表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
275/597

離宮に集う者たち

ロンデルンの王宮の歴史は長い。


歴史にあんまり興味がない俺でも、現存する最古の離宮が300年以上

前の建築物という事は知っている。このイグリセ王国では、長年に渡り

この地が首都だった証拠だ。たとえ都市名が何度か変わったとしても、

代々の王族はずっとここにいた。


一方、俺たちが通された第四離宮の歴史はきわめて新しい。と言うか、

改修の末に今の建物の姿が完成したのはわずか数年前だ。という事は、

マルニフィートの趣味がもろに反映されていると考えていいんだろう。

噂では、彼女の血縁者が設計を担当したとも言われている。

いずれにせよ、俺個人としてはこの新しい離宮の方がずっと好みだな。

古い建物に価値なんか見出せない。この辺はもう、感覚の問題だ。

贅沢をするにせよ、実際に住むならこういう近代的なのに限る。


思わず笑いそうになってしまった。

いかんいかん。いくら何でも、時と場所は最低限わきまえないとな。

たとえ想像でも先走るのは禁物だ。


そう。



結果がどう転ぶにしてもな。


================================


思ったほど調度は豪勢じゃないな。

これなら、聖都の大聖堂の方が金がかかっていたようにさえ思う。

まあアレは宗教的な建物だったし、威厳ってものを重視したんだろう。

でなきゃ、あの腰抜け教皇の個人的趣味だったかだ。


俺のすぐ前を歩くのは、天恵の力で教皇女に化けたミズレリ・テート。

何と言うか、実に堂に入ってるな。「我こそが教皇女!」という自信に

満ち満ちている。…正直、このまま後継者になってもいいってほどに。

もちろん、本人の才覚や度胸だけでここまでなり切れるわけじゃない。

ランドレ・バスロの天恵【洗脳】も併用し、精神的脆さを補っている。

とは言っても、ここまでやれるのは大したもんだ。


マルニフィートたちが、どのくらい俺たちを疑っているかは判らない。

聖都の制圧に関しては、可能な限り情報統制を行った。ロナモロス教の

関与を疑うところまでは行っても、確証まで掴まれる可能性は低い。


もちろん度の過ぎた楽観は禁物だ。うかつに踏み込んでしくじったら、

明確にこの国を敵に回す事になる。いずれはそうなるかも知れないが、

少なくとも今日、焦る必要はない。ここまで来ただけでも上出来だ。


そう。

俺やミズレリがここまで来た以上、ここまでは転移で侵攻できるという

条件を作れた…って事だ。展開次第では、今ここに魔鎧屍兵を召喚する

選択肢もある。焦る必要はないが、場合によっては大いにアリだろう。

……………………

いかんいかん。



焦るな、俺。


================================


それにしても、警備がシンプルだ。

さほど廊下は長くないのに、衛兵の立っている間隔がかなり長い。

警戒していないのか、あるいはその程度の戦力で十分と思ってるのか。

いや、違うな。

この時点で警備と言うか監視を厳重にすると、俺たちが警戒する。

あくまでも様子見だと言うのなら、むしろこのくらいがいいって事だ。


チラチラと天恵を盗み見たが、全員これと言って特殊なものはない。

ごくありふれていると言うか、宣告すら受けていないのかも知れない。

そりゃそうか。直属の部下とかならともかく、いちいち全員の天恵を

明らかにするってのは時代錯誤だ。求めるべきは本来の能力だろう。


そんな事を考えている間に、俺たち一行は突き当りにある扉の前にまで

案内されていた。


「どうぞ。」


先導していた女性が、自らその扉をゆっくりと開けていく。



さあ、いよいよだ。


================================


「…………………………?」


礼を済ませて顔を上げた俺は、怪訝な表情を危ういところで抑えた。


何だここは。

狭い。

部屋そのものが小さい。

離宮の外観の大きさから考えると、明らかに不自然と思えるほど狭い。

女王との謁見の間ってのは、もっと大きな広間でするんじゃないのか。


いや、別に適当な部屋に通された…という感じじゃない。間違いなく、

貴賓を迎えるための調度だ。そこに疑問の余地はない。ただただ狭い。

正確に言うと天井が低い。部屋の幅が狭い。大して奥はそこそこ長い。

これだと…


そうだ。

ここまで狭い空間では、人間よりも大きなモノがまともに動けない。

部屋の造りが頑丈で壁が崩せないとすれば、室内に入った時点で詰む。

前と後ろの出口を固めてしまえば、籠城する事も…


そんなはずはない。

今この時点で、魔鎧屍兵の存在まで想定しているなんて事は絶対に…


「お顔を上げて下さい。」



物思いは、柔らかな声の呼びかけで断ち切られた。


================================


俺は瞬間的に気持ちを立て直した。


明らかに考え過ぎだ。

魔鎧屍兵の存在を前提にするなど、どう考えても想定が間違っている。

俺たち自身がたった6人の使節団である以上、謁見の間が狭いからって

そこまで疑う必要はないだろう。


「お目通りの機会を頂き、誠にありがとうございます。」


動揺など全く感じさせない、堂々とした口調でミズレリが挨拶する。

実際、動揺などしてないんだろう。その怖いもの知らずには感服する。

顔を上げてみれば、待っていたのは間違いなく女王マルニフィートだ。

中央の椅子に腰かける彼女の前に、フルプレートの鎧を着た騎士が四人

左右対称の並びで立っていた。


なるほど、この四人が護衛の騎士隊という事か。思ったより少ないな。

顔は見えないし、体型も男女の差が出ないような構造になっている。

やはりこの立場の騎士ともなれば、気安く素顔は晒せないって事だな。


だが、そんな鎧など問題じゃない。

何気ない表情で彼ら四人の姿を視界に収め、俺は天恵を発動させる。



顔なんか隠しても無駄だぜ。


================================


一瞬だ。

女王とミズレリが話し始める前に、俺は四人の天恵を全て看破した。


両端の二人が、どちらも【騎士】。同じ天恵が並んでいるのを見たのは

これが初めてだ。意外といるんだなそういうの。

…そう言えば以前、どこかの領地で同じ天恵を見た事があったっけな。


左の騎士の隣の奴が【合気柔術】。右の騎士の隣が【犬の鼻】らしい。

どっちもよく分からん。と言うか、宣告を受けているか自体が怪しい。

いや、受けてないって事はないな。でなきゃ【騎士】が二人いる事実に

説明がつかない。これが偶然という事は絶対にないだろうから。


しかし、この四人は大した問題じゃない。

最大の関心は、俺たちのすぐ目の前で微笑む女王マルニフィートだ。


「ようこそお越し下さいました。」


相手を包み込むかのような、包容力に満ち溢れた声。受けたミズレリも

何だか見とれているように見える。…やっぱり俗物なんだよなコイツ。

あまりジロジロと見るのは失礼だ。だからほんの一瞬だけ目を向けた。

俺にはそれで充分だから。そして、見えた以上は言い訳も必要ない。


見えたんだよ、女王の天恵が。

はっきり【変身】と読み取れた。


おいおい、冗談じゃねえぞ。



()()()()()()()()()なんて、どんな茶番なんだよ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ