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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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遠き街からの出前依頼

「世界の連鎖崩壊…」


洒落にならない表現が出てきたな。もはや、死に戻りを軽く超えてる。

いくら恵神ローナでも、世界を跨ぐパラドックスには対応できないって

事なんだろう。正直、俺たちが関与していい話かどうかも疑わしい。


でも、そうも言ってられないよな。


「まあ、そんな事にならないように気をつけろって話だろ?」

「そう。まあそもそも、トモキ一人の問題がそこまで大きくなるとは

思わないけどね。」

「それでも心しようぜ。」


俺は、声に力を込めた。


「いくら約束した事だと言っても、世界を崩壊させるなんて論外だ。

俺たちがそれを自覚して事に臨ん」


ジリリリリリリン!!


「…………………………ッ。」


甲高い電話の音に、勇んで放つ言葉が宙ぶらりんになってしまった。

形容しがたい気まずさの中で、俺はそそくさと受話器を手に取る。


仕方ないんだよな。


俺は冒険物語の主役でもなければ、誉れ高き騎士の末裔とかでもない。

ただのしがない喫茶店の店主だ。

どんなにスケールの大きな話を神と一緒に進めていても、自分の仕事を

おろそかにすると食べていけない。



水商売のつらいところだ。


================================


「はい、オラクレールです。」

『すみません出前お願いします。』

「ああ…はい。」


そして出前かよ。

文句を言うのは筋違いだろうけど、せめて話が終わってからの方が…

いいやもう。仕事仕事。


「承りました。どちらまで?」

『ロンデルンまで。』

「は?」


露骨に声が不機嫌になったけれど、さすがに悪いとは思わなかった。


何だこれ、イタズラ電話か?

鉄道で片道6時間かかる首都まで、わざわざコーヒーを運べってのか?

今になって余計に腹が立ってきた。が、どうにか理性的に応対する。


「ええと、どこにお掛けか理解してらっしゃいますか?」

『もちろん。ミルケンの神託カフェ「オラクレール」ですよね?』

「…………………………」


それを知っててこの電話なのかよ。ってか、誰なんだよこの女は。

ふと気配を感じて振り返ると、場の皆が興味深げに俺を注視していた。

いや、こっち見るな気まずいから。


しかしこの女の声、どっかで聞いた事がある気がするな。…誰だっけ?

こうなりゃ、話だけ合わせて正体を焙り出してやる。


「ところで、ご注文は?」

『店員さんの派遣で。』

「は?」


何を言ってんだこいつは?


『そちらでアルバイトとして働いている、ホージー・ポーニーさん。

彼女をよこして頂けます?』

「…………………………」


何だろう。

めちゃくちゃな事を言ってるようでいて、ヒントの塊みたいな注文だ。

こんな事を堂々と言える女性って…


あ。


「ひょっとして、リマスさん?」

『正解ー!!』

「ええー…」


色んな意味で予想外過ぎるぞこれ。

どうしてこの人が…って言うか…



この人、こんなキャラだったっけ?


================================


この怪し過ぎる注文電話の相手は、リマス・カットンさんだった。


女王マルニフィート陛下の直属部隊である、騎士隊のアタッカーだ。

かつてトーリヌスさんが拉致された際、シュリオさんと共に強行救出を

命じられていた。たまたまその時、俺とネミルがロンデルンにいたため

二人とノダさん、そしてポーニーも加えた面々で救出作戦を展開した。


確かこの人、【合気柔術】とかいう異界の知に類する天恵の持ち主だ。

文字通りの武闘派で、イタズラ電話なんかする人ではなかったはず…


『もしもし聞いてます?』

「あっ、はい。」


意識がどっか行ってたな、俺。


『そういうわけで、ポーニーさんに替わって頂きたいんですけど。』

「いや、ちょっと待って下さい。」


いくら何でも話が急過ぎるんだよ。はいそうですかと替われるか。


「そもそもどうしてポーニーを?」

『込み入った都合がありまして。』

「と言うと?」

『あまり、ご本人以外にお話したくないんですが。』

「…………………………」


俺は、ちょっと黙った。

チラと見てみれば、当のポーニーも興味津々といった顔をしている。


確かこのリマスさんはポーニーの、もとい彼女が登場するあの小説の

大ファンだったはずだ。とすれば、さほど不穏な話ではないのだろう。

とは言え、今ここにいるポーニーが何であるかを知った上で呼び出す…

というのはかなり特殊な話になる。もしかしたら厄介事かも知れない。


しかし、彼女の立場を考えれば少し事情も変わってくる。何と言っても

女王直属の騎士だ。扱う事件なども特殊なのは、ごく当たり前だろう。

とすれば、俺に話せない理由も割とガチで特殊なのかも知れない。

それこそ、下手に首を突っ込まない方がいいってくらいの。


そして。


「分かりました。お待ち下さい。」

『ありがとう。』


この俺がしつこく訊く話じゃない。そう結論付けた俺は、ポーニーに

受話器を渡した。


「騎士隊のリマスさんだ。」

「あっハイ。…意外な人ですね。」

「確かにな。」


君もやっぱりそう思うかと笑いそうになった。


「はい、お電話替わりました。」

『ご無沙汰しております。騎士隊のリマスです。すみません急に。』

「いえいえ、それは別にいいんですけど…何があったんですか?」


聞き耳を立てても、向こう側の声が聞こえなくなった。ひそひそ話だ。

何だか、当のポーニーもかなり変な顔してるな。


そして。


「では、すぐに伺います。」


おっと、結局そんな話になったか。まあ予想はしていたけど。

替わろうかとポーニーが俺に無言で問うが、俺は首を横に振った。

言いたくない…とリマスさん自身が言った以上、それは尊重すべきだ。

ひとまず今は彼女を信じよう。


チン!


電話を切ったポーニーは、俺たちの方に向き直って告げる。


「王宮でちょっとトラブル発生したそうなので、行ってきます。」

「今からか?」

「はい。」


ずいぶんと急な話だな。


「どういう話だった?」

「あたしのニセモノが出現したからどうとか、そんな感じですね。」

「ニセモノ?」


思った以上に変な話だった。でもまあ、戦争とかじゃないならいい。


「じゃ、気をつけて行ってこい。」

「はあい!」


元気よく答えたポーニーは、店内の本棚からハードカバー版の小説を

いそいそと取り出した。


「では行ってきます。」


シュン!


余計な事は言わず、ポーニーは一瞬でその姿を消した。

ほぼほったらかし状態だったネミルとローナが、今さら声を上げる。


「何だったの一体?」

「あの子が必要って、よっぽどの話なのかも知れないわね。」

「ですね。」


ネミルの問いには答えず、俺は肩をすくめる。



ま、こっちはこっちで小休止だ。

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