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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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赴くのは誰か

やっぱりと言うべきか何と言うか、本当に予想通りの結果だった。


モリエナから聞いた、ロナモロス教の根城と思しき4つのポイント。

「ちょっと言ってくる」と、まるで散歩に行くかのようなテンションで

赴いたローナが、それら全てを調査するのに30分もかからなかった。

一気に連続して調べてきたらしく、転移したのも戻ったのも一度きり。

普通に交通機関を使えば、おそらく10日近くかかる場所なんだけど。


何も言わなくとも、その表情だけで結果は皆が察した。


「見事にもぬけの殻だったわね。」


そう告げて指定席に腰を下ろすと、おもむろにネミルに向き直る。


「ごめん、ココアちょうだい。」

「あっ、ハイ!お疲れさまです。」

「うん。疲れたといえば疲れた。」


そう言って背もたれに体を預ける姿からは、疲労ではなく徒労の気配が

色濃く感じられる。分かっていたと言っても、無駄足は虚しいよなぁ。

気持ちは痛いほど分かるよ。


「何と言うか、本当に大慌てで撤収したって感じだったわね。」

「やっぱり、モリエナが誰か連れて来るのを警戒したって事か。」

「誰かって言うか、まあ怖れたのはタカネなんだろうけど。」

「でしょうね。」


名前の挙がったタカネも、あっさりその話に頷く。


確かにそうだろうな。

モリエナが裏切るのは想定内だったとしても、ゲイズが成す術もなく

殺されたのはかなり衝撃的な顛末に違いない。

もちろん、タカネという個人を認識しているわけないけど、だとしても

それがモリエナと結託しているかもと考えれば「逃げの一択」だろう。

さぞ今も警戒しているに違いない。…面倒な事になったなあ、本当に。


「それで、どうするんですか?」


そう問うたのは、今まで黙っていたペイズドさんだった。まだ衰弱した

状態ではあるけど、それでも早くも店の椅子に座れるようになってる。

つくづく、タカネのナノテクというやつは計り知れないな。


「手がかりが途絶えたと言っても、相手はロナモロス教の副教主です。

そうそう雲隠れは出来ないとは思いますが、会うとなると…」

「確かに難しいでしょうね。」


ココアを待つローナが、そう答えて頷いた。やっぱり彼女としても、

難しいって認識なんだな。


「だけど少なくとも現状、それから具体的な目標まではハッキリした。

ここからはあなたたち三人の処遇も含めて、きっちり決めましょう。」

「そうね。」

「そうですね。」

「ですね。」

「だよな。」


すっかり場を仕切っているローナのその言葉に、俺たち三人とタカネが

頷いた。まあ、決意表明だよな。

迷いのない俺たちの言葉に、三人もそれぞれ小さく頷く。


「よろしくお願いします。」


いいねえ。

そう、前向きでないと。



きっちりと重なったそのひと言に、俺は何だか嬉しくなっていた。


================================


ここから先は、出来るだけ早く行動を起こす必要がある。

どうやって会うかとかは別にして、とにかくネイル・コールデンという

存在は俺たちにとって絶対必要だ。身も蓋もない言い方をするのなら、

「死なれると困る」という感じか。


ぶっちゃけ、何より必要なのは彼女ではなく彼女の天恵なのである。

もし何かの弾みで死んでしまったとすれば、天恵も失われてしまう。

そうなれば、次にどこの誰がそれを継承するかの見当がつかないのだ。

もちろん、ローナがそれを管理するというのは絶対に無理らしい。

恵神の公平性は、残酷なほど厳格な世界のルールとして定まっている。


もちろん、15年待てという話ではない。

ネイル自身が生まれ変わるといったシステムではない以上、極端な話

「明日誕生日を迎える誰か」の天恵として引き継がれる可能性もある。


しかしどっちにしても、そうなれば見つけるのはほぼ不可能だろう。

何としても、ネイルの存命中に会う必要がある。それが最後の命綱だ。


「気休めかも知れませんけど。」


そう言ったのはモリエナだった。


「ネイルは、生きる事にはきわめて貪欲な人間です。ロナモロス教団が

いずれ破綻するのだとしても、また別の形で天恵至上主義を極めようと

するでしょう。少なくとも、現状に絶望して死を選ぶような事はない。

それだけはあたしが保証します。」

「ありがと。」


答えたローナがちょっと苦笑する。


…気休めと言うか何と言うか、実に返す言葉に困る情報だなそれ。

確かに俺たちに限って見れば僥倖と言えるだろうけど、それはネイルが

いかにヤバい人間かという説明でもある。…良いんだか悪いんだかな。


「それで、結局どうするの?」


問いかけるタカネの視線が、ココアをちびちび啜るローナに向いた。


「あたしたち二人だけで探すという選択肢もある。どうなの?」

「ちょっと厳しいでしょうね。」


水を向けられたローナが首を振る。やっぱり厳しいのか、それだと。


「色々と聞いた話で判断する限り、ネイルは一筋縄ではいかない相手。

とすれば、仮にあたしたちで彼女を見つけられたとしても肝心の目的が

果たせない。それじゃ意味がない。でしょ?」

「じゃあ、どうするんだよ。」


思わず俺が問う側に回る。ってか、二人で無理なら誰がどうするんだ。

俺の問いに、ローナはほんの少しの間答えなかった。


そして。


「ネミルの同行が絶対必要になる。それとあなたもね、トラン。」

「は?」


あまりに迷いのない彼女の答えに、俺は間抜けな声を上げてしまった。


ネミルと


俺?



何でだ?

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