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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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キッチンカーを作ろう・1

とにかく安全運転。


細心の注意を払い、どうにか無事に店まで辿り着いた。着いた時には、

さすがにどっと疲れが出た。何しろ本当に免許取り立てだからな。


「よし、とりあえず降りてくれ。」

「うん。」


答えたネミルが、そそくさと降りる準備をするのを確かめ。


「じゃあタカネも…」


何気なくそう言いながら振り返り、俺は肝をつぶした。


荷台にいたはずのタカネが、いつの間にか無精ひげの大柄なおっさんに

変わっていたからだ。何がどうしてこうなった!?


「!?」


遅れて気付いたネミルも硬直する。そりゃそうだ。こいつ一体誰だ!?


「何だ、変な顔して。」


野太い声でそう言ったおっさんが、意外に身軽な動作で飛び降りた。

何とか俺たちもそれぞれドアを開け降りたものの、どうすればいいのか

見当もつかない。


無言の膠着が続く事、およそ数秒。


「あの、どなた?」

「タカネだよ。」

「え?」


恐る恐る相手に質問したネミルは、即答を返されまたしても固まる。

何度も言うが、そりゃそうだろう。何でこのおっさんがタカネなんだ。


「いや、いくら何でもそれは」

「風評被害を防ぐためよ。」

「えっ!?」


野太い声が、いつのまにかタカネの声に切り替わっている。何と言うか

ギャップが凄まじく気持ち悪いぞ。そもそも、風評被害って何だよ?


「あたしみたいなのを荷台に乗せて運ぶって、ちょっとアレでしょ?」

「…………………………」

「あなたの評判を落とさないための措置。どっちかと言えば、感謝して

もらいたいくらいだからね?」

「…分かった、ありがとう。」


そういう事か。

確かに、俺とネミルとが前に乗ってタカネが後ろって配慮に欠けたな。

見ようによっては、人身売買だとか何とか噂を立てられても仕方ない。

…相手が規格外過ぎて、当たり前の社会常識を忘れてた。


いかんなあ、俺もネミルも。


「んじゃ戻ろっか。」

「!?」


俺もネミルも思わず二度見する。

ほんの一瞬目を離した隙に、目の前のおっさんはタカネに戻っていた。

【変身】の天恵を持っていた、あのルソナさんでも無理な瞬間変身だ。

もういい。いちいち驚くの疲れた。


「ところで…」


店の入口に向かいながら、ネミルがタカネに問う。


「さっきのおじさん誰?」

「ゼビス・ゴーナムさん。」

「知り合い?」

「昔お世話になった恩人よ。」

「へえー…」


俺とネミルの感心声がハモる。

タカネにとっての「恩人」か。

ちょっとだけ興味をそそられるな。

でもまあ、深くは訊くまい。

どうせまた、理解に苦労するようなエピソードが飛び出すんだろうし。



今は目の前の問題に集中だ。


================================


「ただいま。こっちは」

「「いらっしゃいませ!」」


いきなりのハモリ声に面食らった。ぎょっと視線を向けると、そこには

着替えを済ませたらしいモリエナとランドレさんがいた。


「…お、おう。」

「どうですか?」

「いいんじゃないか?」


ドヤ顔のポーニーが、俺とネミルに笑いかける。仕込んでたんだなあ。

ってか、いきなり接客の訓練にまで及んでいたか。こっちも話が早い。

ついていくのが精一杯って感じではあるけど、頼もしいのも事実だ。


「ランドレのそういう元気な姿は、本当に久し振りに見ます。」


帳簿の見方を教わっていたらしい、ペイズドさんがしみじみと呟いた。

うん、そりゃそうだろう。今までの二人の、いや三人の苦境を思えば。

しかし、モリエナの容姿についてはまだ一考の必要があるだろうな。

かなり元気になったとは言え、傷の跡が痛々しい。


とにかく、話はガンガン進んでる。



負けずに行こう。


================================


「小っちゃいですね。」

「そうですね小さい。」

「排気量と積載量…あ、出た出た。こんなので足ります?」

「さすがに小さ過ぎるのでは…」


好き勝手言いやがるなこいつらは。


ポーニーはともかくとしても、他の三人まで言いたい放題なのは何だ。

特にランドレさん。何で排気量とかそういう話になるんだよ。そもそも

どうやってそんなデータをパッと…


「トライアルεの解析表示よ。」


ああそうですか。

タカネの端的な説明が、俺の疑問をねじ伏せる。もうやだこの人たち。

頼むからもう少し、常識の範囲内で発言なり行動なりをして欲しい。

…無理なんだろうなあ。慣れるしかない。


…そもそも、寄ってたかって小さい小さいと言うなよ。他でもない俺が

一番そこを懸念してるんだからさ。


「まあ、改造で色々と増量していく予定だから。」


事もなげに言うタカネ。頼もしいと言ってしまっていいのだろうか。

どこまでも不安が付きまとうなあ。


「で、いくらだったのこの車?」


運転席を覗き込んでいたローナが、もっとも俗っぽい質問を口にする。

あなた神ですよね確か?


「100ドレル。」

「え!?」


俺の告げたその金額に、ローナ以外の女性陣の声が裏返った。


「安っ!!」

「大丈夫なんですかコレ!?」

「もちろん分割だよ。4回払い。」

「それでもたったの400!?」


ペイズドさんの声まで裏返ったよ。


「いくら中古車と言っても、それは極端すぎる安値でしょう。何かしら

問題のある代物なのでは…?」

「いや値切っただけだよ。」

「え?」


そんな意外そうな顔しないくれよ。…俺が値切るのってそこまで変か?


「どのくらい安くなったんです?」

「8割引。」

「はちわり!?」


遂にポーニーの声も裏返る。そして目の色も変わる。商売人だな君は。


「ど、どどうやってそこまで…?」

「俺は【魔王】だから。」


もう面倒なのでさっさとネタバレ。早く話を進めたい。

いや、何気に言ってみたかったってのもあるか。


「値段交渉を優位に進めるくらい、コーヒー淹れるより簡単なんだよ。

分かるだろ?」

「へええぇぇ…」

「それは何とも…」

「便利ですね。」

「何か買ってもらおうかしら。」


うんうん。

驚き役とツッコミ役ばっかりな今日この頃だけど、俺だって天恵くらい

持ってる。開き直る事さえ出来れば基本、誰が相手でも無敵なんだよ。


俺が魔王だという事を、とくと知れ凡人ども。


……………………………………………………

…………………………


虚しくなってきた。もうやめよう。

さっさと話を進めていかないと。


それと。



笑ってんじゃねえよ恵神。

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