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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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謁見の日

「ありがとうございましたー!」


城の観光に来たらしい団体客が出ていくと、忙しさも一段落となった。

器をまとめて下げるネミルの目が、ふと壁掛けの時計の針に向く。

俺もポーニーも、図ったように同じ時計の針を見ていた。


「もうそろそろだね。」

「そうだな。」

「ですね。」


リマスさんの来店から数えて四日。つまり、まさに今日が謁見の日だ。

開始時刻も聞いていたから、何だか落ち着かないのは当然の事である。


もちろん、俺たち自身は何にも関与しない。と言うより、リマスさんに

「くれぐれも関わるな」と怖い顔で釘を刺されている。このあたりは、

おそらく女王陛下の厳命でもあるんだろう。情報を聞きに行け。ただし

絶対に具体的に関わらせるな、と。


リマスさんもシュリオさんも、多分陛下自身も。

俺たちに何が出来るかに関しては、今でも詳しく認識しているだろう。

「魔王」の天恵の能力も話したし、ポーニーの神出鬼没さなどは何度も

目の当たりにしている。トーリヌスさんを救出した際にも、それなりに

役に立ったという自負がある。


だけど「それはそれ、これはこれ」と言われれば頷くしかない。

拉致事件はあまりにも突然の事で、騎士隊も完全に後手に回っていた。

今さらな話だけど、あの時の交渉はかなり悲観的に進んでいたと思う。

恩人の危機にいてもたってもいられなくなり、俺たちはけっこう強引に

事件に関わった。当然リマスさんは俺たちにはいい顔をしなかったし、

信用を得るまでに時間もかかった。あれは本当に結果オーライだった。


しかし、今回は事情が異なる。

後手に回ったあの時と違い、陛下も騎士隊も迎え撃つ気満々である。


そりゃそうだ。

マルコシム聖教は、間違いなく世界最大の宗教である。しかし一方で、

どれほど大きくとも単なる宗教団体でしかない…というのも事実だ。

不意打ちの、しかも天恵を活用した侵攻に全く対処できなかったのも、

ある意味当たり前だ。教皇としても本当に予想外の事態だっただろう。


しかし、同じ事をイグリセの女王が許すわけには行かない。絶対に。

曲がりなりにも世界有数の大国たるこの国が、ロナモロス教を名乗る

無法者に蹂躙されていいわけない。そっちがその気ならやってやる、と

リマスさんも他の騎士たちも完全に腹を括っている。


この状況で、俺たちなんかにどんな出番があるってんだ。

いや、もちろん駒としての使い道はいくらでもある。それは陛下たちも

認めているだろう。指輪を着ければネミルも活躍できる。俺にもそれは

容易に想像できる。何だかんだと、今まで難局を乗り越えてきたから。

しかし、リマスさんはそんな徴用の提案は一切しなかった。

俺たちも、出しゃばるような提案はしつこく口にしなかった。


そう。

結局のところ、これも前にローナが言ってた事と同じだ。

出来るからと言って無闇に関わろうとする行為は、意図的ではなくても

神を気取った傲慢だ。渡せる限りの情報は渡したんだから、ここからは

陛下と騎士隊を信じるのみ。

俺たちは…


『あのう。』

「え?」

『すみません、トイレ…』

「あ、ハイハイ。」


音声ユニットから、実に遠慮がちなトモキの声が聞こえてきた。

そういや今日預かってたんだった。一瞬完全に忘れてたよ。


うん。

少なからず、肩の力が抜けた。



俺たちはこんな感じでいい。


================================

================================


ロンデルンの王宮。

その東側に位置している、もっとも新しい第四離宮。


マルニフィートとの謁見は、ここで執り行われる事となった。


「…まあ、妥当なとこだろうな。」


かしこまった礼服の着心地の悪さに耐えながら、俺はポツリと呟いた。

いい加減慣れてきているとは言え、さすがに女王との謁見に同行する…

というのは緊張する。一年前には、想像すらしなかった境遇だからな。


天恵が見えるから何だってんだ。

むしろそのせいで、俺の婆ちゃんは晩年を台無しにされてしまった。

ペテンじみた小遣い稼ぎは、世の中に対する俺なりの復讐でもあった。

嘘を言ってるんじゃないんだから、ローナの怒りを買う道理もない。

天恵宣告がすっかり廃れた時代を、俺は間違いなく嘲笑っていたんだ。


だけどそんな俺が、同じく衰退したはずのロナモロス教に拾われて。

あれよあれよという間に様々な企てに加担し、地位を築いていった。

宗教団体とは名ばかりの、きわめて危険な過激派集団であるこの教団。

既に人死にも出ている。もちろん、俺が直接関わったわけではない。

しかし、もうそんな浅い言い訳などできない。そのくらい俺は教団内で

様々な暗躍に関わっている。


後悔?

ないね、これっぽっちも。


決定的な失敗がなかったというのも理由だろうが、悔いた事などない。

俺は自身の天恵を活かせる場所で、存分に力を使っているだけだから。

俺を悪と言いたいなら言えばいい。別に肯定も否定もしないから。

声高に糾弾する奴がいるなら、逆に問い返してやるよ。


そういうお前はどうなんだ。

善なる存在なのか

俺とは違う悪なのか


それとも

どっちにも属しない


どうでもいい存在なのかと。


ただ生きてるだけなんてのは、今もこれからもまっぴらだ。

悪だろうが何だろうが、女王陛下に会えるまでになり上がったんだ。

これから先も突き進んでやるよ。



天恵【鑑定眼】を武器にしてな。


================================

================================


来たぞ、気配を消せ。

…………………………


よし。

どうだシュリオ?


……………………………………………………


いました。

奴です。


教皇女のすぐ後ろの男か?


そうです。

見間違えようがない。


やはり、リマスの聞いてきた情報が当たったか。

正直、少し驚いたな。


ええ。

心して下さい。


あいつがオレグスト・ヘイネマン。



【鑑定眼】の天恵の持ち主です。

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