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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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そんなつもりじゃ

新婚さん。


そう言われる機会も、さすがにもう少なくなってきた。

そもそもお店を一緒に開いてからが長いから、そう見えないのもある。

だけどここは田舎街だ。それ故に、人の噂はけっこう広く伝わる。

今さらながら、あたしたちが正式に結婚した話はちゃんと広まった。

略式とはいえ結婚式も挙げたから、新婚さんには違いない。


でもやっぱり時間は等しく過ぎる。

もたもたしていると、「新婚さん」である時期も終わってしまう。

そうなってからでは、新婚旅行って言葉も意味を失ってしまうだろう。


もうすぐディナさんの出産予定日。生まれてからはまた騒がしくなる。

多分、あたしたちにも何かと用事が回ってくるような予感がある。



その前に新婚旅行だ!


================================


今日は曇り。昨日までの雨のせいであちこちぬかるんでいる。なので、

観光客の姿もあまり見ない。お店もけっこうヒマになるパターンだ。


いい機会だと言って、トランは少し遠い市場まで買い出しに出かけた。

あたしとポーニーで留守番。今日はローナはどこかに行ってるけれど、

夕方には来ると言っていた。まあ、平和な時間だ。洗いものを済ませ、

あたしたちはのんびりしていた。


新婚旅行は来週からだ。もう既に、旅の支度はバッチリできている。

三泊四日のささやかな旅行だけど、思えば初めての本格的な二人旅だ。

あれこれ考えると、どうしても顔がホタホタと緩む。


「待ち遠しいですよね。」

「まあねぇ。」


ポーニーは基本的に、茶化すような言い方をしない。だからあたしも、

率直な言葉が返せる。何たって新婚旅行だ。待ち遠しくないわけない。


あれこれ考えているうち、あたしはふと胸元から指輪を取り出した。

じっと見ていると、今までの経緯が頭の中を巡る。そうだ、この指輪を

お爺ちゃんが遺した事で、あたしとトランの日々は始まったんだった。


結婚指輪は、あえて作らなかった。あたしにとっての「指輪」と言えば

間違いなくコレだし、あたしたちの縁を結んでくれたのもこの指輪だ。

今さら、コレ以外の証を指にはめる気にはなれなかった。


「いいんじゃないか?それで。」


トランもあっさり納得してくれた。指輪はあたしにとって今まで以上に

大切なものになった。

あらためてその思いを確認し、指にそっとはめる。いいなあこの感じ。


あれよあれよという間に「大人」として生きていく道が決まった。

多分これからも、トランとこの指輪と一緒に歩いて行くんだろう。

あたしは…


チリリン。


「あ、いらっしゃいませー!」


一人の男性の来店により、あたしの物思いは中断した。指輪をしたまま

接客している事に、ほんの少しの間気付かなった。こんな事は珍しい。

注文を聞きながら、あたしは久々にちょっと指輪を使いたくなった。


この人は「白」だ。

じゃあ、どんな天恵を持っているんだろうかと。

普段そんな事しないのに、当たり前のように天恵を覗き見てしまった。


へえぇ、【転送】だって。

以前に来てくれたモリエナさんは、確か【共転移】だったっけ。

転移と転送。似てるけどその能力はかなりちがうんだろうなあ。

そう言えば資料にも載ってたっけ。ええっと確か…


「カフェオレお願いします。」

「あっ、ハイただいま!」


しまった、まだちゃんと注文聞いてなかった。…ちょっと浮ついてる。

いけないいけない。旅は来週から。それまではちゃんと仕事しないと。



気持ちを引き締め、あたしは注文を確認していた。


================================


「ただいまー。」


それからたっぷり1時間後。

大荷物を抱えたトランが、ようやく買い物から帰ってきた。


「おかえりー。」

「お疲れ様です。」

「大丈夫だったか?」


カウンターに荷物を置き、トランはそう言って店内を見渡した。

さっきのお客さんはもういないし、あれから誰も来ていない。ただ、

近所の出前の注文が2件あった。


「なるほど。まあ今日はそんな感じなんだろうな。」

「そうね。」

「正直、旅の前にあくせく働くのもちょっと嫌だしな。」

「あれぇ、そんな事言ってていいんですか店長?あたしがお店を…」

「簒奪を匂わせるなってのに。」


不穏な事を言うポーニーを、トランが笑いながら窘める。あ、やっぱり

彼も楽しみなんだなぁと実感した。

いよいよ来週だ。向かう先は…


シュン!!


「え?」

「あれ?」


その瞬間。


目の前に立っていたはずのトランの姿が、一瞬で掻き消えた。

音も立てず、前触れさえもなく。


ゴトゴトン!


カウンターを転がったジャガイモが何個か床に落ち、鈍い音を立てた。

ハッと我に返ったあたしは、それを拾おうと反射的に手を伸ばす。

伸ばした手の指に、着けっぱなしにしていた指輪が見えた。


あ。

外すの忘れてた。

そう言えば、さっき来たお客さんの天恵を…


え?

まさか…



これ、原因はあたしなの?

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