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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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予期せぬ前乗り

「ここがどこかは知ってるよね?」

「もちろん知ってる。」


もうその質問からして、今回の件を端的に表現している気がする。


「…と言うか、来週来るはずだった場所だよ。」

「その通り。」


意味ありげに頷き、ローナが笑う。やっぱり分かってんなこの神。

それでこんな風に問うという事は…


「つまり、ネミルが誰かしらの天恵をコピーして使ったって事か?」

「ご明察。」


即答したローナは、パンと手を叩き海の方を見やった。


「お客の天恵【転送】を、ちょっとした手違いでコピーしたんだって。

その事自体すっかり忘れてて、店に帰ってきたあんたの顔を見た瞬間に

ここが浮かんじゃったみたい。で、目的地設定と勝手に認識した天恵が

あんたをここに飛ばしたのよ。」

「何なんだよ、その危ない天恵…」

「まあネミルも慣れてなかったし、仕方ないって事ね。」


そう言われると、どういう気持ちでいればいいか分からなくなるな。

それにしたって、ちょっと目的地を思い浮かべただけで発動するとか、

扱いが難しいにも程があるだろう。こんなもん、どうやって…


「いやいや、普通はそこまで簡単に発動するもんじゃないんだよ。」


俺の愚痴を聞いたローナが、そんな事を言って軽く手を振った。


「よほど強い念でも込めない限り、こんな遠くに人間一人を送るなんて

出来るもんじゃない。まあ、きっとネミルも楽しみにしてたからよ。」

「…………………………」


ますますリアクションに困るな。

結局、俺一人が新婚旅行の目的地に前乗りしたって形になるのかよ。



何というか、かなり理不尽だ。


================================


「…で、俺は一体どうすれば?」


そう言いながら、俺はローナに目を向けた。既に薄暗くなりつつあり、

何とか状況を打開しないとキツイ。


「あなたが連れて戻るってのは...」

「もちろん無理。」


分かってたけど、食い気味に否定をかまされてしまった。


「ポーニーもあたしも、他の場所に転移できるのは自分だけ。もちろん

例外もあるけど、少なくとも人間を連れての転移は絶対にできない。」

「そうだったよな…」


ポーニーはとにかくとして、仮にも神であるローナの力が何でそこまで

制限されてるんだと思う。しかし、やっぱり万能は嫌なんだろうなとも

考えられる。せっかく人間の姿で、人間社会に解け込んでるんだから。


「じゃあどうすりゃいいんだよ。」


何となくやさぐれてきたな俺。

いい加減、空腹が限界だ。せめて、そこだけでも何とかならないのか。


「このまま自力で帰れってか?」

「いくら何でもそんなの無茶だし、不毛だよ。考え方を変えよう。」

「変えるって、何を変えれば…」

「あんたが帰るんじゃなくってさ、ネミルが来ればいいんじゃない?」

「は?」


どういうわけか、その発想は俺にはまったくなかった。


「どっちみちポーニーとあたしとでお店回すんだからさ。ちょっと早く

新婚旅行に行ったって、バチなんか当たらないってば。」

「当てないの間違いだろ。」


呆れて答えつつも、俺はその提案にやっと前向きな気持ちになれた。

ネミルが一人でここまで来るという条件に、かなり不安はあるけれど。

何事も挑戦だ。


「…よし、じゃあそれで。」

「よーしよし!」


多分、向こうでネミルとポーニーとかなり相談していたんだろう。

何だかローナは嬉しそうだった。



分かんねえなあ、恵神の考えって。


================================


「まずは最初の場所まで戻って。」


何かの段取りがあるんだろう。俺はローナに言われるまま、歩いた道を

逆に辿って振り出し地点を目指す。日が落ちると印象が全然違うなあ。

ちょっと迷いそうになったものの、どうにかあの女の子と遭った場所に

戻ってくる事ができた。


「確かここだな。」

「間違いない?」

「ああ。まあついさっきの事だし、合ってると思う。」

「分かった。じゃあちょっとここで待ってて。」

「?ああ…ってオイ!?」


言い置いて、ローナの姿は消えた。どこ行った、まさか帰ったのかよ。

こんな中途半端な場所で置き去りにされたら、どうする事もできな


ドサッ!!


「痛てッ!?」


唐突に降ってきた黒い何かが、頭を直撃した。固くはないけど重い。

ぶっ倒れそうになった体を、何とか立て直した。落下物は、そのまま

足元に落ちてドサッと仰々しい音を立てる。


「あれっ。」


そこでようやく、俺はその落下物が鞄だって事に気が付いた。それも、

俺の旅行鞄だ。これ、もしかして…


「上手く行った?」


恐る恐る鞄に右手を伸ばした途端、またローナが戻って来た。


「どこ行ってたんだよ。」

「お店に戻ってたのよ。」

「って事はコレ…」


「そう、ネミルからの送りもの。」


言いながら、ローナが鞄を指差す。


「苦労して用意したみたいよ。で、最初と同じ場所に転送させたの。」

「何で上から降ってくるんだよ。」

「あれ、そうだったの?」


キョトンとしたローナはやがて笑い出した。


「転着座標がずれたんでしょうね。まあ細かい事はいいじゃない。」

「…………………………」


釈然としないなあ。

けっこう痛かったんだが。



まあいいや。

まずは中身の確認だ。

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