表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
204/597

お義姉さんの天恵

ディナさんの事をどう思っているかについては、説明が難しい。


もちろん、トランのお姉さんだから昔から知っている。とは言っても、

そんなに話す機会とかはなかった。いくら幼馴染と言っても、トランは

男の子だから。なかなかお姉さんと話すような機会は巡ってこない。

大きくなってからはトラン本人とも少し疎遠になってたから、なおさら

ディナさんとの接点は少なかった。


お爺ちゃんが急逝した事で、全てが大きく変わってしまったけど。

結局、ディナさんとはさほど親しくなれてなかった感じである。


まあ、それを抜きにして考えても。



あたしは正直、今もちょっとディナさんは苦手だ。


================================


と言っても、嫌いな訳じゃない。

根っから優しい人だし、きつい言葉を投げられた事なんて一度もない。

子供の頃から、そのイメージは何も変わらない。


ただ、潜在的にライバル視されてる事実は否定しようがない。

理由は分かってる。トランとあたしが許嫁の関係になったからだ。

意外と結婚願望の強いディナさんにとって、それは抜け駆けか裏切りに

思えてしまったんだろう。

もちろん、あたしたちにそんな気は微塵もない。お爺ちゃんへの誓いを

二人で声に出し、形にしただけだ。思いもかけない人生早回しだけど、

少なくともディナさんを出し抜こうと考えたりはしていない。その事は

ディナさんもちゃんと分かってる。


そう、理屈では。


理解するのと受け入れるのは別だ。ディナさんは、後れを取るまいと

躍起になっている。何があろうと、あたしたちの先を行こうとしてる。

そんな一方的にライバル視されても困るんだけど、言えるはずもない。

あたしたちが許嫁の関係を今日まで続けている理由も、半分くらいは

ディナさんへの遠慮かも知れない。


好き嫌いではなく、そういう理由であたしはディナさんが苦手だ。

だから一昨日、一人で家に来て!と言われた時にはちょっと怖かった。

何をされるんだろうという不安が、どうにも拭い切れなかった。

と言っても、行かない選択はない。まさかここで血を見るような事には

ならないだろう。いくら何でもその想像は、関係者全員に対し失礼だ。

トランたちに聞かれたくない話とかがあるのなら、いくらでも聞こう。

何たって女同士だし。


…え、家にお一人ですか。


やっぱりちょっと怖い…


================================


と言うわけで本題。


まさか、天恵を見てくれと言われるとは夢にも思わなかった。

いや、この人と天恵の宣告って要素が全然結びつかないと言うべきか。


今日に至るまで、ディナさんは弟であるトランの天恵を訊かなかった。

あたしが見ているだろうという事はすぐ判るはずだけど、他のご家族と

同様、話題にすらしなかった。

あたしたち的には、その方が大いに助かる。「魔王」なんていう天恵、

あまりにも説明が難し過ぎるから。


神託カフェと言ってるけど、実際に天恵宣告をする機会は今でも稀だ。

オラクレールは、ごく普通の喫茶店として日々の営業を続けている。

どちらかと言うと、神託師としてのあたしは両方の家族から腫れ物扱い

されている…と言ってもよかった。まあ「それは言わない約束」的な。


だからこそ、今さらディナさんからそういう話を振られるのは意外だ。

とっても意外だ。


「…どうしてですか?」


普通は訊かないけど、この場に限り訊かずにはいられなかった。


「今になって、天恵を知りたくなるきっかけでも…」

「いや、別に深い理由はないよ。」


あっさりそんな即答が帰ってきた。

ないの理由?


「まあその、ホラ、アレよ。」


何かしらそれっぽい事言おうとしているらしく、目が泳いだ。


「あたしもいよいよ結婚だし、その前にオメデタだし、せっかくだか」

「ええっ、オメデタ!?」

「え?…ああッしまった!!」


どうやら口が滑ったらしい。でも、別に悪い事でも何でもないだろう。

何というか、赤くなったディナさんの顔を見てるとテンション上がる。

細かい疑念などどうでもよくなってしまった。


「わーおめでとうございます!!」

「い、いやその…秘密にしてよ?」

「その方がいいなら、黙ってます。ご心配なく。」

「ありがと…」

「じゃあ、お祝いとしてぜひ天恵を見させてください!」

「え?…あ、うん。そうね。」


理由を捻り出さなくてもよくなったせいか、ディナさんは見て判るほど

ホッとしていた。あたしとしても、もうあれこれと詮索する気はない。

迷わず指輪を取り出した。


「それじゃあ早速。」

「お願いします。…あ、悪いけど、この天恵もトランには内緒にね。」

「え、これもですか?」

「どうせ聞くだけだろうし、余計な詮索もして欲しくないからね。」

「分かりました。」


なんか気持ちは分かるからいいや。

今日になって、急にこの人に対して親しみが湧いた気がする。


さあて、んじゃ行ってみよう。


================================


お店の外で天恵宣告って、何となくいけない事をしてる感があるなあ。

でもまあ、やる事はいつもと同じ。代金は…どうしようかな。

トランに言えないんなら、あたしが着服する以外に道はないのかも…


そんな邪念をいったん脇に置いて、指輪とディナさんに意識を集中。

いつもどおりの光が見え、内に宿る天恵が見えてくる。


「ディナ・マグポットさん。」

「はいっ」

「あなたの天恵は…」

…………………………


「【偉大なるゆりかご】です。」


…………………………


え?

何それ?


================================


「すっごい!何だかカッコいい!」


ディナさんは大喜びだったけれど、あたしは戸惑うばかりだった。

これまで変な天恵や危険な天恵など色々見てきたけど、今回のは完全に

初見だ。資料にも出てこなかった。つまり過去の事例が知られていない

超レアな天恵なんだろう。

超レアなだけに、内容が何ひとつとして分からないのが現状だった。


「ええっと…細かい事はあたしには分からないんですが…」

「いいよいいよ別に。」


恐縮するあたしに対し、ディナさんはあっけらかんとそう言った。


「別にこれで何しようってつもりもないし、分かっただけでも十分!」

「え、でも…」

「ねえねえネミルちゃん。」

「は、はい?」


グッと顔を寄せられ、あたしは少し緊張した。…何でしょうか?


「…ここだけの話、トランの天恵とどっちが名前的にカッコいい?」

「へ?」

「ハッキリ正直に言ってみてよ。」

「あのう」

「怒らないからさ。ホラどっち?」


…………………………


「ディナさんの方ですね。」

「気を使ってない?」

「はい。」

「よおっしゃ!!」


少なくとも嘘じゃない。「魔王」と比べればこっちの方がカッコいい。

偽らざるその答えに、ディナさんは大喜びだった。


「どうよどうよ!あたしは偉大なる天恵の持ち主なんだからね!!」

「そうデスねー」


もうあんまり考えずに答えとこう。それが一番いい気がする。

確かに珍しい天恵ではあったけど、だからって彼女は何も変わらない。

喜んでもらえたなら嬉しい限りだ。

…お代金はあたしがもらっとこう。


悪くない結果だった。

その後はディナさんと二人、大いに談笑した。とっても楽しかった。

あらためて、この人と仲良くなれたような気がしていた。


知らなかったんだ。

この日あたしが何気なく宣告した、ディナさんの天恵が。



これから先のあたしたちの運命を、根こそぎ変えてしまうものだとは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ