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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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キッチンカーを作ろう・5

今日は徒歩で教会跡へ。午後からは少し雲が出ていたけど、今に至って

また晴れてきた。実にイイ感じだ。


歩いても近いので、すぐに着いた。昨日タカネが溶かして設置し直した

あの鉄棒(?)の間から中に入る。…いや、錆び方とかもそっくりだ。

本物の鉄じゃないと言ってたけど、相変わらず恐るべき技術だな。


さすがに昨日の今日なので、誰かが足を踏み入れた形跡などはない。

昨日よりだいぶ時間が早いせいで、全体的に明るい。もちろん電気など

引いてないから助かる。とは言え、あんまり長居は出来ないだろうな。


「おお、秘密基地っぽいね。」


窓からの光に照らされたトラックを見たネミルが、そんな事を言った。

子供っぽいと言いたいところだが、あいにく俺も全く同じ事を考えた。

買ったばかりの、しかも中古車だ。それでも何かカッコよく見えるな。


「実際、秘密基地だからね。」


キィン!


タカネがそう答えた直後、タイヤを固定していた物質が消失する。

…何だか、封印が解かれたみたいな演出だったな。


いかんいかん。

ファンタジー頭になってるぞ俺。



ともあれ、作業開始だ。


================================


今回の改造は、ルトガー爺ちゃんの家をリフォームした時とは違う。

ハッキリ言ってしまうと、あれよりかなりデタラメな事をやる。

トーリヌスさんの天恵【建築】は、かなり地に足のついた能力だった。

もちろん「異界の知」に属する知識や技術も取り入れていたものの、

基本的には普通の建築技術の延長、と捉えるべき天恵だったのである。


しかしタカネの使う力は、天恵とは根本的に異なっている。と言うか、

俺たちからすれば神の領域だ。いや本家の神が隣に立ってるんだけど。

なので、俺もネミルもここでは完全に開き直って意見を出す事にする。


「僕の考えた夢の車」ってやつだ。


こういうのにワクワクできるとは、俺もまだまだ子供だって事か。

いいよそれで。俺は子供だよ。


楽しくやろう。


================================


とは言え…


「あんまり何もかもバラバラにするのは、ちょっと気が進まない。」

「早くも愛着湧いてる?」

「まあ、それは否定しないけど。」


ローナに一瞬で見透かされた自分が悲しい。けど、それだけじゃない。


「いくら前例がないとは言っても、やっぱり公道を走行する自動車だ。

あんまりデタラメな代物にすると、下手すりゃ免許取り消しになるぞ。

出来ればそういうリスクは避けたいと思うんだが。」

「そりゃそうよね。」


あっさりタカネが頷いた。助かる。


「実際問題、あたし的にもそこまで自動車に詳しいわけじゃないしね。

…と言うか、この世界の自動車ってあたしからすればクラシックカーに

属するものだから、下手に根本からいじると収拾つかなくなるよ。」


前々から聞いていたけど、タカネが元いた世界ってのは俺たち的には

かなりの未来だ。その世界を基準にしてしまうと、何であっても無駄に

未来チックになりかねない。正直、そういう目立ち方は嫌だ。


「じゃあどうするの?」


そう言ったネミルが、車のフロントガラスをコンコンと叩いて続ける。


「あたしが見ても小さ過ぎるというのは分かる。で、これ自体の構造を

あんまり変えないでキッチンカーにしようと思ったら…」


そこで言葉を切り、ネミルは車体の後部にゆっくりと向き直った。


「キッチン機能を搭載したコンテナか何かを、これで引っ張るとか?」

「「「それだ!」」」



俺とタカネとローナの声が、見事にハモった。


================================


実物を見た事はないけど、聞いた事はある。トレーラーというやつだ。

荷台と一体化しているトラックとは違い、自走機能を持たない荷車を

牽引する方式の大型車両。もちろんタカネの世界にも存在したらしい。

それならトラック自体はそのままで運用でき…


いやちょっと待て。


「…いくら何でも、喫茶店の設備を丸ごとこのトラックで引っ張るのは

無理があるだろ。どんなに切り詰めても馬力が足りないぞ絶対に。」

「もちろんそうでしょうね。」


これまたタカネ、あっさり同意。


「こんな非力な小型トラックじゃ、そもそも牽引なんて不可能だよ。」

「…………………………」


非力で悪かったなと言いたいけど、さすがにお門違いだから堪える。

現実はちゃんと受け入れないとな。


「じゃあどうするの?エンジンだけ積み替えるとか?」

「いやあ、下手に馬力だけ上げると事故に繋がるだろうし、そもそも

このトラックに積めるエンジンじゃ想定するコンテナの牽引は無理。」


おい規格外ども。

勝手に話を進めないでくれよ。

…いや、進んではいないのか。


「だったらどうするんだ?まさか、後ろのコンテナにも動力を…」

「なんだ分かってんじゃん。」

「は?」


「まさか」という前置きで言った、出まかせが肯定されてしまった。


「本気か?」

「ええもちろん。」

「ええー…そんなお金どこに…」


ネミルの口調に、形容し難い実感がこもるのを感じた。

と言うか、実際俺もそう思う。


それって実質的に、自走機能のある車を連結しているのと同じだろう。

身も蓋もない言い方をするならば、もう一台車を買わなきゃって話だ。

いくら何でもそんな予算ないぞ?


「いやいや、いくら何でももう一台買えなんて言わないよ。そっちは、

あたしが作るから。」

「は!?」


突然とんでもない事を言い出したぞこの規格外。


「実際に走る車を作れるのか!?」

「まあ、さすがにエンジン搭載した本式のやつは無理だけど。」

「だったら何で……」


「何で買わせたんだ」という文句は辛うじて呑み込んだ。決まってる。

ちゃんと車両登録しないといけないからだ。それは最初に決めた事だ。

それでも何だか納得できないぞ!


「そもそも、エンジン積まないならどうやって動かす気だ!?」

「あたしが動かす。」

「え?」

「要するにタイヤを回せばいいんだから、自前で何とかするよ。」

「…………………………!!?」


俺もネミルも揃って絶句した。


割と慣れてきたつもりだったけど、やっぱりこういう場面では話の軸が

致命的にズレてくる。正直、どこをどう指摘すればいいか分からない。

自転車作るんじゃないんだぞ?


ダメだ。



とにかく試作しないと、想像すらも出来そうにないや。

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