表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
247/597

世界の手がかりを求めて

言われてみればもっともだ。


タカネ(さん付けはいらないと本人に言われた)の存在は確かに大きな

助けになるけど、少なくとも現時点では、荒事になる要素は何もない。

そして、彼女はある意味で悪目立ちする存在だ。頭抜けた美人だという

点も大きいけど、店に入り浸る人間というだけで注目を集めるだろう。


そもそもこのオラクレールは、俺とネミルの二人で営む神託カフェだ。

店の規模もそれほど大きくないし、最初の頃に比べ俺たちも成長した。

正直な話、店を回していくだけなら俺たち二人で十分に事足りている。

ポーニーがバイトをしているという事すら、ちょっと過剰なのである。


常連になってかなり経つので、もうローナも店に馴染んでいる。

のんびり過ごす代償として、皿洗いをする風変わりで貧乏な窓際の女。

他の常連たちは、この世界の神様を当然のようにそう解釈している。


ハッキリ言って、ここが限界だ。

もうこれ以上、変な奴がいつも店にいる状況は、可能な限り避けたい。

それは俺たちの、切実な本音だ。

だからこそ。



タカネが声だけの存在でいてくれるのは、地味にありがたかった。


================================


というわけで、ようやく本題だ。

つまり「フレドのいた世界を探す」という問題に、本格的に取り組む。

予想外の事態が重なったせいで少し忘れてたけど、やる事は同じだ。


「そう言えば、身の上話を聞いた…とか言ってたよな。」

「ええ。」

「じゃあ、そこから異世界のヒントみたいなものを見つけるのか?」

「いや、そこはフレドと同じよ。」


俺の問いに、ローナは首を振った。


「話を聞くと言っても、本人が自覚する記憶なんてたかが知れてる。

やっぱり、あたしが記憶の中にある手掛かりを探さないと。」

「そうか…。」


実際のところ、状況自体はそれほど進展してはいないらしい。フレドの

記憶の中からタカネを見つけたとは言え、それがすぐ異世界を見つける

きっかけにはなり得ないって事か。…正直、ちょっとガッカリだった。


「んじゃ始めますか。」

「始めるって…」


そこでネミルが怪訝そうに言った。


「今日はフレドちゃんいないけど、記憶を探る事は出来るんですか?」

「そっちじゃないよ。」


指を組んで伸ばしながら、ローナがノートパソコンに目を向けて言う。


「今回は、タカネの記憶を探る。」

「え!?」

「そんなに驚く事ないでしょ?」


そう言ってローナはニッと笑った。


「むしろ肉体がない分、アクセスはしやすくなってるからさ。」

「それはその…そうなんですか?」

『まあ確かに。もともとのあたしはナノマシンの集合体だからね。』

「ナノ…何?」


またよく分からない言葉がいきなり飛び出してきた。だけどおそらく、

詳しく聴いても分からないだろう。それが分かっているから、ローナも

俺たちに説明しようとしないんだ。


「異界の知」は、時に世界に大きな影響や問題をもたらす。だからこそ

ローナは、あまりにも規格外過ぎるタカネの存在を詳しくは語らない。

それは恐らく俺たち三人の、そして世界のための判断なのだろう。


「じゃ、悪いけどちょっと…」

『ちょい待ち。』


キーボード操作を開始しようとしたローナに、タカネがそう言った。

さすがに予想外だったのか、ローナは怪訝そうな表情になる。


「何よ今さら。ゆうべ説明して…」

『その説明を、あたしなりに考えてみたんだけどさ。』

「……?」

『血縁者の存在さえ感知できれば、それが手掛かりになるんでしょ?』

「まあ…確かにそうだけど…」

「え、いるんですか血縁者?」


心底意外そうにそう訊くポーニーが何気に失礼だけど、俺も同感だ。

まさかこの人に血縁者とは…


『と言うか、本人がいるわよ。』

「は?」



何言ってんだ、この人?


================================


「やっぱり、そう考えていいの?」


本格的に訳が分からない俺たち三人に対し、ローナは半信半疑といった

リアクションだった。さすがの恵神も理解し切れない…ってところか。


『ええ、もちろん。』


対する返答は、どこまでも何気ないトーンだった。


『そもそもあたしは、あたし自身が組んだプログラム。友樹に無理やり

憶えさせたのもあたしだから、元の世界には確実にあたしがいる。』

「ええー……」


何だか、オカルトめいた話になって来てる気がする。いや、違うのか?

でも同時に、タカネが言わんとする事もちょっとだけ理解できた。

あの文字の羅列みたいなものに己を変換できるなら、それを成したのが

本来の彼女だ、という理屈は何とか想像できる。ならば、プログラムが

実行された時点で「タカネと同じ」存在が向こうにもいる事になる。

それを探せって事か?


いや、やっぱり訳わからん。

それが本当なら、タカネって存在はいくらでも増える事が出来るのか?

もしそうなったら…


「分かった。じゃやってみるよ。」


分かったんかい。

やってみるんかい。



やっぱりローナはローナなんだな。


================================


常人は置き去りのまま、とりあえずローナが試してみる展開になった。

つまり、タカネという存在を目印に探す…という事らしい。分からん!


ローナいわく、異世界を覗く時には過去や未来はあまり関係なくなる。

ぶっちゃけて言うと、過去も未来も割と自由に見る事が出来るらしい。

だったらフレドもこっちに来る前を狙って探せばいいだろと思うけど、

それは無理らしい。完全な同一存在だと、見分けがつかないんだとか。


…もう、一周回って普通の話として聞いてる自分がいる。俺だけでなく

ネミルもポーニーもそんな開き直りの表情で聞いていた。


しかし、聞けば聞くほどにタカネの言ってる事は理解から遠くなる。

同じタカネだけど、同一の存在ではない。そんな相手が実際にいたら、

自分というものが分からなくなってしまう危険があるんじゃないのか。

…まあ、常人が何を言ってもあまり意味はないんだろうけど。

それでも、こんな荒唐無稽な根拠で異世界を探り当てるなんて事が…


「あ、見つけたかも。」

「え?」

「は?」

「もう?」


早いなローナ!


「確かにタカネっぽい反応がある。ああ、うん。同じ存在ねコレ。」

『でしょ?』


「でしょ?」じゃねえよ。

頼むからもう少し、常識の枠の中に納まった存在であって欲しいと…

願っちゃダメだろうが。それだと、いつまで経ってもフレドの問題が

解決しないんだろうが。


もう何でもいいや。


「…よし捉えた。」


画面の表示を凝視していたローナが言うと同時に、新しいウィンドウが

開いた。おそらくそれが、捕捉した「タカネの世界」の窓なんだろう。


「じゃ、ちょっと見てみるか。」

『どうぞどうぞ。』

「あんたたちも見る?」

「ああ、もちろん。」

「見ます!」

「興味あります!」


三人とも即答だ。そりゃ当然だ。

少なくとも俺たちは、そのくらいの好奇心ってものは持ってるからな。


「よーし、んじゃ接続!」


言い放ったローナが、エンターキーを勢いよく押し込んだ。

同時にウィンドウが画面いっぱいの表示に切り替わり、そこに何かが…


…………………………

ん?

何だこれ。

もうちょっと引いたアングルで…


刹那。


「…いやああああああああッ!!」


甲高い悲鳴を上げたネミルが、椅子ごと後ろに倒れてしまった。

しこたま腕を椅子にぶつけた俺も、危うく悲鳴を上げるところだった。


映し出されたのは、人間よりずっと大きなトカゲの顔だった。

すぐ傍にいる女性の顔と比べると、その巨大さが否応なく迫ってくる。

興味深げに無防備に見ていた俺たちにとっては、あまりにも衝撃的な

ファーストシーンだった。


おい。

フレドって、こんなヤツが存在する世界に生きてたってのかよ?



怖いよ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「もしタカネというのが際限なく増えるのだったら、かなりの数にわたる異世界にタカネが存在したら探すの大変そう…?」と思う可能性はありますが、前々作「骨身を惜しまず、挑め新世界!」を読めばタカネ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ