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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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異世界転生の裏技

これも何かの天恵か?


そこそこ色んな事象を見てきたが、人間が丸ごと出現ってのは初見だ。

もしや転移か…という考えもチラと脳裏をよぎったものの、出現に至る

あのプロセスは圧倒的だった。理屈ではなく感覚が「違う」と訴える。


何なんだ、このタカネって人は。

もしかして、ローナと同じ…


================================


「ハハハハハ!!」


異様な静寂を破ったのは、やっぱり異様なローナの笑い声だった。

一瞬気が触れたのかと思ったけど、どうやら本当に可笑しいらしい。

いや、この状況で何を笑うんだよ。


目の前の「タカネ」は涼しい顔だ。


「そんな手があったかぁ!!」

「凄いでしょ?」

「いや恐れ入った!気に入った!」


ドヤるタカネのひと言にそう答え、ローナは笑い涙を拭った。

そんな手?どんな手だよ。頼むから分かるように説明してくれよ。

俺たち三人はひたすら困惑。大してフレドは、ひたすら驚いていた。


『…た、タカネさん?』


お、知ってるのかよ!

だったら君でいいから、説明頼む!


『タカネさんって、そんなグラマーでしたっけ?』

「んあ?」


何か、あさっての方向の困惑だな。見た目が違うのが第一なのかよ。

ノートパソコンからのその音声に、タカネはほんの少し目を丸くした。


「へぇ、この文明水準でノートPCがあるんだ。」

「これは特別。あたしが異世界から持ち込んだオーパーツ。」

「あ、そうなんだ。」


おいおい!

自己紹介も状況説明も何もかも省略して、規格外同士で話を進めるな!

とにかく俺たちに納得をくれよ!!


「ああうん、そうだよねゴメン。」

「失礼しました。」


何とか俺たち三人の困惑を伝えた。結果、ローナとタカネは苦笑した。

何でそんなに共感してんだよ。



ついて行けないんだよ、こっちは!


================================


とにかく、タカネに注文を聞いた。

そもそもメニューを理解できるのか疑問だったけれど、あっさり紅茶と

アップルパイを注文。話が通じるという事実にほんの少しホッとした。

…いや、本当にほんの少しだけど。


美味そうに紅茶をすする彼女の前に並び、まずは順に名乗る。


「トラン・マグポットです。…この喫茶店を経営してます。」

「妻のネミルです。神託師…という仕事もしてます。」

「アルバイトのホージー・ポーニーと申します。」

「あたしはローナ。平たく言えば、この世界の神様。」


味気ない自己紹介が、最後の一人でシュールな四段オチになった。

しかしそんな俺たちに動じる様子もなく、席に着いたタカネは微笑む。

いや、異常性を差し引いても相当な美人だなこの人。…しかしフレドは

見た目が違うと言っていた。いや、まだまだ本当にわけ分からん。


俺たち三人の自己紹介なんてのは、この状況では些事だ。…とにかく、

タカネが何なのかを知りたい。今は本当にそれが最優先事項だ。

さすがに、当人もローナもその点はしっかり分かっているらしかった。


「あたしはまあ、ご存じの通り転生について来た存在よ。」

「…………………………」


返す言葉が見つからない。やっぱりこの人、その点の自覚はあるのか。

ってか、口調から察するに自分からこの状況を作り出したらしい。

…いや、どうやって?


「いやはや、まぁさか異世界転生にそんな裏技があったとはね。」

「裏技?」


少なくともローナは、何があったか理解はしているらしい。その上で、

あの爆笑だったのか。一体、どんな裏技なんだよ。


「お見通し?」

「ええ。プログラムを実行したのはあたしだもの。大体分かるよ。」


答えたローナが、ノートパソコンの縁をコンコンと叩く。


「異世界転生の際、本人が次の世界に持ち越せるのは記憶と人格だけ。

その記憶の中に、プログラム化した自分自身を潜り込ませたって事ね。

生後一か月の時点で、かなり強引に憶えさせたんでしょ?」

「正解!」


両手を広げたタカネは、嬉しそうにそう告げた。


いや「正解!」じゃないんだよ。

その説明で納得できるほど、さっき起こった事象は単純じゃなかった。

と言うか、どうやってあんな文字の羅列に自分を置き換えるんだよ!


「人間をプログラム化するなんて、無理じゃないかって思うのね?」

「え?ええ。」


タカネにズバリ言い当てられ、俺は少し毒気を抜かれた。何と言うか、

自分の特異さはちゃんと自覚してるのかこの人。


「答えは簡単。あたしは、人間じゃないって事。」

「は?」


ダメだ。

出てくる言葉がいちいち、俺たちの常識を遥かにぶっちぎっている。



どういう状況なんだよ、これは。


================================


『タカネさんが…人間じゃない?』


ずっと黙っていたフレドが、やっとそんな言葉を絞り出した。

俺たちも大概だけど、誰より衝撃を受けているのは間違いなく彼だ。

どうやら知り合いらしいけど、己の頭の中に潜んでいたという感覚など

俺たちにはとても想像できない。

赤ん坊に転生した…というだけでも大変なのに、大変の上塗りだろう。


「ゴメンね無断で。」

『いえ…その…はい。』


いや「無断で」って部分がそんなに重要なのか?…うん、重要だよな。

と言うか、そもそも…


「タカネさん。」

「うん?」

「ちょっと訊きますけど。」


俺は、フッと浮かんだ大きな疑問を彼女にぶつけてみた。


「そもそもあなたは異世界における15年前、こういう事態を見越して

彼の記憶にプログラムを仕込んだんですよね?」

「その通りよ。」

「どうして知ってたんですか?彼が15歳で転生するって事を。」

「具体的年齢までは分からなかったけど、予見していたからね。」

「予見って、あなたがですか。」

「いや、ミロスが。」

「ミロス?」


誰だ?


「ミロス・ソートン。あたしの友人で、彼の伯母のパートナーよ。」

「伯母って、フレドの?」

「そう。名前は二階堂 環(にかいどう たまき)。」

「えっ伯母?」


思わずといった態でネミルが呟く。いきなり親族の話が出たからだな。

フレドが誰なのかが、前触れもなく露見しそうになっている。


「ミロスが言ったの。この子には、トモキにはタマキに似た「気配」が

ある。いつか、同じ運命を辿る事になるに違いない…ってね。」

「え?」


同じ運命って。

じゃあ、そのタマキって伯母さんも転生した事があるって事なのか?

それより…


「そのトモキっていうのが、フレドちゃんの前の名前なんですか?」

「ええ、その通り。」


少しうわずったネミルの問いかけに答え、タカネはフレドに目を向けて

ゆっくりと告げた。


荒野友樹(あらや ともき)。それが、彼の転生前の名前よ。」

「…………………………」


俺たちは、何も言えなかった。

あえて訊かなかったフレドの名前。それを、本当に思いもかけない形で

知る事になった。何も言えるはずがない。



事態は、俺たちの予想の遥か先へと突き抜けてしまっていた。

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