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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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呑気な旅も程々に

自分でも思うけど、あたしは意外と呑気な性格の持ち主だ。

よく言えば大らかなんだろうけど、ぶっちゃけ危機感が足りていない。

もちろん深刻な事態が起きた時には深刻な気分になる。怖い目に遭えば

震え上がるし、眠れなくなるって事もある。


だけど、長続きしない。


どんなにショックな事があっても、数日もあればケロッと立ち直る。

たとえ問題が解決していなくても、まあ何とかなるわよと割り切れる。

誰に似たんだろうか、この性格は。


確かに、マルコシム聖教の後継者である皇女の地位にはいたけれど。

そんなに過保護に育てられた訳でもないし、贅沢にも割と無縁だった。

特別扱いはされていたものの、別に世界から隔絶されていた事もない。

あたしって、客観的に見るとやはり変り者なんだろうか。



自分じゃ分からないんだよ、正直。


================================


イグリセ王国に無事入国を果たしてから、四日が経過していた。

さいわい、あたしもアースロもこの国の言葉には堪能だ。怪しまれずに

旅をするのに、何の不都合もない。その点は子供の頃の教育に感謝だ。


だけど、憂いごとが何も無いというわけじゃない。むしろこの逃避行が

始まる前から、避けられない問題として目の前に横たわっていた。



そろそろ、所持金が心許ない。


================================


もちろん、まだしばらく大丈夫だ。

あたしは、別に王族とかじゃない。いくら信者の数が多くても、宗教の

象徴である身で贅沢は許されない。その点は父もきっちり線引きした。

だから、食事にも宿にもあまり文句は言わない。むしろ粗末な宿とか、

逆にテンション上がったりもする。……やっぱり変わり者なのかなあ。


もちろんアースロも同じ。もっとも彼の場合、性格か教育の結果かは

判断できない。何と言うか、禁欲的な立ち振る舞いをしている感じ。

やっぱり、彼なりにあたしと二人で旅する責任を自覚してるんだろう。


結果的に、日々の出費はそれなりに抑えられている。本当に必要なら、

野宿もやむなしだ。正直そういうの個人的に好きだし。だから今後も、

切り詰めればまだしばらく大丈夫と確信している。


でも、やっぱり時間の問題だ。

どんなに出費を抑えても、いつかはすっからかんになる。そんなのは、

子供でも分かる理屈である。いくらあたしが呑気でも、来たるその日を

何の備えも無しに迎えようなどとは思っていない。


かと言って、いきなりこの国で働くというのは現実味がない。…いや、

別に働くのはいいんだけど。むしろ社会経験として興味あるんだけど…

…………………………


さすがにそんなことしてる場合か?という自問が心に湧き上がる。

聖都の乗っ取りから、間一髪逃れて来たというのに。

呑気に就職とかして、もしそのまま居心地良くて落ち着いてしまえば。

命がけであたしを逃がしてくれた、ゼノにとことん恨まれるだろう。

呑気に旅しているけど、あたしたち二人は今も逃亡者だ。だとすれば、

最低限の深刻さは必要だ。でないと何と言うか、カッコがつかない。


だけど、じゃあ実際どうしようか。



ちょっとアースロと相談だ。


================================


「そうですね。いつお金が無くなるかと、ビクビクしておりました。」

「だったらちゃんと言ってよ。」


大きな公園の東屋で、今後の方針を本格的に検討する事にしたけど。

今さら弱音を吐くアースロに対し、あたしは不毛な文句を口にした。


いや、不安だったなら態度に出してくれないと困るよ。

いつも泰然としてるから、あたしとしても何となく安心してたのに。

どうやらこの男、懐が寂しくなっていく不安とずっと戦ってたらしい。

何でそういう心境を隠すかなあ…。


「あまり私が気弱になるのもまずいと思いまして。」

「限度があるんだよ限度が。」


何だろう、この妙にイラつく感じ。

間違いなくその気遣いは嬉しいんだけど、致命的にズレてるというか…


いや違うな。

ズレてるんじゃない。むしろ逆だ。

この男、根本的な思考がこのあたしにかなり似てるんだ。だからこそ、

やってる事が微妙にシンクロする。同じ問題に対し同じように悩んで、

同じように堂々巡りをしている。


「すみません、ポーニー。」

「いやいいよ。謝ってもらうような事じゃないからさ。それに…」


そこまで行って、あたしはちょっと吹き出した。


「…何でしょうか?」

「あたしたちって、あんまり緊張感が無いわね。いつまで経っても。」

「そうですね。」


そこで初めて、アースロは笑った。

それまで見た事のない、それでいて見覚えのある笑顔だった。


ああ。

やっぱり彼、あたしに似てるなあ。



いい事なのか悪い事なのか。


================================


と言うわけで、ちょっと相談した。


案の定、彼が考えていた内容もほぼあたしと同じだった。お金を稼ぐ、

つまりは働くという選択肢が完全に無いわけじゃない。だけどさすがに

どこか定住して就職するというのは考えられない…という感じね。

さっさと腹を割って話せばよかったと、今さらながら痛感する。

表情には出さないけど、アースロも同じように思ってるんだろうなぁ。


じゃあ、結局どうしようか。


イグリセに入国した時、あたしにはひとつの目標があった。今思えば、

限りなく頭お花畑な目標だ。


本物のホージー・ポーニーに会ってみたい、なんてね。


呑気な夢を語るのもいいけど、今は当座の問題の解決に尽力すべきだ。

とにかくお金。どっちかと言うと、資金援助を誰かに頼みたいって話。


誰に頼もうか。

とりあえず、心当たりはある。

こういうのは、いちばん難しそうなところから当たっていくべきだ。


よし。

ちょうど、首都ロンデルンまであと少しという所にまで来れている。

だったらもう、開き直って行こう。ダメならダメでまた考えよう。


「んじゃ、首都に向かおう。」

「はい。」


ん?

何それ。


「ロンデルンの観光ガイドです。」

「何でそんなの持ってんの?」

「効率よく回れればいいかなと思いまして…」

「観光する気満々かよ!」


鏡の前で独り言を言ってる気分だ。

この男、こんなキャラだったの!?


…まあ、今さらどうでもいいや。



目指せロンデルン!!

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