表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
290/597

ローナの采配

「とりあえず、あなたは戻って。」

「オラクレールに?」

「そう。」

「分かった。」


キュイン!


実行キーをローナが押すと同時に、あたしの体は一瞬でPCに戻った。

いちいち訊かずともローナの意図は分かる。なら早い方がいい。


シュン!


次の瞬間には、早くも周囲の光景が見慣れた喫茶店になっていた。


キュイン!


そこで再び実体化。いきなり過ぎる登場にトランたちが肝をつぶすけど

とにかく説明は後だ。


「こっちは頼むわね。」

「あなたは大丈夫?」

「もちろん。」


即答したローナが、ニッと笑った。


「あたしは恵神ローナよ?」


シュン!


不敵な笑みを浮かべたまま、彼女の姿は一瞬で掻き消えた。


「タカネさん?」

「ど、どうなったんですか?」

「あたしは受け取り担当よ。」

「…何のだよ?」

「彼女の、ね。」


そう答えて、洗面器の中に氷と共に置かれた右手首を手に取った。

もはや冷たいけれど、内部に分体を潜らせてどうにか細胞死を抑える。


後は、本人待ちだ。



有言実行で頼むよ、恵神さま。


================================

================================


……………………………………………………

…………………………


静かになってしまった。

何も起こらない。

もう、痛みの感覚もかすかだ。


だけど、実感で分かる。

あたしはまだ生きている。

何故だか分からないけれど。


ゲイズが心変わりしたのだろうか。

それとも、どこかへ連れていく準備か何かをしているのだろうか。


嫌だなあ。

さっさと終わらせて欲しいのに。

せっかく固めた覚悟が鈍ってしまう前に、さっさと殺して欲しいのに。

やっぱり、そう簡単には行かないのだろうか。

…………………………

それにしても、何だろうこの感じ。

甚振られていた時と比べると、少し苦痛が和らいだような気がする。

こんな愚にもつかない事を、あれやこれやと考えられる程度には。

どうしてあたしは…


(起きなさい。)


え?

…どなた?


(いいから気を確かに持って。)


そう言われましても。

今さら…


(キツイだろうと思うけど、あなた自身も今すぐに転移させなさい。)


え?


(さっきの二人を転移させたのと、同じ場所に行くのよ。そうすれば、

まだ助かる道があるから。)


…………………………

無理を言わないで下さい。

あたしがあの人たちに、どれほどの迷惑をかけたとお思いですか。

今さらどんな顔をして会えと?

あたしは、そこまで強い人間じゃ…


「ゴチャゴチャ言うな。」


ひっ!


急に声が近くなった。

あ、あなたは一体どなたで…


「さっさとやらないと怒るぞ。」


お、怒るって…

あたしの混濁した意識は


次の言葉で、一気に引き戻された。



「200年前みたいに。」


================================


確信した。

理屈など超越した圧倒的な確信が、あたしの心を衝き動かした。


この声の主は


ローナ様だ。


だったら



やるしかない!!


================================

================================



キュイン!!


「来た!」


さすがに三度目ともなれば、俺たち三人もうろたえたりはしなかった。

「受取り役」として先に戻っていたタカネの説明通り、右手首を失った

モリエナ・パルミーゼが現出する。よく見ると、耳も凍りついている。

いや、それ以前に全身ボロボロだ。一刻も早く手当てしないと…


次の瞬間。


ガクン!!


「な、何ですか!?」


毛布を掛けようとしたポーニーが、困惑の声と共に後ずさる。

俺もネミルもそしてタカネさえも、目の前の光景に言葉を失っていた。

現出したモリエナの体が、凄まじい痙攣をおこしている。まるで何かに

取り憑かれたかのように。見れば、かなりの量の鼻血を流している。


「どうなってんだコレ!?」

「とにかく押さえなきゃ!」


結局、大騒ぎになってしまった。


前言撤回。



何人目だろうと、こんな事態に直面すればうろたえるよ絶対に。


================================


その凄まじい痙攣は、しかし長くは続かなかった。

タカネが何かしらの白い粉を鼻先に撒いたと同時に、モリエナの意識は

コトンと落ちた。聞けばその粉末は「ヨドミタケ」って代物らしい。

まあ、あれこれ深くは詮索すまい。


シュン!!


「うおっ!?」


静かになったモリエナを奥の席まで運ぼうとした刹那、すぐ目の前に

ローナが現れた。正直、彼女の事をすっかり忘れていた。


「来た?」

「ええ。今から腕を繋ぐ。」

「よろしく。どのくらいかかる?」

「2分。」

「2分!?」


驚いたのは俺だった。いくら何でも速過ぎないかそれは!?

ちぎれた腕を接合しようってのに、そんな紙工作みたいな感覚で…!


「これでよし。後は内側から組織を活性化させていくから。」

「もう終わったんですか!?」

「こんなのは初歩も初歩よ。」


ネミルの裏返った声の問いかけに、タカネはドヤ顔で答えた。


「まあ、さすがにしばらくは神経も筋肉もあたしが代行するけどね。」

「…………………………」


もはや何も言えない。

彼女は文字通り、違う世界の能力をそのまま持ち込んでいる存在だ。

黙って見ているしかない感じだな。


「じゃあ、先の二人も…」

「ちょっと待って、先にこっち。」


そう言ったのは、いつもの指定席に座ってノートパソコンのモニターを

見ていたローナだ。横から見ると、どうやら病室か何からしい。中央に

倒れているのは…


「もしかしてこれ【氷の爪】か?」

「そう。タカネが倒した。」

「そうなのか…」

「で、それが何?」

「警察が到着したのよ。」


言っている間に、確かに警官らしき人物が数人、部屋に入ってきた。

どうやら、これから調べるらしい。


「やっぱりこっちが早かったか。」

「どうする?」

「隠滅される前に先手は打てたって事だけど、警察がゲイズの遺体を

持っていくのはちょっと避けたい。できれば騎士隊に引き渡したい。」

「つまり、あそこから持ち出せないようにすればいいのよね?」


何を言ってんだこの規格外たちは。

正直、俺たちにはついて行けない。まあいつもの事だけど。…ってか、

ゲイズっていうのかこの女。


「んじゃ、ちょっと左手首にズームしてよ。」

「分かった。…こんな感じ?」

「オッケー。じゃ固定する。」


え?


ガキン!!


タカネがそう言うと同時に、画面の向こうのゲイズの左手首に何かが

現出したのが見えた、恐らくは腕輪だろう。…どういう原理だ?

さすがに画面の向こうの警官たちも気付いたらしい。怪訝そうな表情で

遺体の手首を動かそうとするけど、どうやらビクともしないらしい。

現場のただならぬ困惑が、モニター越しに伝わってくる気がした。


「とりあえず、あたしの出せる一番硬い物質で固定しといたから。」


何気ない口調でタカネが告げる。


「手首を切り落とさない限り、絶対動かせないよ。まあ、そうなったら

また別のどこかを固定するけど。」

「ありがと、助かる。」

「んじゃあ、次の患者さんを診るとしましょうかね。」


言いつつ立ち上がるタカネに、俺はもはやまともな疑問など抱く気にも

なれなかった。


何だろうなあ、この人。

いや「人」じゃないのは今さらな話なんだけど。

万能過ぎて、もう訳が分からない。

つくづく、敵対する事にならなくて良かったと思う。それは確かだ。


とりあえず…



どういう状況なのか、もうちょっと説明してくれ二人とも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ