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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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キッチンカーを作ろう・6

そもそもの話。


知識も何にもない人間が、いきなり自動車を買って「改造しよう」とか

考える方がおかしい。ちゃんとした目的があるとしても、何だここは。

工場でも何でもない、ただの廃墟。資材すら全く用意していない有様。

まっとうに自動車を作っている人が見たら、憤死するレベルである。


要するに、異世界から来たタカネに丸投げしているって事だ。

あらためて省みると、考えなしにも限度があるだろう。俺たち全員。


とは言え、今からあれこれ現実的な話をするってのも何か違う。

恵神のお墨付きなんだから、ここは今のまま突っ走るしかない。

という訳で。



タカネ先生、よろしく。


================================


「んじゃ、まずはコンテナの基部を作ってみようか。」


そう言ったタカネが屈み込み、右の掌を下に向ける、見た感じだと、

車体の床面くらいの位置だろうか。…作ると言っても、どんな工程で?


次の瞬間。


「うおっ!?」


前触れもなく、タカネの手を起点として黒い板状の物質が形成された。

あわてて飛びのいた俺たちの目の前で、その板は完全な長方形を成す。


「大きさはこんなもんか。じゃあ、次はタイヤと駆動部ね。」


ガギイイイイン!


板を凝視するタカネの言葉と共に、内側に複雑な機構が出現していく。

…いや、そんなに複雑じゃないな。俺でもどうにか構造が理解できる。

構造の精度は非常に高いんだけど、組み上がりつつあるのは要するに

ギアを使った駆動輪だ。基本構造は自転車のそれと同程度か、あるいは

それより単純かも知れない。いや、間違いなく単純だ。…下手すると、

ゼンマイ仕掛けのオモチャに近い。大丈夫かこんなので?動力は…


「…何かオモチャみたい…」

「しっ!」


思ってても言わない事を、遠慮なく口にするなよネミル!

しかしタカネは気にする風もなく、さらに内部構造を組み上げていく。

組み上げると言っても掌を当ててるだけなんだけど、もうそのあたりは

あるがままを受け入れる。こっちの常識で考えても無駄だろうから。


ただ俺にも何となく理解というか、想像できる要素はある。


昨日、あの宙に浮くステップとかを作った時は、手は使ってなかった。

何の予備動作もなく、唐突に空間に現出させていたのである。

それに対して、今回タカネはずっと基部に掌を当てたままだ。たぶん、

単一の素材で作る単純なものなら、それをする必要が無いんだろう。

駆動系という複雑なものを創造するプロセスは、彼女自身が触れている

必要がある。恐らくそんな感じだと思う。


まあ。


何にしても、人智を超えてるけど。


================================


「よーし、こんな感じかな。」


時間にして、およそ5分。

タイヤも含めたコンテナの基部が、何の資材も工具も使わず完成した。

割と単純だけど精度の高いギアが、平べったい構造にまとまっている。

かさばるエンジンと比べれば、実に省スペースな構造だ。床下に全てが

収まっているあたりも、システムに無駄がない。プロの設計だね。


…ただし、肝心の動力がない。

レコードみたいに中央に収められた大きな歯車を回転させない限り、

タイヤが回らないのは俺でも判る。いわゆる四輪駆動の構造だけれど、

あくまでも今はオモチャの範疇だ。こんなものを回せる動力って…


「まだ個体数が足りていないから、あたしが動かすね。」

「個体数?」


何の個体数だ?

と疑問に思ったのも束の間。


キュイン!


ずっと基部に手を当てていたタカネの体が、一瞬で消失した。正確には

一瞬で基部に吸い込まれた。何だ、何をしたんだ!?


「ちょっ、何!?」

「ノートパソコンに戻ったのか?」

「違うよ。」


思わずローナの方に向き直ったが、彼女はそれを素っ気なく否定した。


「それと一体化したんでしょ。」

「いや、そんな馬鹿な」

『それで合ってるよー。』


いきなり声がした。ってか今の声、どこから聞こえたんだ!?


『こっちこっち。』

「こっち、って…」


明らかにその声はコンテナ基部から聞こえる。確かにタカネの声だ。


「ど、どういう状況だ?」

『触れたままの状態なら、あたしは自分が作ったものを制御できる。

そういう構造にしておけば、内部に入り込む事も出来るって事よ。』

「入り込む、って…」


屈み込んだネミルが、側面を覗く。しかし当然、人ひとり収まりそうな

スペースなど見当たらなかった。


『要するに、今はこれがあたしの体になってるって話。』

「いや分からんって。」

「じゃ、思い通りに走れるの!?」

『無理。』

「えっ」


勢い込むネミルの問いは、あっさり即答で否定されてしまった。

ってか無理なのかよ!


『残念ながら、あたしは生物としてしか動きを再現できない。つまり、

どう足掻いても車輪の回転ってのは出来ないのよ。知る限り、そういう

構造を持つ生物はいないからね。』

「……………………ああ、なるほど。」


ようやく理解できる要素が出た。

確かに、生物の体に車輪という構造はない。陸上を移動する時は必ず、

足かそれに似た何かを用いる。


「じゃあ、逆に足を使った移動なら出来るのか。」

『そっちの方がずっと簡単。何なら今ここで生やそうか?』

「いやいい。忘れてくれ。」


そんなホラーな変形は見たくない!


「じゃあ、どうするの?」


黙って聞いていたローナが問うた。


「制御できていても、走らせる事が出来なきゃ意味ないじゃない。」

『そこは工夫よ。』

「工夫?」

『確かに、あたしにも限界がある。だけど、常識に囚われずに発想を

拡げれば、意外と何とかなるのよ。ずっとそうして来たからね。』


どうやって声を出してるのかは皆目分からない。

だけど、もしもどこかに口を作って喋っているのだとしたら。



ニヤリと笑ってんだろうな。


================================


『つまり、こういう事よ!』


ガキン!


「うおっ!?」


俺とネミルだけでなく、ローナさえ思わず一歩後ずさった。

むき出しの内部構造の余白部分に、唐突にでかい腕が出現したからだ。

明らかにタカネの腕じゃない。いや絶対に人間のそれじゃないだろう。

見た事はないけど、ドラゴンとかの腕と言われた方がむしろ信じる。

それが基部の後ろ部分から伸びて、中央の歯車の上部の取手を掴んだ。


「え?」


ちょっと待てよ。

何か、見覚えあるぞこういうやつ。って言うか、店で毎日見てるぞ。

豆を挽く時に。


まさか…


『いくよー!』


ガコン!


掛け声とともに、異形の腕は力強く歯車を回し始めた。その力がギアを

連動させ、やがて車軸へと伝わる。


そして。


「わっ、ホントに動いた!!」


そんなネミルの歓声と共に、基部はゆっくりと前進し始めた。マジか!

まるっきりコーヒーミルじゃねえかこれ!こんな構造で車を動かす!?


どんなパワーと発想なんだよ!!


「ストップストップ!ぶつかる!」


ローナのあわてた声を受け、基部は慣性をものともせずピタリと停止。

危ういところでトラックへの追突を回避した。


沈黙。

やがて。


『どうよ?』

「…………………………」


いや「どうよ」と言われましても。

概念がぶっ飛び過ぎていて、もはやまともな感想が頭に浮かばない。

自転車みたいなものかと思ったら、もっと乗り物から遠い発想だった。

マジかよ…


うん。



めちゃくちゃ面白いな、これ。

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