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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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謎の従者たち

昔は、魔物だ何だと不思議な存在も当然のように幅を利かせていた。

魔法という概念もあった。天恵宣告はその名残とも言えるらしい。

絶えて久しいとはいえ、完全に世界から消滅したわけじゃないだろう。


だけど、今はもう時代が違う。

時代遅れの極みみたいな天恵を持つ俺が言うと、説得力ない。だけど、

それが紛れもない現代ってやつだ。


俺は騎士なんて見た事もない。


そして本物の剣なんて、恐怖以外の何ものでもないんだよ。


================================


「それはその…立派な使命ですね。尊敬します。」

「であろう?」


とにかく下手に出るしかない。

目の前の騎士は、得体が知れない。ただ頭がおかしい男なのかと呑気に

考えていたけど、他でもないここで魔王が降臨したなどと言い出した。

もしも天恵で感知したって話なら、対応を誤ると取り返しがつかない。


確かに俺は魔王の天恵を持ってる。だけど少なくとも、そんな悪い事を

した覚えはない。喫茶店店主として真面目に働いてるだけだ。何にせよ

事情が分からない事には…


「…んん?」


そんな疑わしい目で俺を見るな。

ホントに何なんだよこいつは。


形容し難い、十数秒の沈黙ののち。


「…まあ、とりあえず一休みだな。茶を所望しようか。」


俺もネミルも、思わず力が抜けた。鋭いのか鈍いのかハッキリしろよ。

いや、ハッキリされても困るか…。

って、


「よっこらせっと…」

「ちょちょちょ、待って下さい!」


ちょっと声が裏返ってしまった。


そんな鎧をまとったままで、普通に座ろうとするんじゃねえよ!

椅子が破れるだろうが!!


「何だ?私は客だぞ?なら別に…」

「だからァ!!」


遂にネミルの声も裏返る。いい加減俺も腹が立ってきた。

こんなワケの分からない奴に…!

と、その刹那。


チリリンチリリン!!


「シュリオ様あぁ!!」


入口のベルが慌ただしく鳴り響き、二人の女性が駆け込んで来た。


================================


「勝手に先行かないで下さい!!」

「そうですよぉ!!」

「おぉ、お前たちか。すまんな。」


今度は何だ、従者とかか!?

反射的に向き直った俺は、新たなる闖入者の姿に眉をひそめた。


どう見ても、騎士の従者っぽくない二人の女性。旅装束ではあるけど、

やっぱり違和感しかない。女性二人というのもおかしいし、何より…


「ささ、これどうぞ!」


俺たち二人の存在を丸ごと無視し、右の女性が素早く何かを椅子の上に

乗せた。どうやら、丈夫そうな革でできたクッションらしい。


「うむ。」


ギシッ!


座ると同時に椅子が軋む。しかし、破れるのだけは回避できたらしい。

謎の手際の良さ。…しかしこの人、かなり年上っぽいな。どう見ても、

こんな青年の騎士に仕える立場の人には見えない。…何だか、扱い方を

心得た保護者みたいな雰囲気だ。


「あ、すみませんお騒がせして。」


もう一方の女性が、今さら俺たちに詫びる。こっちはずいぶん若いな。

明らかに騎士より、いや下手すると俺たち二人よりも年下に見える。

…どうしてこんなに極端なんだか。


「ご苦労だったな二人とも。まあ、ゆっくり休むといい。」

「はあい。」

「ではこちらを。」


そう言いつつ年上女性が差し出したのは、酒らしき小瓶だった。

さすがにその行為に、俺もネミルもムッとする。…ここは喫茶店だぞ。

突然来て、持ち込みの酒を飲むのは失礼が過ぎるぞ?


そんな俺たちの無言の抗議など一顧だにせず、騎士は受け取った小瓶を

開けて一気に飲み干す。ずいぶんと喉が渇いてたらしい。…何なんだ、

このワケの分からない奴らは…


と、次の瞬間。


満足そうに飲み干した騎士が、糸が切れたようにガクッと突っ伏した。

あまりの唐突さに、俺たちは反応もできなかった。

カウンターの天板に、しこたま顔をぶつけるかと思った刹那。


「ほっ!」


反対側に控えていた年下の女性が、いつの間にか持っていた大きな枕を

素早く差し込んだ。落っこちた頭がその上に乗り、小さな音を立てる。

やがて聞こえてきたのは、明らかな寝息だった。


「…え、寝落ち…?」


しげしげと無遠慮に覗き込むネミルが、困惑し切ったような顔で呟く。


…もしかして今の瓶の酒、眠り薬か何かが入ってたのか?

そうとしか思えないほど、寝落ちは唐突だった。


一瞬の沈黙ののち。


「あらためてすみません。…本当にお騒がせしました。」


年上女性が、俺たち二人に向き直り深々と頭を下げた。さっきまでとは

明らかに違う態度に、俺もネミルもワケが分からなかった。とは言え、

この人からなら少しはまともな説明が聞けそうな気がする。


「いえ。…ところで、何なんですかこの人?」


かなりストレートで失礼な質問だと思う。だけど別にいいだろう。

ぶっちゃけ、この男も客観的に見てかなり失礼だったから。いっそ…


「私の息子です。」

「は?」

「え?」


息子?

いや年齢的には納得できるけど…


「ちなみに、私の兄です。」

「へ?」


年下女性が言い添えた言葉は、更に予想外だった。

つまりこの二人、すやすやと寝息を立てている騎士の母親と妹なのか。



話を聞けば聞くほど、俺とネミルの困惑は深くなるばかりだった。

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