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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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黒い影をまとう者たち

「手紙来てたよ!!」


雨が降り出しそうな、薄暗い午後。

ポストを確認したネミルが、一通の手紙を手にして駆け込んで来た。


「誰からだ?」

「ロナンちゃんみたい。」

「へえ、あの妹さんか。」


今となっては、思い出すとちょっと笑えるあのガンナー家の娘さんだ。

騎士になり切ってしまった兄貴の、その従者になり切ってたんだっけ。

何を言ってきたんだ?


「ええっと…」


もう、午後の客も一段落している。カウンターの席に座ったネミルは、

せかせかとその手紙を開封した。


「ええと『どうもお久し振りです。その節は大変お世話になりました。

私は今、首都ロンデルンの別宅にて兄と一緒に暮らしてます』…え?』

「何だと?」


いきなり予想外の展開だった。


『実は兄シュリオが、正式な騎士になるための採用試験を受験する事に

なりまして。当日までは首都で勉強をするので、手伝い兼監視役として

同行したという次第です。』

「…あの兄貴、正気になってもまだ騎士になる夢を捨ててないのか。」

「そうみたいね。」

「まあ、正真正銘の天恵を持ってる事が判ったんだから無理ないか。」


天恵の具体的内容までは知らない。でも、騎士と言うからにはそこそこ

相応しい能力が覚醒したんだろう。だったら今からでも子供の頃の夢を

追ってもいい。何と言うか、彼ならやってのけそうな気もする。でも…


「だったら鎧を持って帰れよな。」

「だねえ。」

「で?続きは何て?」

「ええっと…『首都にある喫茶店はオシャレだけど、ちょっと雰囲気が

高級過ぎるのであまり寛げません。やっぱり個人的には、肩肘張らずに

楽しめるお店の方が好みです。まだ10軒くらいしか行ってませんが、

試験が終わるまでに主だったお店は全部チェックしたいと思って…』」

「自分の食べ歩きの話ばっかりじゃねえか。」

「結局、それが目的でついて行ったんだろうね。」

「楽しんでるなあ、ちゃっかり。」


そう言えばそうだった。

あの母親と妹は、振り回されてるというよりむしろ楽しんでいたっけ。

呑気なようでいて、今回もきっちり兄貴のフォローはしてるんだろう。

裏を返せば、そんな心配する必要もない…という事なのかも知れない。


「『試験の結果がどうだとしても、終わったらまたお店に行きますね。

その時は、おいしいケーキと紅茶をよろしく。では失礼致します。』

だってさ。」

「要するに、首都で楽しく過ごしてますって話だったんだな。」

「どうなんだろうね、採用試験。」

「こればっかりは、俺たちには皆目見当もつかない話だよな。」

「…個人的には、シュリオさんにはピッタリだと思うんだけどなあ。」

「俺もそう思う。」


言いながら、俺もネミルも笑った。

無責任かも知れないけど、何となくシュリオさんなら立派な「騎士」に

なれる気がする。思い込みの激しさとか天恵とか抜きにして考えても、

そういう職に向いてるんじゃないかと思わせるものを確実に持ってる。


まあ、応援しよう。


================================


夕方までに雨になるかも知れない。

もしそうなれば、もう客はほとんど来ないだろう。なら降り出す前に、

オープンカフェもさっさと片付けて店を閉めてしまおう。

そんな事を考えていた時。


チリリリン!!


入口のベルが、いつもよりも乱暴な音色を奏でた。


「いらっしゃ…い…」


店に入って来た複数の男たちの姿を目にして、俺は決まり文句を途中で

途切れさせてしまった。隣のネミルも、表情を硬くしている。


入って来たのは、都市総代の甥っ子であるランボロスとその取り巻き。

いわゆる「ゴロツキ連中」だった。歳は俺たちと同じ。出身校も同じ。

ただし、友達だった事は一切ない。どちらかと言うと、同世代たちから

かなり嫌われ、畏怖されていた。


理由はもちろん、都市総代の伯父という「後ろ盾」を持っているが故の

傍若無人な振る舞いだ。学生だった時分から既に、犯罪スレスレの噂が

絶えなかった。もちろん、明らかにアウトだった内容も含めてだ。


どうしてこんな奴らが、俺の店に?

いや、喫茶店に行くのに理由なんて必要ない。それは十分分かってる。

だけどこいつらが、わざわざ街でもかなり北の外れにあるこの店にまで

足を運ぶ理由がない。だとすれば…


「い、いらっしゃいませ。」


ネミルの声も表情もぎこちない。


「ようマグポット。景気はどうだ?遅くなったが、来てやったせ色男。

いい店じゃねえか。」

「…どうも。」


ニヤニヤ笑うランボロスの言葉に、取り巻きたちも笑い声を上げる。


やっぱりそういう事か。

どうやらこいつらは、俺とネミルが許嫁の関係だという話をどこからか

聞きつけてきたらしい。おそらくは総代からだろう。そうだとすれば、

何しに来たかの想像はかなり暗い。


「何だマグポット。お前、愛想笑いもできねえってのか?」


そう言いながら、ランボロスはすぐ後ろの椅子にどっかと腰を下ろす。

取り巻きたちも、めいめいが好きな椅子に次々と座った。…どうやら、

店を貸切りにしたつもりらしい。


何だってんだよ。

明らかにネミルは怯えている。その横顔をチラッと見ながら、俺には

もうひとつの大きな懸念があった。


そもそも何なんだ、こいつらは。


誰なのかは知ってる。取り巻きも、4人中2人は名前まで知ってる。

だけど、そういう意味じゃない。


店に入ってきた瞬間から、こいつら5人は明らかに異様だった。

何だかよく分からない、影のような黒いものを背中にまとっている。

引っ掛かりもせず椅子に座れている事から推測するに、物体じゃない。

こんなもの、今まで見た事もない。そして、おそらくは悪いものだ。


どうすればいい?



外は、ますます薄暗くなっていた。

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