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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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一線を超えるきっかけ

「話になりませんな。」


もはや教皇は、不快感を隠そうともしなかった。まあ当然だろうな。

あまりにも話が一方的なのに加え、要求のスケールが大き過ぎる。

譲歩するとか何とか、既にそんな話でなくなっているのは明白だ。


「では、交渉は決裂ですか?」

「そういう事になりますな。」


身も蓋もない確認をするネイルに、教皇も同じような言葉を返す。

交渉と呼ぶにはあまりにも稚拙で、かつあまりにも傲慢だったネイル。

表情を見れば判る。教皇は明らかにネイルも教主も見下している。

当たり障りのない言葉ばかり並べる教主と、事実上トップでありながら

己の野心をむき出しにし過ぎているネイル。どう見てもこの二人には、

まともな未来など訪れない。多分、そんな事を考えているんだろうな。


ぶっちゃけ、俺もそう思うよ。

この二人の歩む道は、ロナモロス教という存在の行く末そのものだ。

もし彼女たちが破滅に向かうなら、いずれ教団も破滅するのだろう。

俺自身は別にそんな展開を望んではいないが、客観的に見れば可能性は

かなり高い。こんな事をやってればいつか、必ず終わりは訪れる。



だけどそれは、今日じゃない。


================================


「どうぞお引き取り下さい。何なら聖都を出るまで護衛を付けます。」


それは、事実上の退去勧告だった。教皇のその言葉を耳にして、後ろに

控える護衛たちが一歩前へと出る。どの顔にも半端な迷いはなかった。

教皇が一声命じれば、彼らは俺たち三人を力ずくで連れ出すのだろう。

そのままこの聖都から追い出すか、あるいは途中で始末するか。多分、

その指示は交渉が始まる前に彼らに下されている。


「あまり手荒な事はしたく」

「手荒な、と仰いますと?」


隊長らしい中央の男の言葉に答えたのは、ネイルでも教主でもない。

この俺だ。ここに来て初めて言葉を発した俺に、非難の視線が集まる。

たかが付き人の分際で何を言うのかと、教皇を含めた全員の視線が俺に

無言で訴えていた。


ああ、確かに分不相応だろうよ。

俺は卑しい身分だ。そもそもこんな場に出られるような人間じゃない。

言われなくても分かっているとも。だからこそ、今までは黙っていた。

だが、少なくとも俺の立場はお前らと同じだ。身分だけで発言の権利を

定義するなら、お前らがネイルたちと直接話すのも分不相応だろうが。


俺は別に、置物になるためにここに来たわけじゃないんだよ。


================================


非難の視線に全く動じない俺という存在は、かなり意外だったらしい。

教皇本人も取り巻きの護衛たちも、困惑の表情で押し黙っている。

だがそういう沈黙は、俺にとっては格好の発言機会だ。


「お見受けしたところ、ずいぶんと優秀な天恵をお持ちですね。」


決めつけるような俺の言葉に、皆がハッと目を見開く。やっぱりかよ。


「手荒というのが、その天恵に依存したものなら問題ですよ。ここは、

マルコシウム聖教の聖地。大聖堂の謁見の間です。教皇を守られている

あなた方が、よもや恵神ローナから授かった天恵を使うという事は」

「黙れ若僧。」

「名前で呼んで下さいよ【剣技】。私はオレグストと申しますので。」

「……………ッ!!」


自分の天恵を言い当てられた男は、そこでぐっと押し黙った。

割とガチで身の危険が迫ってるにも関わらず、何だか笑いそうになる。


悪いけど、こいつの考えている事は手に取るように分かる。

マルコシム聖教の信徒であり、また教皇ポロス四世の護衛でもある彼は

当然、敬虔な信徒である事が常日頃から求められるだろう。とすれば、

天恵宣告を受けている…などという噂は絶対に否定しないといけない。

ある意味、それは教義に対する最大の背信にも繋がるからだ。


まあ、実際にはこの有様だ。

建前だけでは世の中は回らないってのは、分かり切った話だよな。

背信だろうが何だろうが、教皇様を守るためにはやむを得ないってか。


俺の天恵がどういうものなのかは、分かっていたはずだ。それとも、

今ここでリアルタイムに天恵内容を見る事が可能とは思わなかったか。

どっちにせよ、俺はここにいる護衛たちの、在り方の矛盾を暴露した。

ただ追い返せばいいというフェーズは、もう過ぎてしまったって事だ。



さあ、どうする?


================================


「ならばやむを得ないな。」


そう言い放つ教皇は、どうやら覚悟を決めたらしかった。

どんな選択をしたのかについては、目の前の光景で否応なく理解した。


護衛たちの放つ殺気が、危険な領域に達した事を肌で察する。

もうこうなってしまえば、平和的な解決はあり得ない。そこにあるのは

保身のために相手を殺す選択をするという、教皇の身勝手さのみ。


「彼を捕えよ。生死は不問だ。」

「はっ!」


まるで待ちわびていたかのような、鋭い返答の言葉がきれいに揃った。

なるほど、俺からか。実に合理的な判断だな。さすがに今すぐネイルと

教主を殺させる勇気はないってか。


見くびられたもんだな。

全員に殺意を向けられながら、俺は腕輪の石にそっと口を寄せた。

そして、小さな声で告げる。


「いいぜカイ。第一陣を送れ。」

『仰せのままに。』


即答が返ると同時に、俺たちのすぐ背後の空間が丸く歪む。

それを目の当たりにした教皇たちの顔もまた、醜く歪むのが判った。


さあて。



先に仕掛けた事を悔いろ。

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