そして得た答えとは
考えてみれば、これが初めてか。
店を開いてそこそこ経ったけれど、それだけにちょっと感慨がある。
ある意味、ホッとしてる。
もちろん、平穏なのが一番だけど。
それでも爺ちゃんから受け継いで、あんな指輪まで託されたんだ。
ネミルが神託師として誰かの天恵を見るってのは、悪い事じゃない。
それも込みで、俺はこいつと一緒に生きていきたいんだから。
大丈夫。
どんな結果になったとしても、この親子ならきっと受け入れられる。
受け入れた上で、きっとまた新しい生き方を一緒に探せるはずだ。
…だからお前は、自分の力を信じて神託師の務めを果たせ。
ネミルの瞳の光が収束し、見覚えのある小さな一点になった。おそらく
今の時点で天恵は文字となっているはずだ。今日までに二度見たけど、
やっぱり何か不思議な感じがする。この瞬間、ネミルだけが天恵を…
何だその顔。
驚いてるのか笑いを堪えてるのか、とにかく変な顔をしてる。…正直、
あんまり場に似つかわしくないぞ。一体全体、どんな天恵を見てんだ?
セルバスさんもロナンさんも微妙な顔になってる。唯一人、当人である
シュリオさんだけが平然とネミルの天恵宣告を待っていた。
しばしの沈黙ののち。
「シュリオ・ガンナーさん。」
前の時より明るい口調で、ネミルが告げた。
「あなたの天恵は【騎士】です。」
…え?
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疑問もツッコミも何も、挟む間などなかった。
キュイィン!!
憶えのある高い音と共に光が満ち、シュリオさんの目の前に白い文字が
輝きを放って浮かび上がる。それは紛れもなく「騎士」と読めた。
「えっ」
「ちょ、騎士って…!?」
シュバッ!!
言い放たれた天恵は、戸惑う者たちを待ってなどくれない。形の崩れた
文字は、まるでシュリオさんの体に吸い込まれるかのようにぶつかり、
パッと散った。いつもながら、実に最後は呆気ない。呆気ないからこそ
誰も沈黙を破れない。気まずいとは少し違う、独特の間だった。
そして。
「…僕の天恵が、騎士?」
沈黙を破ったのは、さっきまでとは別人のようなシュリオさんだった。
「僕…って、あなたまさか。」
「シュリオ兄ちゃん?」
「母さん。それにロナン…ええと、どこまでが本当だっけ?」
何だ何だ。どういう状況なんだよ。
天恵の宣告を受けた事が、どうして洗脳を解いたみたいになってんだ?
正気に戻ったって言うのなら、俺の天恵を感知した話はどうなった?
「…まあ、いいじゃない!」
その言葉と共に笑い、セルバスさんはシュリオさんを抱きしめた。
ロナンさんも、負けじと反対側から抱き着く。
俺とネミルは、顔を見合わすばかりだった。
最後まで、本当にどうなってんだ。
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「じゃあ、お世話になりました。」
「ごちそうさまでしたー!」
「ご面倒をおかけしました。」
すでに夕方になっていた。
完全に憑きものが落ちてしまった、シュリオさんが深々と頭を下げる。
散々振り回されたけど、それはもう言いっこなしだ。俺もネミルも、
笑顔で答える。
「いえいえ。また機会があったら、是非ご来店ください。」
「ありがとう。」
「今度は違うケーキ食べに来ます。よろしくね!」
神妙に頷くシュリオさんとは対照的に、ロナンさんは元気一杯だった。
何だかんだ言っても、従者としての日々は楽しかったんだろうな。
何度か振り返りつつ、ガンナー家のお騒がせ親子は去っていった。
厄介なものを残して。
「…さて、どうするかなこれ。」
「店に飾る?」
振り返って見るのは、シュリオさんが着込んでいたあの鎧。
すっかり正気に戻ったらしい彼は、もはやそんな大層なものを着るなど
考えられない…といった態だった。いや、それで置いていくってか!?
「家伝の品じゃないんですか?」
「いえいえ。きちんと専門の職人に頼んで作らせたものです。ちょっと
高かったけど、もう使う機会も多分ないでしょうし。」
「………………」
「邪魔なら処分して頂いても一向にかまいません。費用も持ちます。」
「…はあ。」
正直、置いていかれたらものすごく困る。使い道なんか何ひとつない。
いい加減にしてくれ!と言いたい。
だけど、俺もネミルも言わないまま三人を見送った。それでよかった。
正気を取り戻したシュリオさんは、想像したとおりの人物だった。
散々振り回されはしたけど、何だか面白かったのもまた事実だ。なら、
このくらいの事は呑み込もう。
「しばらく飾っとこう。もし何ならトーリヌスさんに引き取ってもらう
選択もアリだろうし。」
「そうだね。」
ネミルも食い下がらなかった。
とんだ置き土産だけど、今日ここで成した事を思えば些細な事だ。
何と言うか、けっこうインパクトのある飾りになるかも知れないな。
ま、いいか。
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「シュリオさん、これから何をする事になるんだろうね。」
「さあな。見当もつかない。」
後片付けをしながら、俺とネミルはそんな事を語り合う。
最後まで、予想外の連続だった。
まさかシュリオさんの天恵が本当に「騎士」だったとは。ぶっちゃけ、
こっちがペテンにかけられたような気さえする結末だ。
でもまあ、悪くはない。悪くはないけど、これから先の事は余計に、
俺たちなんかに分かるわけがない。
「まあ、あの人たちなら大丈夫。」
「だね。」
…少なくとも、俺たちの出す答えはこんな感じでいいはずだろう。
それよりもっと気になる事がある。
「結局、そのペテン師の言った事は正しかったって話だよな。」
「信じられないけど、そんな偶然はさすがに起こらないよね。」
当然だ。
たまたま告げたデタラメな天恵が、実は真実だった…などという偶然、
起こってたまるか。…だとすれば、そのペテン師は何らかの方法を使い
シュリオさんの天恵を見たって事になる。だけど神託師じゃないから、
告げても天恵の宣告を受けた事にはならなかった。ややこしいけれど、
それが実際に起きた事なんだろう。
虚偽宣告じゃなかったから、罪状は軽くなるのか。面倒臭いな本当に。
誰なんだよ、そんな中途半端な事をするペテン師ってのは。
ややこしい事態を作るんじゃねえと文句を言いたくなる。いや、むしろ
もう二度と関わりを持ちたくない。頼むからここには来るなよ本当に。
「ま、今日はとっとと閉めよう。」
「おなか空いたぁ…!」
やれやれ、実に大変な一日だった。
鍵をかける前にちょっと外に出て、二人で並んで空を仰いだ。
気の早い一番星が、小さく瞬くのが見える。
明日も晴れそうだった。




