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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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俺とネミルの記念に

ウルスケス・ヘイリーの魔核の件に関わってから、6か月が過ぎた。


どうなる事かと懸念は尽きなかったけれど、意外と世の中は平穏だ。

もちろん、ジューザーの街の事件は未だ解決していない。ウルスケスも

行方不明なままだし、それ以外にも気になる事は色々と残っている。

だけど、俺たち自身や店に関わってくるような気配がないのも事実だ。

完全に納得したわけじゃないけど、やはりローナの言う通りだろう。


魔王だろうが神託師だろうが、俺やネミルやポーニーに出来る事なんて

決して多くはない。見通しも無しに突っ走ったとしても、今の暮らしを

壊してしまう未来しか見えない。


世の中ってのは、常に問題を抱えている。それこそずっと昔から。

自分たちもその世の中の一部だと、割り切る事も時には必要だ。



そんな感じで、日々は続いている。


================================


少なくとも、俺たちの暮らし自体はそんなに悪くない。

神託師としてのネミルは、そこそこ暇だ。開店休業ってほどじゃないが

一人も客が来なかった月もあった。もはや本人も開き直っている。


「あたしたちだって、お爺ちゃんが仕事してるの見た事ないもんね。」


そう言えるようになってきた。

確かに俺たちは、ルトガー爺ちゃんが神託師の仕事をしてるところなど

まともに見た事がない。しかし今になって、エイラン・ドールのように

爺ちゃんから天恵宣告を受けた人を知る事になっている。

要するに、神託師ってそういうものなんだろう。毎日のように客が来る

喫茶店とは根本的に違うって話だ。天恵宣告が廃れている時代だという

事実を、ようやく自分自身の感覚で受け入れる事ができたんだろう。



身の丈に合った暮らしってものが、そろそろ根付いてきた感じだった。


================================


今さらな話になるが、俺とネミルは正式な夫婦となった。

と言っても、盛大な結婚式を挙げたとかじゃない。どっちかと言うと、

ちゃんと書類上・戸籍上のノルマをクリアしたという感じだ。


正直、今さら結婚式を!というのは俺もネミルも望んでいなかった。

懸念があるのは事実だけど、それとこれとは関係ない。…何というか、

純粋な今さら感があった。ずうっと一緒だったからいいじゃん!的な。


もちろん、それだけで済ませるなら親から反対されていただろう。が、

この時は姉のディナがうまい具合に自分たちの事情を重ねてくれた。

自分たちが先に結婚式を挙げたい!という意向がかなり強かったので、

俺たちがそれに乗っかる形にした。つまり姉たちの結婚式に便乗して、

一度のイベントに集約させたのだ。自分で言うのも何だけど、けっこう

いい考えだったと思う。現実的な話として、大勢の人を集める機会を

一度にする事もできた。俺たちの方に若干のオマケ感があったけれど、

ネミルはむしろそれが良かったねと喜んでいた。


ぶっちゃけ、姉と張り合う形の式になるのは気が重かったのもある。

同時に済ませるという選択は、変な後腐れを残さなかったという点でも

正解だったと思っている。



かくして俺たちの暮らしは、ほんの少し形を変える事になっていた。


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しかし、何にもなしというのも少し寂しい。それは俺も同じである。

式や入籍は略式で済ませたのなら、せめて新婚旅行はちゃんと行こう!

という話に異論はなかった。


幸いな事に、今の店にはきっちりと留守番をしてくれる店員がいる。

日々腕を磨いているポーニーなら、しばらく一任しても大丈夫だろう。

忙しい時はさすがに独りで回すのは厳しいけど、そこはローナがいる。

最初こそ素人丸出しの皿洗いだった彼女も、ほぼ全てのサポート作業を

マスターしている。本人としても、皿洗いは性に合っているらしい。


…天恵の化身と恵神ローナを店員として使っている不条理については、

もう完全に慣れてしまった。本人が喜んでやってる事だから、今さら

あれこれ言うのも野暮ってもんだ。ちゃんと給金を払ってこき使おう。


そんなわけで、新婚旅行は来月だ。今さら新婚もへったくれもないが、

やっぱり思い出作りは大切にしたいというのも事実。余計な心配はせず

自分たちの時間を過ごす事にする。

俺たち二人、それなりに「大人」をやれている気する。

そんな自分が少し誇らしかった。


しかしこういった順調な時にこそ、思わぬ落とし穴が口を開ける。

しなくてもいい事をした結果、妙な事態に陥ってしまう事もある。

そう。

すっかり忘れていたけど、ネミルは爺ちゃんの指輪を持っている。



あれは、なかなか油断できない代物なのである。

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