表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
218/597

人の求める神の在り方

人の世は、いつも安寧を求める。


浅ましい争いが絶えない時代でも、心の拠り所をいつも求めている。

そんな人々の切なる願いは、やがて神という概念として結実していく。


しかし、人はそんな神にすら自分の理想を押し付けがちである。

かくあるべしという真の神の姿は、いつの時代でも漠然としている。

望まれる数だけ、神は形を持つのだと言えるかも知れない。

本来、宗教が求める神とはそういう概念に留めるべきかも知れない。


そういう意味で言うならば



ローナは根本的な部分で人間との、そして宗教との相性がかなり悪い。


================================


恵神ローナは、15歳になった人間全てに「天恵」を授ける存在だ。

性別も貴賤も人種も何も関係なく、その年齢に達すれば例外なく天恵が

もたらされる。試練など何もない。それは神からの恵みというよりは、

むしろ性徴のようなものである。

そして天恵の内容は、個人の資質と無関係である場合が非常に多い。

ごく稀に、幼少期から天恵の片鱗と呼べそうな技能を見せる者もいる。

しかしそれらは大抵、単なる本人の素質に過ぎない。あくまでも天恵は

プラスアルファの力であり、それをどう活用するのかは15歳になった

本人次第である。


天恵は、様々な意味で容赦がない。

いかに善行を積もうといかに悪行を重ねようと、授かる内容に何ひとつ

影響を与えない。言い換えるなら、そこに因果応報という概念はない。

天恵は、残酷なまでに平等である。


================================


かつて、恵神ローナを崇める宗教として、ロナモロス教はこの世界を

席巻した。人知を超えた力を天恵として授かるという現象は、人々に

畏怖の念を深く深く刻みつけた。


しかし時代と共に、ロナモロス教は腐敗の一途を辿っていった。

どこまでも平等にもたらされる天恵を認めない者たちは、天恵の宣告を

自分たちの都合のいいように歪め、そして私物化していった。

神託師という聖職は形骸化が進み、ロナモロス教の傀儡となり果てた。

もはや本当の天恵を知る方法など、誰も知り得ないという有様だった。


そんな腐った時代の果てに。


全ての人が、恵神ローナの声をその耳ではっきりと聞いた。

その心で、恵神ローナの抱く怒りをはっきりと感じ取った。


いかにして天恵宣告が成されるか。その手順を、胎児ですら理解した。

もはや神託師たちのでたらめなど、誰に対しても意味を成さなかった。


世の全ての者はここに至り、恵神の実在を否応なくはっきり確信した。

天恵とは恵神が授けるもの。当然の事実を、はっきりと再認識した。


「デイ・オブ・ローナ」と呼ばれるその出来事は、恵神ローナに対する

世界の認識を変えてしまった。人はローナの存在を感じ、そして彼女の

怒りに何よりも慄いた。


純粋性を取り戻した天恵宣告は



それ以降、急速に廃れていった。


================================


神は、どこまでも曖昧であるべき。

定義が明確でないからこそ、世界は神を拠り所にする事が出来る。

ある意味、都合のいい解釈を与えて利用する事さえ出来るのだろう。


そういう意味で言うなら、ローナは自ら神である事を否定している。

己の役割をこれ以上ないほど明確に示した事により、自分が「単なる」

高次存在に過ぎないという事実を、容赦なくさらけ出したのである。


これほどまでに定義が明確になってしまえば、人はローナという存在に

救いを求めなくなる。拠り所として見る事もなくなる。それに伴って、

自分が授かるはずの天恵に対しても耳目を塞いでしまう。

どこの世界においても、人の求める神様には曖昧さが必要なのである。


かくして、ローナは救世の存在ではなくなった。彼女の授ける天恵は、

本当にごく一部の者が求めるだけの代物になり果てた。国によっては、

天恵を悪魔の贈り物と呼び忌避する習慣すら根付いている。


人から遠い存在になったローナは、もはや何の言葉も発しなかった。

世の殆どの人間が知ろうともしない天恵を、ただ授けるだけの存在。

実在を知ったからこそ、人は彼女を神とは見なさなくなっていった。


そして現代。

「神」としてのローナを忘れた世界には、新たな宗教が存在している。



その名はマルコシム聖教。

タリーニの聖都グレニカンを総本山とする、世界第一の宗教である。


ローナという存在を否定しないその教義は、人に安寧をもたらした。

恵神も天恵も受け入れた上で救いをもたらす。人々の拠り所として、

これ以上のものはないとも言えた。


「デイ・オブ・ローナ」から数えて200年。

既にマルコシム聖教の信徒は、遍く全ての国に広がっていた。



そして。


「ええ、それは大したものですね。認めざるを得ませんよ。」


聖都グレニカンの片隅で、人知れずそんな事を呟く女性がいた。


「だからこそ、待った甲斐があるというものです。」


彼女の名はネイル・コールデン。



今は廃れたロナモロス教の、副教主を務める女性だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ