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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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真に得るべき情報

「つ、捕まえたんですか!?」

『そう。』

「それは…」


後の言葉に詰まってしまった。

電話の向こうのリマスさんの声が、あまりに普通だったのも理由だ。


俺たちは、今回の件にはあまり深く関わっていなかった。…と言うか、

マルニフィート陛下が意図的に深く関わらせなかった、という感じだ。

それは陛下なりの配慮であり、また相手の規模が推測通りだった場合、

俺たちでは手に負えないという想定もあっての判断だったらしい。

気遣いには感謝しかない。


しかしその一方で、深くはなくとも関わった…ってのも事実である。

情報提供者として、謁見がどういう結果になったかくらいは知りたい。

野次馬根性とかではなく、後の事も踏まえて知るべきだと思ったから。

だから事前に、結果だけは聞かせて下さいと頼んでおいた。もちろん、

聞いてもいい範囲でという条件で。


そして。



思いのほか早く、リマスさんからの電話がかかってきた。


================================


どうやら、事が終わって割とすぐに連絡をしてくれたらしい。

話を聞く限り、今この瞬間も状況は完全には終わっていない。むしろ、

ニセモノを捕まえたのならまだまだ波乱はあるだろう。


まだそんな慌ただしい段階なのに、律儀な電話してていいのかこの人。


『これも立派な任務だからね。』


俺の抱く懸念を空気で察したのか、リマスさんがそんな事を言った。


「任務ですか。」

『そう。って言うか、あなたたちの情報がなかったら正直マズかった。

どうなったかは断言できないけど、少なくとも後れは取ってたわね。』

「と言うと…」


やっぱり俺の想像が当たったのか。


「オレグストがいたんですか。」

『いたよ。ある意味、ニセモノより彼の方がメインだったと思う。』

「…………………………」



再び、返す言葉に窮してしまった。


================================


やっぱりか。

予想が当たった事に対する高揚や、してやったりの気分はなかった。

どっちかと言うと、当たって欲しくなかった思いを今さら痛感する。


確かにあの男には良い印象がない。

シュリオさんとの出会いがきっかけだったけど、本人との出会いも別に

良いものじゃなかった。だからこそあの男の記憶から俺たちを消した。

そういう処置をした事も含め、あの男にはマイナスの思いが常に伴う。

三人の神託師連続殺人の件、そしてウルスケス・ヘイリーの件から色々

考え、ロナモロス教に関与している可能性に至った。とは言えそれも、

あくまで可能性以上の話にならない戯言だったはずだ。


しかし、事ここに至り。

かなり嫌な形で、あの時考えた仮定の答え合わせが成されてしまった。


ポーニーが赴いて調査したという、教皇女の身の回りの状況。

その教皇女から直接聞いた、聖都のあまりに突然過ぎる蹂躙と支配。

これらを結び付けて考えれば、もうロナモロスの関与は否定できない。

ニセ教皇女にオレグストがそこまで関与していたと言うなら、そっちも

ほぼ確定だろう。醜悪な全体像が、否応なしにほぼ完成してしまった。


…………………………



何だろうなあ、こういうのって。


================================


『トラン君、聞こえてる?』

「あっ、はい。」


ちょっと感傷的になっていた。今は話に集中しないと。

リマスさんが任務だと明言している以上、この会話の意味も軽くない。


「すみません。まだ何か?」

『もうひとつ大事な話があってさ。ちゃんと聞いてよ。』

「あ、はい。」


大事な話って何だ、この局面で。


『これはあたしじゃなくて、陛下が言ってた事なんだけどね。』

「何ですか。」

『今回の件の結果を踏まえ、あなたたちにもう少しだけこちらの情報を

開示するってさ。』

「え?」


言われた意味が分からず、間抜けな声を返してしまった。

今回、情報提供したのは俺たちだ。今になって向こうからもたらされる

情報って何なんだろうか?


「つまり、具体的に何ですか?」

『天恵よ。』

「天恵?」

『こっちの、つまり騎士隊の人間が持っている天恵を教えるって事。』

「ええー…?」


それは一体、どういう意図あっての話なんだろうか。

正直言って、俺たちはそんなものに別に興味はない。まったくないとは

言わないけれど、控えめに言っても国の最高機密の類じゃないのか。

いくら今回貢献できたと言っても、それはさすがに…


『そこまで大げさに考えなくていいから。』

「でも、じゃあどうして突然?」

『とりあえず、あなたたちの可能性ってものを見てるからね陛下は。』

「可能性、ですか。」


またよく分からない単語が出てきたけれど、それでも言わんとする事は

ほんの少し想像が出来た。ならば、開き直って聞く方がいいだろう。


「分かりました。お聞きします。」

『悪いわね。』



こうなりゃ、ドンと来いだ。


================================

================================


『それじゃあ、また連絡する。』

「くれぐれも気をつけて下さい。」

『承知。んじゃね!』

「では。」


チン!


通話が切れた後も、俺はしばらくの間受話器を見つめていた。

何と言うか、不条理な状況に思考が追いついていない感じだ。


「どうだったの?」

「ああ。」


心配げなネミルの声に、俺はやっと文字通り我に返った。

そうだった。電話してたのは俺だけなんだから、ネミルもポーニーも

結果を知りたくてヤキモキしているだろう。ちゃんと話さないと。


「よ、トラン。」


向き直ると、そこにローナがいた。いつの間にか来ていたらしい。


「確か今日だったよね謁見。首尾はどうだったって?」

「今から話すよ。」


ちょうどいい。

最後の「情報」の事も含めて話し、皆で考えをまとめよう。どうにも、

俺一人じゃ持て余すから。


やれやれ。



何もしてないのに、疲れる日だな。


================================


「へええ、【犬の鼻】ときたか。」


俺が話した内容に、もっとも興味を示したのはやっぱりローナだった。

案の定、ネミルとポーニーは天恵の名前に引っ掛かっているらしい。

いや、俺もどうかと思ったよ。


リマスさんが最後に話してくれた、同じ騎士隊の男性の天恵だ。

天恵の残り香を感知できる能力って話だったけど、名前のインパクトが

何もかも持って行ってしまう。本人どう思ってるんだろうなホントに。


「女王陛下の意向だし、その天恵の持ち主も了承の上らしいんだが。」


俺は、正直に今の気持ちを言った。


「何でそれを俺たちに明かしたか、ハッキリ言って分からないな。」

「そうだよね。」

「直接何かに関係しているとも思えませんからね。」


そう。

貴重な情報だとは思うが、その話を聞いたところで何の関係がある?

今回だって、この先に俺たちが関与するって訳じゃないだろうに。

陛下は何を思って、騎士隊の天恵をわざわざ開示したのだろうか。


しばしの沈黙ののち。


「ま、あんまり考えても答えなんか出ないと思うよ。」


そう言ったのはローナだった。


「どういう意味だよ。」

「マルニフィートにしても、今この瞬間その情報が直ちに必要になる…

なんて考えてないって事。つまり、ある種の予感とかじゃない?」

「予感?」

「そう。あくまでも単なる予感。」


怪訝そうなポーニーにそう返答し、ローナは両手を広げた。


「このお店は、今ではこの国の中のひとつの陣営と言ってもいい。」

「…………………………」


大げさな気がするが、否定できないのも事実だ。

だから黙って次の言葉を待つ。


「とりあえず、女王たちからは味方だと考えられている。その一方で、

完全にコントロールできる存在だと見なされていないのも事実よ。」

『でしょうね。』


ノートパソコンから、同意の言葉を発したのはタカネだった。


『こっちにはこっちの目的がある。女王の別動隊なんて感覚はないし、

今後も持たないだろうからね。』

「まあ…それはそうだけど。」


言い切るなあ、タカネも。

しかし、確かに俺たちは自分たちの目的を果たすために行動している。

陛下の意向に反する気はないけど、だからって配下になる気もない。

そこまで制御できないという事は、陛下もリマスさんたちも知ってる。

知った上で、この情報を「あえて」俺たちに話したという事なのか。


…………………………


うん。

何となく、意図が掴めてきた。

そういう事か。


「…お前らはお前らで、反目しない範囲で勝手にやればいい。その上で

騎士隊にこの天恵があるって情報を有効に活かせ。そんなところか。」

「でしょ?」

「へえぇ…何と言うか…」

「陛下らしいわね。」

「そうだな。」


実感のこもるネミルの言葉に、俺も大きく頷いた。


予知とか何とか、そこまで大げさな話だとは思わない。けど少なくとも

陛下たちは、今後の何かに対処するためにこの話を振ったのだろう。

俺たちがそれを知ってる事により、結果が変わるかも知れない…と。


これもまた信頼だ。背筋が伸びる。

たとえどういう事態になろうとも、軽く考えてはいけない話だろう。


「しっかり心に留めておこう。」

「うん。」

「そうですね。」

「そのくらいでいいんじゃない?」

『今後の事は今後の事ってね。』


あらためて、認識を統一する。


まだまだ事態は流動的だろう。まず今回の件がどういう結末になるか。

場合によっては、さらに厳しい話になっても不思議じゃない。ならば、

俺たちは俺たちでしっかりと情勢を見極めるだけだ。

まずは、ニセモノ教皇女がどういう展開を迎える事になるのか。



陛下たちの、無事を願うばかりだ。

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