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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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生まれ変わる記憶

つくづく思う。

今日がトモキを預かる日でなくて、本当に良かったと。


状況が混沌とし過ぎてるんだよ。


================================


「あぁー、やっぱりね。」


トモキの記憶を見る時に使用した、おなじみのローナ特製ヘッドホン。

これをモリエナに着けさせて調べたローナは、モニターを確認しながら

いかにも「やっぱり」という表情で頷く。頼む説明してくれ。


「今日っていうか、ついさっきね。数年分くらいに相当する量の記憶が

一気に頭に書き足されてる。」

「うわぁ、それって大丈夫なの?」

「あんた生後一か月のトモキにほぼ同じ事したじゃん。今になってその

うわぁって表現どうかと思うよ。」

「ちょっと言ってみただけよ。」


いいから説明しろってんだ規格外。

自分たちの基準であれこれ語るのは勝手だけど、ここは俺たちの家だ。

せめて説明責任くらいは果たせや!


「つまり、さっきこちらに来た時の共転移で、タカネさんの持つ記憶の

一部を得た…って事なんですよ。」


気を使ってか、ヘッドホンを着けたままのモリエナが説明してくれた。

もうちょっと彼女を見習ってくれ。

かすかな苦笑を浮かべ、モリエナは接がれたばかりの右腕を掲げる。


「共転移の直前、あたしの体内にはタカネさんの分体がいたんです。

どうやらあたしの天恵は、その存在を共転移の対象と認識したようで。

…頭が破裂するかと思いました。」

「まあ、確かにかなり危ういところだったわね。」


ローナの口調に実感がこもる。

そこまで聞ければ、俺たち三人にもそれなりに今の事情が見えてくる。

下手すると、本当に頭が吹っ飛んで死んでたかも知れないんだな彼女。

そんな事になったら、もう精神的に店が続けられなかっただろう。



今日は、つくづくヤバい日だ。


================================


「…それで、具体的にどのくらいの記憶がそっちにコピーされたの?」


そう言ったのはタカネだった。

口調から分かる。まだまだ彼女は、懐疑的な考えを崩していない。

そりゃそうだ。天恵の定義もかなり怪しいのに、そう簡単に信じられる

話じゃないだろうから。


「正直に言いますと、かなり内容がバラバラで答えづらいんです。」


ヘッドホンを外してローナに手渡しながら、モリエナが答える。


「多分、専門的なプログラム言語の類は入って来なかったんだろうなと

思います。新たな記憶になったのは具体的な出来事ばかりで、内容にも

かなり抜けがあります。」

「ふーん…」


タカネ、ますます懐疑的。明らかに信じるに足りないって顔してるな。

とは言え、少なくとも直近の言動に関してはかなり説得力がある。

タカネ自身の記憶が無ければ、あの内容はあり得ないだろう。ここは、

何かしら決定打が欲しいところだ。


「だったら、何かしら決定打になる記憶を言ってみてよ。」


おっと、俺の考えがシンクロした。…ってか、それが当然の確認方法だ。

今まで以上に、明らかにタカネしか知り得ない何かを例示できれば…


「ラッシュ・リーズナーは環さんが蒼炎で賽の目に刻んで殺した、とか

どうでしょうか?」

「合格。間違いないわね。」


即答だった。


え?

それで納得できるのかよ早いな!


ってか…



物騒な話だなどこまでも!


================================


2882歳だとか、いちいち情報がぶっ飛んでるのはもうあきらめる。

俺の店にはそういう奴らが集まる。開き直らないとやってられない。


でもまあ、何が起きたかだけは一応理解できた。納得もできた。

ネミルもポーニーも、目の前にある非常識に何とか食らいついている。

雑に丸呑みしてしまえば、今のこの状況は決して悪くはないだろう。

モリエナがここに来た事も、そして二人をここに保護できた事も。

もちろん、これが最善かどうかなど誰にも分からない。ローナにも。

今から何をどうするかに関しては、あらためて皆で考えるしかない。


そんな中、まずひとつ吉報がある。


「共転移の履歴を検索できるのは、ゲイズだけだったんですよ。」


そう言いながら、モリエナは自分の右手首を意味ありげに掲げた。


「彼女の右の手の甲に、感知専用の特殊な印が刻まれていたんです。

それを発動させれば、あたしが転着した場所が割り出せる代物です。」

「なるほど。いくつかの天恵の力を応用すれば、そんなのもアリか。」


ローナが納得したように頷く。


「って事は、つまり…」

「はい。」


同じように頷き、モリエナは手の甲をなぞって続ける。


「これは、あたしの存在に紐づいた刻印ですから、ゲイズの生死には

無関係です。彼女が死んだとしてもその手さえ残っていれば、誰かが

引き継ぐ事も可能でした。」

「結果オーライってやつね。」


ローナもタカネも微妙な顔で笑う。いや、俺たちもちょっと笑った。


確かに結果オーライだな。

そんな話はまったく知らないまま、タカネはゲイズの右手を溶かした。

つまり実質的に、もうその印の力でモリエナの履歴を追うのは不可能と

いう事だ。追手が来ないというのは助かる。色んな意味で実に助かる。


もうこれ以上、店の中でゴタゴタはやめて欲しいから。



やれやれ。


================================


ひとつの決断と覚悟が、多くの結果を生み出したというのは確かだ。

まだまだ解決すべき事は多いけど、モリエナがここにいるのは大きい。

もちろん彼女の身辺は、まだ問題が山積みになっているに違いない。

それでも共転移効果か、今の彼女は少なくとも前向きになれている。

やはり、ペイズドさんが当座の窮地を脱したのが大きいんだろうな。


分かった風に言うなら、「心が少し軽くなった」ってとこだろう。


俺たちには俺たちの目的がある。

モリエナが何を捨ててきたにせよ、そしてゲイズとの間にどんな因縁を

抱えていたにせよ、彼女の何もかも背負う気などない。落としどころは

これから考えていくべきだろう。


「とは言え、ここにいてもらうのはもう確定なんでしょうね。」


悟ったような顔でポーニーが言う。うん、それはまあ間違いないな。

まだ詳しい事情は聴いてないけど、タカネの記憶を部分的に得たという

現実はヤバ過ぎる。どう考えても、このまま去られるのは非常に困る。


「もちろんです。至らぬ身ですが、お世話になります。」


本人もすっかりその気だ。何だか、勢いで色々決まっていくなあ。

さて。

残る問題はランドレさんだな。

ある意味、一番大変かも知れない。



頼むぜ、規格外たち。

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