表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
27/597

魔王という名の天恵

正直、俺はずっと自分に宣告された天恵を怖れていた。それは事実だ。

もちろん「魔王」なんていう物騒な名前が怖かったのもある。だけど、

本当に怖かったのは名前じゃない。


どういう形で発現するのか。そして具体的にどんな力を発揮するのか。

それが不明だったからこそ、ずっと怖いと思い続けていたんだ。


何よりも怖いのは「知らない」事。ずいぶん昔に、ルトガー爺ちゃんが

言った言葉だ。当時は意味が分からなかったけど、今なら分かる。


そうか。

こういうものだったのか。


================================


「…これ、トランがやってるの?」

「ああ。何か見えるか?」

「ううん全然。ただ動けないんだなってだけ。どうやってるの?」

「説明が難しいな。」


俺はネミルに、そう正直に答えた。はっきり言って手探り状態だから。

説明してくれる人間などもいない。これはもう自分で調べるしかない。


「…さて、と。」


俺は、未だに目しか動かせない5人に向き直った。怯えてるのが判る。


まあ、こいつらがどう感じているかなど、至ってどうでもいい事だ。

今の俺にとっては、この状況は実に都合がいい。魔王の天恵について

存分に検証させてもらおう。


「ネミル。」

「うん?」

「お前、二階に行ってろ。それ…」

「いや何でよ!」


食い気味に遮ったネミルの表情は、俺に対する懸念に満ちていた。


「こんな変な状況でほっとけるワケないじゃん!何を考えて…」

「分かった分かった。んじゃあ…」

「何よ。」

「とりあえず入口だけ閉めてこい。誰か入ってくると困るから。」

「え?…ああ、うん。」


いまだ怪訝そうながらも、ネミルは指示通り「営業終了」の札を持って

入口に向かう。その背を見ながら、俺はあらためて考えを整理した。


思いもかけない形で、自分の天恵がどう発動するのかが分かった。

しかし、まだまだ情報が足りない。だからこそ今のこの状況を最大限に

活用すべきだ。


そう、ネミルの反応も含めて。


================================


さて。

今にも降りそうな窓の外をチラッと一瞥し、俺はあらためて5人の方に

目を向けた。相変わらずピクリとも動かない。目だけを動かすものの、

俺を注視するような感じでもない。意識があるのかも定かでない。


「それでどうするの?」

「実験台にする。」

「え!?」

「一輪挿しの報いだよ。」

「あ…そ…まあ…うん。」


やっぱり怒っていたらしい。意外とあっさりネミルは引き下がった。

まあ、別にそれほど無茶苦茶な事をさせるつもりはない。

まずは名前を知っている、赤い髪の取り巻きに目を向け命令してみる。


「おいナルパ。」


呼びかけると、ピクリと反応する。どうやらちゃんと聞こえるらしい。


「右隣に立ってる奴の脇腹、全力でぶん殴ってみろ。」

「ちょっ!」


ドスッ!!


止める間もなく、ナルパのパンチが隣の黒髪の脇腹に突き刺さった。

ひゅっという声を漏らしたものの、殴られた黒髪はやっぱり動かない。

倒れたくても、今のままでは倒れる事さえ出来ないんだろうな。


「何させてんの!?」

「俺が殴られた分の報いだよ。」

「えぁ…ああ…うん。」


相変わらず、ネミルはチョロい。


我ながら魔王に染まってきていると思うけど、別に楽しくてやっている

わけじゃない。この機会を最大限に活用したいだけだ。何と言っても、

俺に対しあれだけ悪質極まる因縁をつけてきた奴らなんだから。


とりあえず、思い通りに動かせるという事が判明した。我ながら何とも

凄い力だ。と同時に、ためらいなく使ってる自分にもちょっと驚く。


さすがは魔王だな、と。


================================


目の前のこの状況を、いかに多角的に把握するか。それが大切だ。

動けなくなったランボロスたちは、確かに異様としか言いようがない。

だけど、それと同じくらいに重要な要素がここにある。


ネミルが何の問題もなく動けているという事実だ。当たり前のようで、

これも絶対見落としてはいけない。ランボロスたちとネミルの違いは、

果たして何なのか。


…と言っても、正直それは既にほぼ判明している。確信も持っている。

俺にだけ見えていて、今なお目の前の5人の動きを封じている黒い影。

俺の目にははっきり見えているが、これは現実の物質じゃない。


おそらくこれは「俺への悪意」だ。

ネミルが天恵を見る事が出来るのと同じように、俺は自分に向けられた

悪意を影として視覚の中に捉える事が出来る。もちろん、他の人間には

いっさい見えないんだろう。そして魔王の天恵は、それをまとう人間の

意識と体を支配できる。現時点で、そこまではほぼ確信を持っている。


なぜそう思ったかは、実に簡単だ。


同じようなトーンで「二階に行け」と命じたのに、ネミルはその命令を

完全に無視した。いや無視できた。それは影をまとっていないからだ。


つまりネミルは、俺に対して悪意を持っていない。だから操られない。

今日まで「魔王」が発現しなかったのも、明らかな悪意を持った人間が

自分の目の前に現れなかったからと考えれば、そこそこ納得できる。

内的な感覚からも、この想定がほぼ合っているという確信が持てる。


こいつらは、明らかに俺とネミルを害するつもりでここに来た。だから

最初から黒影をまとっていたんだ。


「…よし。」

「え、どうするの?」


「もう少し検証だ。今度はもっと、重要な部分を探る。」

「あんまり無茶な事しないでよ。」

「大丈夫だって。俺を信じろ。」

「う…うん。」


そう、信じろ。

この俺を。


そして、この魔王を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] それがファイナリティという力なのかもしれない! [気になる点] なんと素晴らしい祝福でしょう私もそれを受け取りたいです [一言] 将来は有望です...
2024/02/16 00:44 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ