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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ここが俺たちの線引き

チリリン。


「いらっしゃいませ!」


夕方の来客に、俺とネミルは挨拶の声を揃えた。

普段とは違い、そういう接客態度で臨んだ方がいい相手だったからだ。


「お久し振りです、イザ警部。」

「ああ。元気そうで何よりだ。」


頭を下げる俺に対して、客人であるイザ警部はそんな言葉を返した。

相変わらず仏頂面だけど、この人はこれが標準だ。だから気にしない。

少なくとも今、俺に対して悪意とかを抱いていないのだけは判るから。



こんな時、魔王の天恵は役に立つ。


================================


「で、重大な情報提供ってのは…」

「あ、こちらへどうぞ。」


今日も店は早じまいの貸切である。

最近こういうの多いけど、さすがに今日のは誰もが納得する理由だ。

イザ警部としては、よりにもよってこの店かよって感じだろうけど。


案内した奥の席には、二人の女性が座っていた。向かって左側の女性は

泰然としているけど、右側の女性は緊張の面持ちである。そんな二人に

軽く会釈し、イザ警部はその対面にゆっくりと腰を下ろした。


「どうも初めまして。ミルケン東署のイザ・コルトスです。」

「ゲルナ・ペルレンスと申します。どうぞよろしく。で、こっちが…」

「…レンネ・ヘーゼルです。」

「よろしく。」


口調も表情も硬いものの、レンネはイザ警部にしっかりと名乗った。

ちなみに隣に座っているのはゲルナではなく、祖母のドルナさんだ。

こういう場面においては、やっぱり年配者の落ち着きは実に頼もしい。

もちろんレンネはその事を知らないけど、彼女が隣にいる事の安心感は

別格だろう。


しんどい思いを繰り返している彼女だけに、もうこれ以上精神的負担を

上乗せしたくない。こんな機会も、出来れば今日で最後が望ましい。



頼みますよ、イザ警部。


================================


ドルナさんも交えて相談した結果、俺たちはこういう選択に至った。


ジューザーの街で起こった事件は、間違いなく警察の管轄である。

シュリオさんやリマスさんたちの方が話をしやすいのは事実だけど、

いくら何でもこれを騎士隊の人たちに相談するってのは違う気がする。

下手すると、国全体を巻き込む事になりかねない。

だからごく順当に、警察の人に事の次第を話そうという結論に至った。


「それでいいと思います。」


ドルナさんもそう言ってくれた。

さすがに彼女も、俺たちに何もかも託すつもりではなかったらしい。

どちらかと言うと、ローナに真相を見てもらいたかったという感じだ。

その言葉に、俺たちも気持ちが楽になった。


と言うわけで、今日に至る。


================================


「これが、その魔核です。」


袋から魔核を取り出し、俺はそれをそっとイザ警部の目の前に置いた。

眉をひそめた警部は、魔核をじっと凝視しながらレンネに問う。


「…これを、別れ際にウルスケス・ヘイリーに渡されたと?」

「そうです。」

「以前の聴取では、それを向こうの刑事には話さなかったんですね。」

「…………………はい。」

「あの警部さん、それは」

「いえいえ、分かってますって。」


ドルナさんの言葉を遮った警部は、フッと小さく笑った。


「私にだって子供だった頃はある。その時話したくなかった気持ちは

それなりに理解できるつもりです。どうぞご心配なく。」

「…はい。」


その言葉に、レンネが少し肩の力を抜いたのが見て取れた。



俺は怒られてばっかりだったけど。

意外と話が分かるなあ、警部さん。


================================


神託師の連続殺人を、リマスさんに伝えた時はかなりごり押しだった。

怪しさ満点のタレコミを、ポーニーにほぼ丸投げしたのである。それは

リマスさんが彼女のファンという、事実につけ込む姑息な手段だった。

トーリヌスさんの救出に協力したという実績があったからこそ、あんな

無茶な話でも聞いてもらえたのだ。


今回はそうはいかない。

どっちかと言うと、俺はイザ警部に要注意人物とみなされている。

爆弾事件の顛末を考えれば、もはや仕方のない自業自得だ。なので、

知り合いのよしみで目をつぶって…などとはとても言えない。


しかし、幸いドルナさんがいい感じで介入してくれていた。

俺たちはウルスケスとは何の関わりもないし、そもそもどんな人間かも

知らない。学生じゃないんだから、それはごく当然の話だ。その一方、

ドルナさんは孫に成りすますという特殊な手段でレンネに接触できた。

同じ接触でも、ゲルナの方だったらここまで介入できなかっただろう。


もちろん、現在でもジューザーの街の事件の真相は分かっていない。

警察はもちろん、俺たちも細かい事に関しては何も知らない。しかし、

少なくともかなりヤバい事態なのは否応なしに察していた。

そして俺たちは、ローナに深入りを止められた。完全な納得までには

至らないものの、やっぱりそっちが現実的だと俺たち三人も考えた。

何と言っても、俺たちは自分を守る力さえあまり足りていない存在だ。

正体の見えない悪意に立ち向かうにしては、あまりにも心許ない。


だけど、それでも投げ出してしまうのはさすがに無責任だ。

そう思ったからこそ、あれこれ考え今回の選択に至ったのである。



勝手な話かも知れないけど。

前にも増して、イザ警部が頼もしく見えていた。

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