表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
265/597

スパイミッションは面白く

人間、何がきっかけでどう変わるか分からない。自分も例外じゃない。


人に厳し過ぎるとか融通が利かないとか、今まで散々言われてきた。

もちろん自覚はあったけど、だからと言って正そうとも思わなかった。

いや、それ以前に間違っているとも思っていなかっただろう。そして、

今もその思いは変わっていない。

女王陛下直属の騎士隊の一員。その肩書きは決して軽くない。だから、

限りなく厳しい生き方を心掛ける。間違ってはいないはずだ。


だけど。

そんなあたしも、きっかけがあれば変わる。



ほんの少しであっても。


================================


電話を受けた時は正直、何の話かと思った。相手がノダさんである以上

おふざけではないだろうけど、内容そのものはかなりふざけていた。

だけど陛下の安全に関わる話なら、知らん顔など絶対に出来なかった。

…………………………

というのは建前だ。

会って話を聞こうと思った理由は、そんな真面目なものじゃなかった。

ただ面白そうだと思ったから。口が裂けても公言出来ない本音だけど、

本当だから仕方ない。

こんな風に考えるようになった原因は、間違いなくあの時の体験だ。

実存したホージー・ポーニーとの、奇天烈な共同戦線。価値観が変わる

きっかけとしては、あまりにも十分過ぎたと今でも思う。


あの時の感覚が、もしかしたらもう一度体験できるのかも知れない。

そう考えた瞬間、もう関わる決心はついていた。いささか独断専行の

様相もあったけど、別に構わない。解決しちゃえばこっちのものさ。


…こんな考え方、以前のあたしなら絶対にしなかっただろうなあ。



良いんだか悪いんだか。


================================


おふざけ気味の電話をオラクレールにかけて、いささか呆れられて。

それでも協力を快諾してもらって、今に至る。

面と向かって聞いてもなお、現実味に欠ける妙ちくりんな話だ。でも、

天恵が一枚噛んでいる話なら、看過する事は絶対に許されない。


…しかし、マルコシム聖教の教皇女ってこんなに面白い子だったのか。

何となく、傲慢なイメージを勝手に抱いてたけど。実に失礼でしたね。


と言うわけで、本題。


「じゃあ行ってきます。」

「お気をつけて。」


「行く」というのは、海の向こうのタリーニ王国の教皇女の部屋にだ。

何度見ても、この「本のある場所に転移する」という能力はあたしの

理解を超えている。さすがは作者の天恵の化身といったところか…。


ちなみに王宮を出る前に、外交課に問い合わせて教皇女の直近の予定を

調べている。もちろん他国の人間が調べられる情報はたかが知れている

だろうけど、少なくとも彼女が今、聖都にいない事だけは確認できた。

まさに外遊の真っ只中だろうから、自室にいるという可能性は低い。

女王に会いたいとまで言うのなら、そもそも聖都でじっとしていないと

考えられる。詳しい事情を聞けば、そのあたりも見えてくるだろう。


「それでも危険では?」


アースロという教皇女の護衛がそう懸念を述べた。確かにその通りだ。

いきなり転移で乗り込んでいって、誰かと鉢合わせになったりすれば

下手すりゃ大問題になるだろう。


しかしその点においても、ポーニーは実に便利である。というのも、

彼女は目指す場所に直接転移するのではなく、本の世界から行くという

中間の段階を経る。つまり、事前に向こうの状況を確認してから現出…

という手順を踏めるのである。


いやあ…



諜報部に欲しい逸材だよ、ホント。


================================


冗談はさて置き。


「どうですか?」

『ありました全巻。』


質問と答えが噛み合ってないけど、教皇女の住まいは見つけたらしい。

つまり、少なくともその段階までは本当だという事か。

ちなみに教皇女もアースロも、ただ訝しげな表情を浮かべているだけ。

この様子からして、文庫本から届くポーニーの声は聞こえていない。

確かこれ、それなりに繋がりのある相手にしか聞こえないんだっけか。

同じ愛読者として、妙な優越感。


…………………………


ますます冗談はさて置き。


「行けそうですか。」

『ええ。室内に人はいませんね。』


落ち着いたもんだなあ。不法侵入も甚だしい危険行為なのに。

でもまあ、王立図書館と比べれば、それほど大した事でも無いのかな。


…いやいや違う。そんなはずない。

マルコシム聖教の教皇女と言えば、世界でも有数の重要人物だろうが。

確証はこれからだけど、本当ならばかなりシャレにならない行為だ。

話を信じてなかったわけでは決してないけど、それでも頭のどこかで

現実だと認識していなかったのかも知れない。本当に今さらだけど。


どうする。


今ならまだ引き返せる。

とりあえず彼女たちの話を信じて、それなりの警戒をする事も出来る。

でもその場合、真偽が不明確なままの二人はどういう扱いになるのか。

下手すれば、投獄して様子を見る…という選択もあり得なくはない。

あたし個人としては、そんな強引な行為は避けたい。もしも本当なら、

リスクを省みず警告しに来てくれたって話なんだから。


だけど、現状はなおも不確定要素が多い。このまま突き進むのは…


『入りました。』

「えっ?」

『わー、大きいベッドですね。』

「…………………………」


入っちゃったよあの人。

あれこれ考えたのは何だったのか。


以前なら、判断が早過ぎると苦言のひとつも口を突いただろう。

でも今は、むしろ笑いを堪えている自分にちょっと驚いている。

まあいいや、ってね。


「室内に入ったそうです。」

「えぁ…そ…そうですか。」


あたしの言葉に対し、何とも微妙な表情と言葉を返す自称・教皇女。

自称を取るために必要だとはいえ、嫌なんだろうなぁ部屋見られるの。

お気持ちはお察しします。


面白いなあまったく。



さあ、いよいよ本題だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ