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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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キッチンカーを作ろう・3

だんだんやる事がスレスレになって来てる気がするけど、気にしない。

気にしたら負けだ、もう。


とりあえず、日が暮れる前に買った車を教会跡に搬入しようという話が

まとまった。細かい事は後で考えるとして、とにかく行ってみよう。

と言っても、教会跡は本当に近い。自転車で行ってもほんの数分だ。


「パッと行ってパッと戻ろう。」

「そうね。」


というわけで、俺とタカネの二人で向かう。今日の時点でやれる事は、

全部やった。正直、かなり疲れた。噂が立つ前に車を隠してしまえば、

後は機を見て作業を進めればいい。


「いってらっしゃあい。」


ネミル達に見送られ、俺は慣れない車で慣れ親しんだ教会跡へ向かう。



ハードだなあ、今日はホントに。


================================


「あ。」


何分もかからず目的地に着いたのはいいが、さっそく障害が目の前に。


アタリを付けていた裏口の前には、錆びた鉄の棒が何本も立っている。

正直、徒歩や自転車で来ていた時は気にも留めていなかった。今さら、

自動車を運転するという事実の意味を痛感する。思った以上に不便だ。


「くそ…抜けるかなアレ?」


棒の手前で停車して窺う。しかし、助手席のタカネが一瞥して言った。


「無理みたいよ。ガッチリと地面に固定してあるから。」

「嘘だろここまで来て…」


思わずうめく。

いや「ここまで」と言っても大した距離じゃないんだけど、今日一日の

苦労の締め括りがこんな形なのは…


「まあ任せてよ。」

「どうするんだ?」

「溶かす。」

「は?」


聞き間違いかと思ったけど、それを確認する間もなかった。


目の前の鉄棒は4本。その全てを、音もなく現出した薄い黄色の液体が

包み込んでいく。上から下に順に…


思わずちょっとバックした。


かすかな刺激臭が漂い、鉄棒は飴か何かのように液体の中で溶けた。

何だ、どういう液体なんだあれは?


竜の遺産・七倍(ジアノレガシーセブン)よ。」

「…何だか無駄にカッコいいけど、要するに何なんだ?」

「ものすごい強酸。」

「分かりました。」


敬語になってしまった。

さいわいそのナントカレガシーってやつは、音もなく消失した。

…………………………



怖ぇよ!!


================================


方法はともかく、障害は除かれた。おそるおそる敷地内に入っていく。


雑に板で覆われているのを二人して取り除き、さらに奥へ。ようやく、

想定していた空きスペースが見えてきた。後はそこまで車を進めて…


行けない。


ギリギリ通れない間隔で、柱が2本屹立している。さすがにこの柱を

取り除くのはまずい。下手をすれば崩落が起こってしまうだろう。

くっそぉ、あとちょっとなのに!!


「石の柱か。さっきより溶かすのは難しそうだけど…」

「いやちょっと待ってくれ。この柱取り除いたら生き埋めだぞ。」

「ああそうね、うん。じゃあ…」


板をどかした時に車から降りていたタカネが、ふんふんと何か頷いた。

何だ、どうする気だ今度は?


「何を…って、え!?」


我が目を疑った。

その場でタカネが、突然階段を上り始めたからだ。いや何やってんだ。

どうやったら、何にもないところで階段を上る事が出来るんだよ!?


よく見てみると、タカネの足の下に平べったいステップが浮かんでる。

要するに、虚空に階段が出現してるという事だ。いや、どうやって?

理解できない俺を置き去りにして、タカネは天井の近くにまで至った。

そこでひときわ大きな足場を出し、両足で立つ。頭が天井ギリギリだ。

何をやってるのかも、何をやろうとしてるのかも全く理解できない。


と、その刹那。


竜の刃(ジアノセイバー)!」


ぼそりと呟くと同時に、タカネの手に異様な刀が出現していた。

もの凄く刃渡りの長い、宝石に似た輝きを持つ刀だ。どっちかと言うと

装飾品に近いイメージを放ってる。…いや、それで何をしようと?


「タカ…ちょっとちょっと待て!」


横薙ぎの構えを見て、俺は慌てた。まさか柱をぶった斬る気か!?

そんな事したら、溶かすのと何にも結果が変わらないだろうが!!


「いいからいいから。ハッ!!」


斬!!


目にも止まらない一閃が走り、柱は2本とも一気呵成に斬られた。

車の天井より少し高い位置で。

斬り落とされた薄い柱の一部分が、鈍い音を立てて落ちる。


崩れる…!!


……………………………………………………


「…………………………あれ?」


何も起きなかった。

建物が軋むような事もなかった。

どうなったんだ?


きょろきょろと天井を見ている俺を一顧だにせず、タカネが足場から

ポンと飛び降りた。そして今度は、柱の根元ギリギリを狙って構える。


斬!!


剣風が走り、埃がかすかに舞った。そして二本の柱は…


「よっと。」


ガコン!!


上下切断された柱を、タカネが二本まとめて元の場所から「外した」。

そして、音を立てないように傍らにそっと並べて横たえる。



またも障害は、力技で除かれた。


================================


「…ああ、なるほど。」


いい加減、驚くのも飽きた。

車から降りた俺は、天井部の断面に視線を向けて納得の声を上げる。

そういう仕組みか。


あのデタラメな大刀で、柱を横薙ぎに斬った瞬間。

タカネは、階段のステップと同様に空間に板を現出させていたらしい。

切断と共にそれを断面にあてがい、柱の代わりとして固定させたんだ。

どういう原理か分からないが、その板が柱の代りに上階を支えている。


…デタラメだなあ、本当に。


「んじゃ、奥へどうぞ。」

「あ、ああ。」


頷いて目を向ければ、わずかに残る柱の根元には既にスロープらしき

板が設置されている。これなら多分乗り越えて行けるだろう。

相変わらず、理解には程遠いけど。



ともあれ障害を突破できた。


================================


「うん、いいんじゃない?」

「だろ。」


かなり薄暗くなってきているけど、室内の広さは何となく把握できる。

作業スペースとしては充分だろう。思ったほどゴミも埃もない。まあ、

定期的に街の皆で掃除してるから。

誰か来る懸念が無いわけじゃない。だけど、そんな長居する気もない。

改造が終わればとっとと出ていく。その間くらい使ってもいいだろう。


「よーし、んじゃあ明日から作業にかかろうか。」

「分かった。じゃ帰ろうぜ。」

「オッケー。」


ガキン!!


何だ!?

いきなり、タイヤに何か硬い物質が融合した。これは一体…


…いや、別に驚く事じゃないか。

そう言えば、【氷の爪】の死体にも同じような固定措置をしてたっけ。

要するに、鍵をかけたって事だ。



何から何までお世話になります。


================================


「あれ?」


外に出てみると、溶かされたはずの鉄棒がしれっと復活していた。

いつの間に?


「無くなったままなのもアレだし、適当に作っといたから。」

「ああ、はい。」


もう軽く流しておこう。

どうやってとか、聞くだけ無駄だ。


もしも事情を知らない奴が見たら、どうやって入れたってなるだろう。

せいぜい考えてみな。


さあて。

明日も忙しくなるだろう。



夕飯何にすっかな。

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