表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
245/597

ローナの責任

「…とは言え、今日のところはもうお開きにしようか。」

「は?」

「は?」

「へ?」


さあ、いざここから!という時に、ローナが唐突なお開き宣言をした。

完全に出鼻を挫かれた俺たち三人の声が、マヌケにハモる。その一方、

タカネさんは特にノーリアクションだった。


いや、何でだよ。

フレドがこの場からハケて、もっと突っ込んだ話ができるって展開じゃ

なかったのか。まだ日も暮れてないのに、どうしてここで切るんだよ。


「見た感じ、フレドの魂は今すぐにどうこうなるって状態じゃない。」


俺たちの詰問に対し、ローナは事もなげに答える。


「もちろんトモキ君に苦労を強いる事にはなるけど、どのみちすぐには

解決の道は示せない。だとしたら、慣れてもらうのも重要でしょ?」

「それは…」

「まあ、確かにそうかもね。」


困惑する俺たち三人とは対照的に、タカネさんはあっさりしていた。


「両親に説明しないなら、今の自分の状況をある程度受け入れるのは

必須ノルマだろうし。」

「そういう事。」


頷いたローナが、その視線を俺たちに向けてニッと笑う。


「難題ではあるけど、あなたたちの暮らしまで犠牲にする必要はない。

何度も言うけど、別にそういうのは望んでないからね、あたし。」

「…分かった。」


そこまで言われてしまえば、俺たちとしても特に異存はない。

確かに厄介な問題に直面してはいるけど、それはそれ、これはこれだ。

明日も、俺たちの暮らしってものは普通に続いていくんだから。



と言うわけで、今日はここまで。


================================


「それじゃあ、あたしはこれで…」

「ちょい待ち。」


店から出ていこうとするタカネさんを、ローナが呼び止めた。


「ただ食いはよくないよ。」

「ああ…ツケは無理かな?」

「いや、その…」


どう言えばいいんだろうか。彼女も人外という意味ではローナに近い

存在だし、いくらなんでもこの国の通貨を持ってないのは知ってる。

そうは言っても、いきなり皿洗いを手伝ってくれと提案するのも…


「どっちみち、あなたを一人にするわけには行かない。今はまだね。」

「…と言うと?」

「さすがに、そこまで信用してないって事よ。異世界転生の裏をかいて

この世界まで来た相手をね。」

「…………………………」


何だ。

いきなり空気が張り詰めた。

さっきまで普通に話していたローナの口調が、厳しくなっている。

俺もネミルもポーニーも、ローナとタカネさんの間に入れない。


だけど、ローナの言わんとする事は何となく察した。

いくら協力的だとは言え、目の前にいる相手はあまりに底が知れない。

まさかローナと同義の高次存在って訳じゃないだろうけど、かと言って

普通の人間だとも思えない。いや、人間じゃない事は本人も認めてる。


だとすれば、このまま「野放し」にする事は出来ないって話なのか。

見た目は金髪美人でも、その正体はまだはっきりとしてないんだから。

きっとそれは、曲がりなりにもこの世界で恵神と呼ばれる者の責任だ。

ましてや、タカネさんをこの世界に現出させたのはローナ本人だから。



だけど、じゃあどうするんだよ。


================================


「それじゃあ」


沈黙は、ごく短かった。

破ったのはタカネさんの方だった。


「もしあたしが、あくまでも好きにする.…と言ったらどうするの?」

「ハイそうですか、とは言えない。少なくとも、今のままではね。」


まだ緊迫したままなのかよ。いや、タカネさんもどうしてそうなる。

目的は同じなんだから、今この場はローナの言う通りにすべきじゃ...


いや、違うな。

それはあくまでも俺たちの解釈だ。あんな常軌を逸した方法を使って、

異世界に来た存在の考える事など、分かるわけがない。まして彼女は、

「フレドの事」以外に興味も関心も持っていないかも知れないんだ。

だけど、ここで反目する事に意味はあるのだろうか。

俺たち四人もタカネさんも、フレドを助けたいと思ってるのは同じだ。

タカネさんにどれほどの事が出来るかはまだ分からないが、少なくとも

彼女一人で何もかも解決する…とは思えない。ネミルのやらかした事は

そこまで単純じゃないはずだ。


どっちにしろ、俺たちに出来る事はない。口出しも出来ない。…いや、

今に限って言えばそれが普通だ。


頼む。

ここは、どっちかが折れて…


「だったら見せてみてよ。あなたに何が出来るのかを。」


そう言ったタカネさんの目の前に、いきなり獣の牙のような「何か」が

現出した。音もなく宙に固定されたそれは、ローナに向けられている。


「ちょっ…!」


ネミルがうわずった声を上げた。

浮かぶそれが何か判らないなりに、危険なものと直感で察したらしい。

頼むから、この店の中でそんな…


「分かった。」


そう答えたローナの手には、いつの間にかノートパソコンがあった。

それ以上何も言わず、ローナはそのキーのひとつを人差し指で押す。



全ては一瞬だった。


================================


キュイン!!


タカネさんも宙に浮かんだ何かも、一瞬の発光と共に消失した。

出現した時よりもずっと呆気なく、彼女の姿は掻き消えた。


「ええっ!?」


目の前の展開に全くついて行けないポーニーが、頓狂な声を上げる。

…いや、声を上げそうになったのは俺もネミルも同じだ。

ローナは、あまりに容赦なかった。


何なんだよ。

彼女は手がかりじゃなかったのか。

どうしてこんな事になるんだよ!


フレドは一体どうなって…


『なるほど、こういう事ね。』

「うえッ!?」


ローナのノートパソコンから流れてきたその何気ない声に、俺たちは

今度こそ揃って変な声を上げた。


『ちょっと懐かしいわぁ、こういう状態って。』

「まあ、ちょっと我慢してよ。」


「…………………………!!?」


どうなってんだ本当に。

ローナは何をしたんだ。

タカネさんはどうなってるんだ。

ってか、喧嘩したんじゃないのか。



人外のやる事は、ホントにさっぱり分からん!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ