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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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キッチンカーを作ろう・9

ずっと、自分の事が嫌いだった。

同じように、自分の得た天恵も嫌いだった。使うたび気が滅入った。

言い訳ばかり繰り返す己に見切りをつけ、あたしはどちらも捨てた。


モリエナ・パルミーゼという自分。

そして【共転移】という天恵。


過去を捨て、見た目を変え、そして自分の中の奥深くに天恵を封じた。

ランドレさんと同じく、もう二度と使わないでおこうと固く誓った。


でも。

それは、数日前までの話だ。

あたしの生き方は変わった。だからもう、変わる前の誓いは無視する。



人生って、ホント分からないなあ。


================================


翌朝。


今日だけは皆さんかなり早起きだ。というのも、店を開ける前に実験を

終わらせてしまいたいから。むろんあたしも、誰より早く起きた。


まずは、キッチンカーを作っている教会跡へ。あたしは行くのはこれが

初めてだけれど、実際に手伝ったりするわけじゃない。あたしの役目は

まったく違うところにある。というわけで、トラックの助手席に乗る。

外から見た印象よりは、少し広い。それでも二人乗りが精一杯だ。

素っ気ない内装だけど、これは今後改造していくって事なんだろうね。


よし憶えた。

特に何をするというわけでもなく、そのまま車を降りる。


「よし、じゃあ行ってくる。」


代わりに乗り込んだトランさんが、そう言ってあたしに視線を向けた。


「ま、大体1時間くらいと思っててくれ。電話するから。」

「了解です!」



お気をつけて。


================================


外に出ると、まだ暗かった。入る時確かにあった鉄棒が消えている。

そこから、あたしたちを追い越す形でトラックがゆっくりと出ていく。

ライトをつけて走って行くその姿を見送り、あたしは背中を伸ばした。


気負っても仕方ない。

出来る事をやるだけだ。


「じゃ、店に戻ろうか。」

「はい。」

「トラン抜きで店開けるの?」

「ええ。どっちみち間に合わないと思いますから。」


ネミルさんとあたし、そしてローナ様の三人で薄暗い道を歩いて戻る。

こんな早い時間に外を歩いたのは、いつ以来だったかなあ。


トラックには、トランさんとタカネさんが相乗りしていった。

どこまで行くのかは知らない。いや本人たちもよく分かっていない。

どちらかというと、決めてないって感じだ。ハンドルの赴くままの旅。

旅ってほど大げさじゃないけど。


行き先は、不明なほどいい。



それこそがこの実験の目的だから。


================================


外がすっかり明るくなり、もうすぐ開店となった1時間半後。


ジリリリン!!


待ちかねていたベルが鳴り響いた。電話の前で待機していたあたしは、

素早く受話器を取る。


「もしもし!?」

『いいぜ。停車したから頼むよ。』

「はいっ!」


ごく短い通話を終えて電話を切り、あたしはネミルさんに向き直った。

その間に腕輪のユニットが外れる。さすがにもう慣れた。


「じゃ、やってみます。」

「無理しないでね。」

「ありがとうございます。」


その気遣いには感謝しかないけど、感覚で分かる。これまで幾度となく

繰り返してきた経験に根差した感覚が、結果を雄弁に語りかけてくる。


大丈夫だ、いけると。


よし。


「行ってきます!」

「いってらっしゃ」


シュン!


聞き終える前に、天恵は発動した。



忌まわしいと思っていた、あたしの【共転移】が。


================================


ガン!


「あいた!」


天井に頭ぶつけた!


だけどその瞬間、あたしは痛みより達成感でいっぱいだった。

ついさっき座ったシートの感触が、お尻と背中にある。間違いない。

トラックの助手席だここは!


「来れたか。」

「いけました!!」


外に立っていたらしいトランさんの呼びかけに答え、あたしは笑った。

どんなもんだと、心の中で叫んだ。


「やったじゃない。」


トランさんのすぐ隣で、タカネさんも嬉しそうに笑っている。

ええ、やりましたとも。


それで…



ここ、どこですか?


================================


あたしの天恵【共転移】は、過去に自分が行った事のある場所にしか

転移する事が出来ない能力だ。この制約があったから、以前はあちこち

引きずり回されていたっけ。カイの【共転送】と併せて、本当に色々な

場所へ人や物を運んでいた。


ちなみにこの能力で乗物の中に転移するのは、きわめて危険な行為だ。

かなりの速度で動いている関係上、転着した瞬間に怪我をする可能性が

きわめて高い。あたしにとっては、絶対の禁忌と言ってもよかった。


だけどそれは、以前までの話だ。

キッチンカーを作る中、タカネさんがこのあたしに尋ねたのはひとつ。


「乗り物の中っていうのは、過去に行った場所として登録できるの?」

「ええ、出来ると思いますけど…」


そう答えた瞬間、タカネさんの質問の意図がはっきり分かった。

常識に囚われないその考え方には、少なからず感服した。


あたしは、タカネさんと一緒に転移すると頭に凄まじい負担がかかる。

3000年に近い記憶の一部分を、強制的に読み取ってしまうからだ。

だから右手の治療が一段落するのを見計らい、分体が離脱するための

腕輪型ユニットが着けられた。


そしてあたしは、トラックの助手席を「行った事のある場所」として

憶えた。あくまでそこに行くだけで、トラック自体がどこにいるのかは

あえて考えない。どこにいようと、助手席目掛けて共転移する。


出来ると信じて疑わなかった。

大嫌いだった自分の天恵を、今一度信じてみる事にした。


結果はこの通りだ。

よっしゃ!

あたしは、まだまだやれる。


そう。



皆さんの役に立てるんだ!

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