追加も、何なら出発した後でも出来るからね。


よし、目処が立った。


================================


正直、かなりのインチキ商売だ。

同業者から見れば、チートだろうと文句を言われても仕方がない。

だけど、そこはローナのお墨付きがある。


「天恵は使ったもん勝ちよ。それがどんなに不公平に思えてもね。」


言い切るねえこの神様は。やっぱりどこか拓美に似てる気がするよ。


そう。

モリエナの天恵は、等しく恵神から授けられた力のひとつに過ぎない。

天恵宣告が廃れた時代だからこそ、特別過ぎるようにも見えるけど。

彼女が特別だ、という事実はない。ありふれたレア天恵の持ち主だ。

そういう意味でも、彼女は何となくシュニーホの学友を想起させる。

自分の力の使い方は全て自分次第。そんな信念で可能性を切り開いた、

あの友人たちを。


「こういう形でなら、あたしは己の天恵をまた受け入れられます。」


モリエナの言葉には、決して軽くはない意味と実感が込められている。

あたしたちに救われた後で、彼女は自分の天恵の特性を全て明かした。

一緒に転移した人の記憶の一部を、強制的に得るという特性を。


それはすなわち、もう今後は誰かと一緒に転移はしないという意味だ。

プライバシーを覗き見される側も、無理やり覗かされる側もツラい。

だから彼女は、一度は自分の天恵を捨てる覚悟をしたのである。


その事を知っているから、あたしも譲歩の条件を彼女に提示した。

よほどの非常時でもない限り、他の誰かと一緒の転移はしなくていい。

トランもネミルも、つまらない理由で店に戻りたいとは言わない。

命の危険が迫った時だけ、非常措置として【共転移】をやってもらう。


「十分です。」


そう言って、モリエナは笑った。

うん、頼もしい限りだ。


「それとタカネさん。」

「うん?」

「ひとつだけお願いがあります。」


何だろうか。

とりあえず、言ってみ?



なになに…?


================================


ようやく、キッチンカーの全体像をまとめられるところまで来た。

トランとネミルの居住用スペースを最優先にし、極限まで機能を絞る。

その分、頑丈さと精度にこだわる。


いいねえ。



新たなるGDーXの誕生だ!

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