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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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眠る三人の事情は

俺たちなんかはもちろん、タカネやローナにとっても予想外だった事が

モニターの向こうで起こった。


問題の病院がある場所は、イデナス地方の南部。ここから見れは南方に

位置しているけど、イグリセ全体で見れは北部だ。首都からも遠い。

どっちかと言えばここの方が近い。


…にもかかわらず、警官の到着からわずか30分で騎士隊の人が来た。

パッと見でリマスさんだと判った。…いや、どうやってこんなに早く?

騎士隊は原則、ロンデルンの王宮に駐在しているはずだ。少なくとも、

転移か何かを使わないと無理では…


「あれ…そう言えばイデナスって、シュリオさんの地元だったっけ?」


不意にネミルがそんな事を言った。

ええと、確か初めて親子連れで来店した時、セルバスさんがそんな事を

言ってたような…

でも何でリマスさんなんだろうか。もしかして親に挨拶とか…


「何でもいい。」


そのあたり、ローナは別に興味ないらしい。バッサリだった。


「あの子なら知ってる。【犬の鼻】じゃないはずだから、偶然近くに

いたって事でしょうね。」

「多分そうだろう。あの人の天恵は俺たちも知ってるから。」

「じゃあ、渡していいのね?」

「ええ。」

「了解。」


キィン!


タカネがモニターに目を向けると、ゲイズの遺体を固定していた腕輪が

一瞬で消えた。問答しているらしい警官とリマスさんも、それに気付き

怪訝そうに顔を見合わせている。

まあ、ちょっと露骨過ぎるけれど、意図は伝わるだろう。リマスさんが

到着した途端に拘束が外れたという事実は、覆しようがない。


「音声拾える?」

「字幕でなら。」


ローナがキーを押すと同時に、画面下に会話が文字として表示された。

何だこのシュールな絵面は?


『…それでは、この遺体に関しては騎士隊の管轄とします。』

『通報があったというのは、本当に間違いないんですね?』

『ええ。…ロンデルンにある本部にですが、間違いありません。』

『分かりました。では我々はここの確認のみに留めますので。』

『ありがとうございます。』


よかった。

変にギスギスする事なく、ローナが意図した形で片付くらしい。



ご苦労様です、リマスさん。


================================


というわけで、問題はこっちに回収した3人だ。


手当ては済んでいるものの、皆まだ意識が戻っていない。このままだと

今日から俺とネミルの寝床がない。夜までに何とか収拾つけて欲しい。


しかし手当てはタカネに任せっ放しなんだけど、本当に大丈夫なのか。

相も変わらず、事態が俺たち三人の手の届かないところにあるなあ。

そもそもペイズドさん、何でこんな生気のない顔をしてるんだろうか。


「前に病院で会った時は、もう少し元気だったけどなあ…。」


心当たりがあるネミルが呟く。

それに対し、ローナが今気づいたという態で言葉を発した。


「ああそうか、聞いてなかったか。彼は【病呪】に囚われてるのよ。」

「え?」

「何だっけそれ。確か…」


前に天恵の資料で読んだ事あるぞ。あまりいい内容じゃなかったはず…


「特定の相手を、病気で支配する…とかそんなのだっけか?」

「さすがによく知ってるわね。」


ローナはちょっと嬉しそうだった。

しかし俺は、褒められた事に対して喜ぶ気にはなれなかった。


かなり前に、ランドレさんが一人で店に来た事があった。その時の話を

思い返してみれば、この状況は色々思い当たる事ばかりだ。


あの時も確か、ペイズドさんはもう良くならないと言っていた。

ローナが直接見たのは彼女だけだ。だから、ペイズドさんが【病呪】に

囚われているって事は知らないまま終わってしまった。あの時明らかに

なったのは、ランドレさんが天恵に覚醒したって事だけだった。

伯母と同じ【洗脳】の天恵に。


そして新婚旅行の騒動の際に、俺は彼女の天恵で記憶を消されていた。

今にして思えば、それも何かしらの必要に駆られていたかも知れない。

ペイズドさんを、人質に取られたが故の事と考えれば納得がいく。

好意的に見過ぎかも知れないけど、俺たちにはランドレさんが自分から

そんな事をするとは思えない。


おそらく、ペイズドさんにはもはや時間が無いんだろう。

彼が死んでしまえば、ランドレさんを縛るものがなくなる。そうなれば

彼女は、恐るべき敵と化すだろう。その前にゲイズが先手を打った。


ローナとタカネが乱入しなければ。


いや、イレギュラーはその前だ。

モリエナ・パルミーゼがこの二人をここに送った事自体が、裏切りだと

考えられる。そう想定すれば、ほぼ全ての辻褄が合う。


「共転移」は、己が行った事のある場所にしか転移出来ない力らしい。

そして、一度転移した場所は特定の方法で他人に感知されてしまう。

他でもないモリエナ自身が、俺たちに説明してくれた仕様だ。

とすれば、前にわざわざ彼女がここに自分の足で来店した理由は。

この時のための準備だったのか。


…いや、ちょっと待ってくれ。

その仮定は無茶が過ぎるだろう。

どっちみち転移すれば、その他人にこの店の所在はバレてしまう。

…まさか俺たちに、ゲイズのような連中の迎撃を託したって話なのか。


タカネがいれば、大概の天恵持ちは返り討ちに出来るだろう。だけど、

彼女はそんな事は知らないはずだ。いくら何でも無責任が過ぎると…


「違う違う、そうじゃない。」


俺の疑問にローナが答えた。


「彼女がここにいるのは結果論よ。本人はそれは想定してなかった。」

「どういう事だよ?」

「ってか、何のためにわざわざ己の腕を千切ったと思うの?」

…………………………


「あ、そういう事か。」

「彼女がここに転移してきたのは、あたしが命じたから。そもそもの話

彼女はあの病院でゲイズに殺される覚悟だったのよ。腕だけであれば、

場所の特定は出来ないからね。」

「…………………………」


なるほど。

俺も考えが足りてなかったな。


ローナとタカネが殴り込んだから、今のこの状況に至ってるんだ。

そしてタカネがいる以上、追っ手が来たとしても対処できるんだろう。

そしてゲイズの遺体が騎士隊の手に渡った以上、状況も大きく動く。


色々考えた末、導き出された結論。



まずはモリエナの目覚め待ちだ。

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