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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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俺のネミルに触るな

状況は、どこまでも悪かった。


こいつらは明らかに、俺とネミルに因縁をつける気で来ている。

対応を間違えれば、こちらが怪我を負う事態にさえなり得るだろう。

客観的に見ると、暴力で勝てそうな奴は一人しかいない。しかもそれは

ランボロスじゃない。取り巻きの中でも一番下っ端っぽい奴だ。


非常に情けないけど、それが現実。

俺の腕っぷしなんて、その程度だ。


どうにかして、被害を出さないよう立ち回って帰らせるしかない。


================================


「…ご注文は。」

「実に商売熱心だねえ。古い友達がわざわざ訪ねてきたってのによ。」


ガチャン!!


言い終わると同時に、テーブルの上の一輪挿しが床に落とされ砕けた。

それを目にしたネミルが、トレイを胸元で握り締めて唇を噛む。


テーブルに花を置きたいよね!


そう言って俺を誘い、わざわざ隣の街まで買いに行った一輪挿しだ。

何でこんな奴らに、何の理由もなく壊されなきゃいけないんだ。


「悪い悪い。まあ気にすんなよ。ワザとじゃねえから。な?」


はらわたが煮えくり返った。でも、ここで手を出すわけにはいかない。

ランボロスは都市総代の甥っ子だ。こいつの言った事は、まかり通る。

どちらに非があろうと、俺たちではその現実は絶対に覆せない。

何より、もしここでうかつに挑発に乗って乱闘なんか始めたら。

絶対にネミルが怪我をする。

ただひたすら、耐えるしかない。

奴らが、飽きて立ち去るまで。


どうしてこんな事になってるんだ。

そして、あいつらの影は何なんだ。ますます濃く、禍々しくなってる。

ひょっとすると、ネミルにも見えているんだろうか。

怯えの表情を浮かべている事までは判っても、それ以上は読めない。



無力な自分が情けなかった。


================================


「それでマグポットよぉ。」

「…何です。」

「お前、うまいことそいつを自分のモノにしたらしいじゃねえか。」

「………………」


吐き気がした。

やっぱりこいつらは、それを知った上でここに押しかけてきたのか。


「老いぼれの神託師に取り入って、まんまと女と家を手に入れたかよ。

やるねえ。俺も見習いたいぜ。なあみんな?」

「確かにうまい手だ。」

「俺ももう少し知恵が働いてたら、今頃ここが手に入ってたのにな。」

「うらやましい話だぜ本当に!」

「先輩って呼んでいいッスかね?」


下卑た笑いが重なる。


そろそろ、我慢の限界だった。

俺の事はまだいい。しかしネミルと爺ちゃんを侮辱するのは許せない。

それでも、手を出したら負けだ。

俺はネミルとこの店を、何が何でも守ると爺ちゃんに…


「それはそうとお前、もうそいつに種は仕込んだのか?」

「…何だと?」

「どうやら、まだらしいな。」


言いながら、ランボロスはニイッと笑って立ち上がった。

取り巻きたちも含めたその視線が、迷いなくネミルに向けられる。


「ま、お前みたいなガキじゃろくにリード出来ねえよなぁ。」

「何を言って…」

「だぁからよ、察しが悪いってんだマグポット!」


そう言い放ったランボロスの手が、ネミルの腕を無遠慮に掴んだ。


「ガキ同士じゃ埒が明かねえだろ?…だったら俺たちに任せろってよ。

こいつにしっかり仕込んで、お前をリードできる女に仕立ててやるよ。

悪い話じゃねえだろ?感謝しろよぉマグポット!」

「てめぇ!!」


限界だった。


こいつの闇は、底が見えない。


================================


ガシッ!!


駆け寄ろうとした俺は、カウンターを出た瞬間に羽交い絞めにされた。

どう考えても、ここで俺が激昂する事を想定していたとしか思えない。

待ち構えていた取り巻きの二人が、俺の腕を左右から押さえていた。


「おォいおい、何を怒ってんだよ?感謝するとこじゃねえのか?」

「ランボロス…お前……!!」

「誰を呼び捨てにしてんだお前?」


ドスッ!!


「ぐっ!!」


いきなり顔を歪ませたランボロスの拳が、俺の左脇腹に突き刺さった。

息が詰まり、視界がかすかに歪む。傷を残さないように体を殴るか…!


「トラン!!…痛ッ!!」


身をよじるネミルが、腕を捩られて悲鳴を上げる。


「安い女に何を猛り狂ってんだよ。ちょっと金出しゃあ、もっといい女

いくらでも抱けるんだぜ?もう少し大人になれやマグポット。」


ゆっくりと言いながら、ランボロスは空いた手で俺の髪の毛を掴んだ。

なおもまとう黒い影が、指を伝って俺の髪にじわじわと滲み込む。


「ってわけだ。黙って見てろ。」


俺の頭から手を離し、ランボロスがネミルの顎を掴んで上を向かせる。

ゆっくりと顔を寄せるその様を見た俺の中で、何かが切れた。


いや、違う。

俺の中に、一つの確信が生まれた。


頭から滲み込んできた、こいつらのまとう黒い影。

その正体が、理屈ではなく肌の感覚で理解できた。そして確信した。


顔を上げて、俺は叫んだ。



「動くんじゃねえ!!」


================================


ビシィッ!!


黒い影は、そのまま結晶と化した。


「…!?」


ランボロスもその取り巻きたちも、結晶に固められた状態で硬直した。

声を上げる事もなく、ただ目だけをぎょろぎょろと動かしている。


「な、何!?」


動かなくなったランボロスに右腕を掴まれたまま、ネミルが俺を見る。


「これ、どうしたの!?」

「ネミルを放せランボロス。」

「うぁっと!」


いきなり腕が自由になり、ネミルがたたらを踏む。はずみで反対側に

立っていた男にぶつかるも、その男も微動だにしなかった。


「お前らも放せ。」


言うと同時に、俺の腕を掴んでいた二人もパッと手を離した。


「………………!!?」

「こっち来い、ネミル。」


手招きする間もなく、ネミルが俺の傍らに駆け寄って袖を掴んだ。


「大丈夫だったか?」

「う、うん。…だけどこれって…」

「分からないか?」

「え?」


俺の顔を見上げたネミルが、ハッと何かを察する。

おそらく、俺のこの目に「何か」を見たんだろう。

…何色に光ってるんだろうな。


ああ、やっと理解した。

あの禍々しい黒い影は、ランボロスたちが自分で放ってたんじゃない。

「俺だけが見ていた」んだ。


触れた事で確信が生まれた。

これは俺の天恵。



「魔王」の力の発現なんだと。

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