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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ポーニーの言葉の向こうに

「ホントにゴメンねー今日は急に。問題なかった?」

「ええ。大丈夫でした。」

「ありがと!」


そう言いながらフレドを抱え直し、ディナは申し訳なさそうに笑う。


「…んじゃあ、明日はいつもどおりの感じでヨロシクね。悪いけど…」

「いやいや、それは別に構わない。遠慮するなよ。」

「おお、悪いねトラン。んじゃ!」


疲れなど感じさせない笑みを残し、ディナはそのまま帰っていった。

ちなみに、彼女が帰ってくるまでに店は再び開けている。いくら何でも

臨時休業のままでは過分に恐縮するだろうと思ったからだ。

いや、臨時休業を切り上げた理由はもうひとつあった。

ディナには決して言えない理由が。


と、その数秒後。


「ただいま帰りましたー!」


入れ違いになるように、ポーニーが戻って来た。どうやらディナの姿を

見ていたらしく、怪訝そうな表情で俺たちに問いかける。


「今日ってフレドちゃんを預かる日でしたっけ?今さっきそこで…」

「いや、今日は急な話だったんだ。だから帰りも早かったし。」

「トランさん。」

「うん?」

「ネミルさん。」

「え?」

「ローナさん。」

「ん。」

「何かあったんですか?」


「あった。」


奇しくも三人の声がハモる。

やっぱり分かるよなあ、すぐに。



さすがポーニーだ。


================================


店は定時まで営業した。それなりに忙しかった。


閉めた後で、今日の事をポーニーに委細漏らさず全て伝えた。もちろん

そこまでローナも帰らず同席した。


俺たち三人はあの後、フレドに対し何か追求するような事はなかった。

ただ、それまでと同じように世話をするまでに留めた。見方を変えれば

「保留した」という感じだろうか。いつもと違い、ディナがいつ戻るか

分からないのも不安要素だった。


問題の先延ばしでは?と言われれば返す言葉もない。その通りだろう。

俺たちだけでなくローナでさえも、もう一歩踏み込むのをためらった。


「ポーニーの帰りを待とう。」


俺が言ったその言葉は、実は三人の総意でもあった。

何がどう転ぶにせよ、ここから先は認識を共有する必要があるだろう。

だからこそ、早い段階でポーニーに事情を話しておく事が重要になる。

いささか言い訳じみているものの、俺たちはそうして帰りを待った。


どのみち、明日もフレドは預かる。

だから今日中に、しっかりと方針を固めておきたかった。

そして。



覚悟もしておきたかった。


================================


その夜。

俺もネミルも眠れなかった。当然の事とは言え、とにかく目が冴えた。


「やっぱり、あたしの責任よね。」


そんな事はない、などと気安く言う事は出来ない。それは責任放棄だ。

俺は言葉を選んで答えた。


「責任と言うか、原因は間違いなくネミルだ。それは否定しない。」

「…………………………」

「思うんだけどな。」


口に出す事で、俺も俺なりの確信を持つ事が出来た気がする。


「まだ「責任」って言葉を使うのは早いんじゃないのか?」

「どういう意味?」

「そのまんまだよ。」


向き直ったネミルの目をまっすぐに見返し、俺は声に力を決めた。


「確かにお前のした事は、フレドの運命を大きく変えたんだと思うよ。

だけど、以前にディナに天恵宣告を頼まれたのは、単なる不可抗力だ。

どっちみちフレドは異世界転生者としての運命は抱えていたんだ。」

「それは...そうだけど…」

「ポーニーも言ってたろ?俺たちに出来る事はやるべきだって。」

「…うん。」

「責任ってのは上手く行かなかった時に取るもんだ。まだまだ俺たちは

諦めの遥か手前にいる。だったら、今は気にすべきじゃない。」

「だよね。」


ようやく、ネミルの口調にいつもの明るさと力が少し戻って来た。


「だから、今日はもう寝ようぜ。」

「了解!」


吹っ切れたように答えたネミルは、ほどなく寝息を立て始めていた。

やれやれ。切り替えが速いな本当。

さて、俺も寝よう。



明日に備えて。


================================


ローナは、いつでも「恵神」らしい大局的な助言を俺たちにくれる。

何だかんだ言っても神なんだなと、納得する機会には事欠かない。


だけど、それは常にベストアンサーとは限らない。

たとえ傍目には浅はかだと思われる選択でも、時には必要になる事も

あるからだ。やっぱり最終的には、行動するのは人だから。


と言っても、俺たちは優柔不断だ。そうそう簡単に決断は出来ない。

だからこそ、こんな時に真っ向から言葉をくれる存在はありがたい。


「たとえ最良の結果が出せなかったとしても、全力は尽くしましょう。

でないと、中途半端な悔いだけ残す事になりますから。」

「そうだな。」

「そうだね。」

「でしょうね。」


きっと俺もネミルもローナも、面と向かって言って欲しかっただけだ。

最後に背中を押してくれる、そんなひと言を。



さすがは、エイラン・ドールの夢の化身だ。

ポーニーの迷いのない心が、今の俺には何よりも眩しかった。


================================


「じゃあよろしく。今日はちょっと遅くなるかもだけど…」

「いいよ、ゆっくりしてきてくれ。俺たちは全然かまわないから。」

「ありがと!また何かオゴるね!」


翌日。

そう言い残したディナは、元気よく出勤していった。


「昨夜は不思議なくらいおとなしくしてたんだよ、この子。」


そんな話をする顔を、俺たちは直視できなかった。やっぱりそうか…。

ともあれ、もう先延ばしにする気はない。覚悟を決めて臨もう。


「じゃあ、そういう事でいいよね?三人とも。」

「ああ。」

「はい。」

「もちろんです!」


ローナにそう答え、やがてネミルが「臨時休業」の札を掛けに行った。

昨日に引き続きだ。店の経営に問題があるのかと勘繰られそうだけど、

今回ばかりは仕方がない。


…いや、そういうんじゃないな。

これは、今日が終わるまでに何かの結果を出すという覚悟の表れだ。

ネミルのした事に対して、きっちりと答えを出して前に進む。

それが神託師と共に生きるという、ひとつのけじめでもあるだろう。


「さあて、んじゃ始めようか。」


言いつつ、ローナが取り出したのはノートパソコンだ。そして今回は、

何やら別の機器も用意している。


「何ですか、それ?」

「ヘッドホンとマイク。」

「念のために訊いとくけど、つまりそれは…」

「うん、異世界テクノロジー。」


やっぱりか。

まあ、この際細かい事は言わない。必要だから用意したんだろう。


まずは現状を探る。

何の現状かって?

決まってる。

フレド・カーラルのだ。


今の彼が、どういう存在なのか。

俺たちは、何をすべきなのか。

それを知らねば、何も始まらない。



頼むぜローナ様。

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