表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
221/597

三人の来訪者

我が耳を疑った。


何の約束もなしに訪ねて来たのは、ロナモロス教の現教主だった。

しかも副教主も一緒。従者はわずか一人だけ。さすがに正気を疑った。

まさか大聖堂の正門警備を任された三日目に、こんな異常極まる事態に

直面するとは…


これもまた、神の思し召しなのか。


================================


ここは聖都グレニカン。もちろん、ロナモロス教の信者などはいない。

別に住むなとも訪れるなとも明言はされていないが、もはや不文律だ。

そもそも現代では、ロナモロス教の信者は極めて少なくなっている。

異端扱いも珍しくない事を思えば、ここにはまず絶対に来ないだろう。


そんなアウェーの聖地に、よりにもよって教団のトップが姿を見せた。

これは一体、どう捉えるべきか。


ニセモノかも知れないという疑念が湧いたのは、ごく当然の話だった。

しかし考えてみれば、ロナモロス教の教主を騙るメリットが何もない。

他の場所ならまだしも、この聖都でそれをするのは自殺行為に等しい。

どこをどう切り取ろうとも、彼らをニセモノと見なす理由がない。


実際、所持していた指輪を見た事により、すぐに本物だと確認できた。

副教主も同様だ。同行してきた男性に関しては二人が身元を保証した。

武器も携帯していないし、今ここでその保証を疑うのは無礼が過ぎる。


「…確認致しました。それではもうしばらくお待ち下さい。」

「ええ、ごゆっくり。」


教主を名乗った少女は、告げた俺に対しニッコリと笑みを向けてくる。

正直、まだ子供だとしか思えない。…ロナモロス教の教主というのは、

こんな子供にも務まるのだろうか。

いや、この考え方も場合によっては国際問題になり得る。まして彼女は

ロナモロス教の頂点だ。もしかして途方もない力を持っているのかも…


よそう。

門番風情に分かる事など、それほど多くはないのである。

訪問は突然だったものの、そこには敵意などは見られなかった。いや、

そもそもマルコシム聖教と彼らとの間に、現在進行形の軋轢などない。

気を回し過ぎるのは、逆に悪手だ。


何より、門を潜っただけで教皇様にすぐ会えるわけでもないのである。

妙な事をすれば、その時は護衛たちが彼らを容赦なく捕らえるだろう。

過度な心配はいらない。


「お待たせしました。」


俺は俺の職務を全うし、彼ら三人を招き入れた。

何事も無かれと願う。まあ、万一の時にも中の警備隊が対応するか。

少なくとも、この俺の責任問題にはならないはずだ。


そう考える俺は



甘かった。


================================

================================


実際に会うまで信じられなかった。


だが門番からの連絡通り、来訪者はロナモロス教の教主たちだった。

その事実を目の当たりにしてなお、信じ難いという思いは消えない。


だが、そんな事は言ってられない。


警備隊長としての責務はただ一つ。教皇と教皇女の安全の確保だ。

来訪の意図はともかくとして、この三人の持つ力を把握する事こそが

最優先である。何と言っても相手はロナモロス教。恵神ローナの天恵を

率先して得る者たちである。つまり何がしかの力は確実に持っている。

我々とて、天恵なるものを否定するつもりはない。不浄だと糾弾する

気もない。確かに存在するそれを、いかに定義するかが重要なのだ。


何事も、建前だけでは解決しない。目を背けても事実は変わらない。

だからこそ我々は、常に全ての懸念を排する準備を怠らない。


「頼んだぞ。」

「はい。」


別室に待たせている三人は、ここのマジックミラー越しに見える。

招き入れたのは、古くから大聖堂に通う小柄な神託師の老女だった。

もちろん、ロナモロス教の信者ではない。と言ってマルコシム聖教にも

帰依していない。言わばフリーだ。単純に金を払って天恵を見させる。

最近では依頼も減っていた。そこにこんな重要案件である。さすがに、

ベテランである彼女の表情にも少し緊張の色が見て取れた。


問題は、あの三人の天恵だ。もしも危険なものなら教皇に会わせるのは

絶対に許可できない。逆に言えば、危険でないとすれば無下に扱う事は

絶対に許されない相手なのである。ここはひたすら慎重に、だ。


ネラン石をかざした老女が、右端に座る男の天恵を見た。

しばしの沈黙ののち。


「やはり宣告済みですな。」

「内容は?」

「【鑑定眼】とあります。おそらく他人の天恵を見る力でしょう。」

「そうか、なるほど…」


なかなか稀有な天恵だろう。だが、「見る」だけなら特に問題はない。


「コピーできるとか、そんな特性はないのか?」

「考えにくいですね。天恵名からもないと言っていいでしょう。」

「ふむ…」


さしあたりの脅威にはならない。

なら残りは二人だ。しかしこの二人の天恵を見るのは、さすがにかなり

抵抗がある。何と言っても彼女らはロナモロス教のツートップなのだ。


「…いかがなさいますか?」

「かまわん。見てくれ。」

「…承知致しました。」


老女も覚悟の上だろう。その口調に迷いはもう感じられなかった。

マジックミラーに向き直り、教主の天恵を見るため意識を集中する。


そうだ。

私の任務は、教皇と教皇女の安全を確保する事のみ。

そのためなら、この程度のリスクは覚悟して然るべきだろう。

この聖都で妙な真似はさせない。


「見えました。お二方とも宣告済みのようです。まあ当然ですな。」

「天恵の内容は?」

「はい。それは...」


彼女の説明を聞く私は、警備隊隊長としての責務を間違いなく全うする

覚悟を持っていた。少なくともこの命を懸ける程度には。


そう考える私は



甘かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ