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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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見えてきたその姿

あの日の事は忘れられない。だけどその反面、正確に思い出せない。

それほどまでに、聖都陥落は理解を超えていた。


愚かと言われるかも知れないけど、あたしにとってのマルコシム聖教は

あまりにも当たり前の存在だった。教皇女という生まれ持った身分も、

疑う余地のないものだった。少なくともあたしは、「そう考える事」を

許された存在だったのだ。


だからこそ、あまりに呆気ないあの蹂躙が理解できなかった。

気付けば大聖堂は占拠されていて、衛兵も完全に無力化されていた。

別の建物にいたあたしは、まともな情報すら得られなかった。

聞かされたのは結果だけ。そして、ここから逃げろと言われて終わり。

もしあの時、あのまま囚われる道を選んでいたら、どうなっただろう。

それはもう、あたしなんかの想像をはるかに超えている。


だって、当たり前のようにあたしのニセモノが用意されたんだもの。

正直言って、そこまで周到な準備をしているとは夢にも思わなかった。

いや、それが「できる」という事実そのものが見識を超えていたんだ。


これが天恵の成せるわざなのか。

アレを目にしたからこそ、あたしは迷わず聖都と身分を捨てて逃げた。



そして今に至る。


================================


図らずも、何度も遭遇した。最後はイグリセに渡る船に同乗までした。

道中ずっと息を詰めていたけれど、結果的にかなり相手を観察できた。

つまり、ロナモロス教の人間たちの特徴みたいなものを。


あたしだって、何にも考えないままこの歳まで育ったわけじゃない。

世界中に信者を持つマルコシム聖教の頂点に、いずれ立つ身という事は

しっかり自覚していた。それこそ、物心ついた頃から。


もちろん、それほど多くを誰かから求められた訳じゃない。そんなのは

現役バリバリの父の役目だったし、あたしはせいぜいマスコットだ。

それでもあたしは、人を観察する事に幼い頃から注進していた。

清い人も穢れた人も、あらゆる人が信仰の名のもとに聖都を訪れる。

数え切れないその人たちを観察する行為が、あたしには楽しみだった。


だからだろうか。


いつしかあたしは、宗教ってものを一歩引いた目で見るようになった。

マルコシム聖教かロナモロス教か。その違いさえも、客観視していた。

極論、どっちでもいいじゃないかという考えさえ持っていた…と思う。

恵神ローナが実在しているって事は明らかなんだし、どちらの教義でも

その存在は否定していない。明確な違いは、天恵に対する解釈だけだ。

何と言うか、同じ考えを無理矢理に分けたような感じさえあった。


それが宗教だと言われれば、もはや返す言葉もないけど。

少なくともあたしは、ロナモロス教に対し反感なんか持ってなかった。



あの日までは。


================================


何度かの遭遇により、あたしなりに感じたロナモロス教団の印象。


そこに、敬虔さは存在していない。

口ではローナを崇めている感じではあるけど、その信仰心はどこまでも

形骸的だ。彼らにとってローナは、「天恵を授ける存在」でしかない。

200年前のデイ・オブ・ローナを境に衰退したロナモロス教だけど、

それは単なる社会的風潮の結果だ。別に信心が失われたわけじゃないし

まして天恵が消えたわけでもない。ローナの在り方は変わっていない。

彼女の怒りを怖れた人間が、勝手に天恵から遠ざかったってだけだ。

昔のロナモロス教が衰退したのは、決して神という概念に変化があった

からじゃない。語弊はあるけれど、ただの自業自得だったはずである。


なら、今の彼らはどうなんだろう。


聖都を訪れた教主や副教主たちには直接会っていない。少なくとも、

あたしが彼女たちについて言える事はない。結果だけが判断基準だ。


だけどここに来るまでに遭遇した、教団の人間の印象はかなり違う。

彼らはローナを崇拝してはいない。救世を目指している訳でもないし、

もう一度ロナモロスの教えを世界に広めよう…という信念すらもない。


彼らにあるのは、己の力への依存。得た天恵で何が出来るか、ひたすら

それを追及しているような感じだ。宗教団体というより、活動家集団。

天恵を、神からの授かりものだとは思っていない。完全に己の力だと

信じ、明らかに何かの目的のために多人数で連携して使っている。


しかし、どうしてそんなに都合よく有用な天恵を得られるのだろうか。

天恵は絶対に選べない。とすれば、人間を選んでいるという事なのか。

誰がどんな天恵を秘めているかを、見抜ける人間がいる…という事か。

もしそうだとすれば、ロナモロスがこれほど「実動」に特化した集団に

なっているのも頷ける。最初から、使える人材しか集めないって事だ。

天恵から運要素を排除できるなら、おそるべき異能集団だって作れる。


だけど、それを止める道理が本当に存在するのだろうか。

目的が何であれ、自分が得た天恵をどう使うかは本当に本人の自由だ。

徒党を組もうが侵略行為を行おうが国を乗っ取ろうが、それは恵神への

背信行為とまでは言えないだろう。マルコシム聖教の教義においても、

ローナや天恵をそこまで厳格に定義しているわけじゃない。


見方次第で、正義も大義も変わる。誰から見ても正しい行いなんてもの

存在するわけない。マルコシム聖教でも、完全かつ純粋な宗教なのかと

問われれば地味に答えに詰まる。


かなり言い訳じみてるけど、あたしがこうして呑気してる理由もそこに

あるのかも知れない。確かに理不尽な蹂躙が行われたけど、結果として

世界が少し良くなるなら別にいい。父が殺されたりなんて事、さすがに

そうそう起こり得ないだろう。なら極論、このままでも悪くない。


だけどね。

そんなあたしにだって、見過ごせる限度ってものは存在してるんだよ。


あたしの姿をした誰かが、この国の女王に拝謁して何をするってんだ。

聞いた感じ、挨拶してごまかして…というだけじゃないのは分かる。

もし聖都と同じような事をされたりしたら、このイグリセはどうなる。



何より、あたしの立場はどうなる。


================================


これを運命の導きだと言うのなら、その担い手はアースロだろう。

いつだって、こういう危うい場面にあたしを導いてきたのは彼だから。

さすがに恵神ローナの導きだと思うのは、立場的にも問題があるよね。


とりあえず、何でもいい。


今ここにあたしがいる事。そして、そのあたしの後ろにロナモロス教の

幹部がいる事。馬鹿げた状況と思うのは当然だけど、もう気にしない。


あたしたち二人に出来る事なんて、本当にちっぽけだろう。

だけど、少なくともできる事だけはしよう。と言うか、こんな状況じゃ

さすがに知らんぷりなんて無理だ。最低限、濡れ衣くらいは避けたい。


対面のアースロも、どうやら覚悟を決めてくれたらしい。

よし。



レッツ盗聴タイムだ。

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