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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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リツェーレの決断

つくづく思う。


もともと天恵っていうのは、人間の持つ超越した可能性だったはずだ。

技能であれ何であれ、それはさほど超自然的な現象ではなかった。

古の時代より、そういうものだったはずだと。


だけど、今の俺たちはどうだ。

ささやかな奇跡に過ぎない天恵で、とてつもない手品をやっている。

タネも仕掛けもあるが、展開されるのは紛れもなく超常現象だろう。

こんなものを見て、興奮を覚えない人間なんてそうはいない。



総代ラームズ氏も、やはりその例に漏れなかった。


================================


「さて、機会を頂き感謝します。」


俺たちが来ているのは、製鉄工場のすぐ裏にある大きな空き地だった。

近いうちに倉庫が作られるらしい。工場から聞こえる鈍重な機械音が、

「この街」を端的に表現している。


とりあえず、最低限の人払いだけはしてもらった。工事の予定地だから

目隠しの囲いは最初からある。で、あれやこれや資材も置かれている。

デモンストレーションにはちょうどいい場所だった。


ここだけの話、ネイルは俺がこんな事をやるとは思っていないだろう。

局地的な実力行使が可能である今、こんな手間を掛ける必要などない。

気の早い奴らならそう考える。多分エフトポとかも似たようなもんだ。

客観的に見ても、今のロナモロスはそのくらいの戦力を保有している。


あらためて考えてみると、俺という存在は幹部の中でもかなり異端だ。

参入が遅かったって事もあるけど、明らかに他と違う感覚で動いてる。

目指す目的地が同じでも、到達までに辿る道程がまるで違う感じだな。

おそらく、面と向かって提案すれば却下されていたんじゃないか。


何となく可笑しくなった。

そんな俺が先鋒を務める事により、ロナモロスの可能性は予想外の形で

広がっている。どんな形でどこまで行けるか、もう誰にも見通せない。


面白いじゃないか。

行けるところまで行ってみよう。



「第四陣、送れ。3騎だけだ。」

『了解。』


================================


キュイン!!


「何と!?」


目の前で起こった事象に、さすがのラームズも大きく目を見開いた。

一瞬の発光ののち、見上げるような巨大な鎧兵が出現したのである。

驚くなという方が無理な話だろう。


現れたのは魔鎧屍兵ではなく、有人操縦型の魔鎧兵の方だった。

内部には特殊な訓練を積んだ人員が乗り込んでいる。基本的な性能は、

ほぼ魔鎧屍兵と同じ。ただしこちらは人が乗っている分、あまり無理が

利かない。機動性などにおいては、魔鎧屍兵にはかなり劣っている。

ぶっちゃけ、教団でもこっちの型はそれほど重要視されてない。まあ、

強くて汎用性の高い方がいいという思考はいたって普通だからね。


だが、そこにはあまりに大きな感覚のズレがある。いや、麻痺してると

形容する方が正しいだろうか。

そもそも魔鎧屍兵は、人間の遺体を内部構造物として組み込んでいる。

それとウルスケスの魔核を併用して完全な自律行動を実現しているが、

客観的に見ればヤバ過ぎる代物だ。もちろん、遺体を確保するために

殺人を犯したりはしていない。が、それでも一般人の倫理観からすれば

ドン引き必至だろう。いや、もはや通報されてお縄確定って感じだ。


異界の知を意図的に得る代わりに、ネイルやコトランポらは当たり前の

常識を捨ててしまっている。普通に考えれば、魔鎧兵であっても十分に

規格外の存在だ。わざわざこちらの異常性を晒す必要などない。


さて。

いかがですか?総代。


「…素晴らしいな…」


でしょうねえ。

そのお気持ちもその昂りも、もはや手に取るように分かります。



これが天恵の産物ってやつです。


================================


デモンストレーションは終わった。

共転送を使いモリエナ・パルミーゼを召喚。さらに彼女の共転移を使い

カイ・メズメを召喚する。後は彼が再び共転送を使って魔鎧兵を回収。

二度手間にはなるものの、この方法ならどこにでも戦力を送り込める上

回収まで一瞬でできる。この俺さえ現地に赴ければ、後は神出鬼没だ。

さすがにそのカラクリまでは見せていない。魔法のように消えたという

結果だけをご覧じた。これで十分。


「あらためて申し上げますが。」


未だ興奮冷めやらぬ総代に対して、俺はあくまで控え目な口調で言う。


「我々は別に、今すぐどこかの国を転覆させようなどとは考えません。

いかなる天恵の持ち主がいようと、いかに魔鎧兵があろうと、国家を

相手にするほどの力には間違ってもなり得ませんから。」

「では、何を望まれる?」

「工業的な生産力ですよ。」

「生産力?」

「そう。」


ここは本音で語ろう。


「先ほどお見せしたあの魔鎧兵は、お察しの通り異界の知の産物です。

しかし研究の結果、この世界にあるテクノロジーと天恵を併用する事で

完全な再現が可能になりました。」

「なるほど。で?」

「とは言え、ご覧の通り大掛かりな代物です。生産体勢はそれなりに

構築しつつありますが、大量生産となれば話は別です。どうあっても、

大きな工場と機械的な生産力というものが必要になってきます。」

「ふむ…それをこの街に望まれるという事か。」

「そうです。ただし…」


そこで俺は、口調をあらためた。


「街全体をあれの工場にしてくれ、などと馬鹿な事を言うつもりは毛頭

ありません。もしそんな事をすればたちまち外部に漏れる。そうなれば

違う意味でこの街は蹂躙されます。我々としてもそれは本意ではない。

ごく一部の区画でいいんです。この街の生産力を鑑みれば、それだけで

十分目的は果たせますからね。」

「ふぅむ……」


総代ラームズ氏は、腕を組んだ。

取り付く島がなかった最初からは、想像もできない「迷い」の姿だ。

だが俺は、確かな手応えを彼の目に見出していた。


そう。

とりあえず今は、多くを望む気などない。生産力が欲しいだけだ。

正直に言えば、最初の段階から少し狙いが変わっているのは認める。

併合を狙っていたのは事実で、彼を甘く見ていたのもまた事実だ。


だが今は違う。

彼を天恵に頼らずに篭絡させようと模索する中、当初の予定よりずっと

先に進んだ目的が見えた。ならば、後ろめたい方法を使わず交渉する。

ごり押しの併合ではなく、真の意味での協力体制を作る事が出来れば、

まさに想定以上の結果になる。


「ひとつだけ確約が欲しい。」

「何でしょう。」

「従来通りの自治の維持です。その点さえ通るなら、悪い話ではない。

細かい取り決めは必要でしょうが、提携する価値はありそうですな。」

「もちろんですよ。」


よし!

まっとうな言質が取れた。

最終的にランドレの天恵に頼った、教皇の時と比べても大きな進展だ。

この街で魔鎧兵、そしてゆくゆくは魔鎧屍兵が量産できるようになれば

ロナモロス教は強大な組織になる。今、その手がかりを確かに掴んだ。


「共栄の道を共に探りましょう。」

「承知した。」


総代と握手を交わしつつ、俺は会心の笑みを隠さなかった。


どうだ婆ちゃん。

俺はとうとうここまで来たんだぜ。

婆ちゃんを死なせた天恵を利用し、ここまで成り上がったんだ。正直、

ほんの一年前までは本当に想像すらできなかった「今」が確かにある。

こうなりゃ、とことん行ってやる。

天恵が何だ、国が何だ。そんなもの俺の手の中で踊らせてやるさ。


ああ。



まだまだ、俺の野望はここからだ。

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