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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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恵神はかく語りき

こんな時代だ。

天恵を分かっていない人間なんて、それこそ世の大半だろうと思う。

だけど俺たちがそれを面と向かって言われるのは、さすがに少しばかり

納得いかない。それは俺もネミルもポーニーも同じだ。

今日までに、様々な天恵の持ち主とそれなりに出会ってきたのだから。

黙って頷くわけには行かない。


たとえ相手が、恵神ローナでもだ。


================================


「それってどういう意味ですか?」


口火を切ったのは、やっぱりネミルだった。

そりゃ当然だろう。何と言っても、現代を生きる神託師なんだから。

納得いかないのはもちろんだけど、何よりも職業意識ってものがある。

純粋な疑問として、それは今ここでハッキリさせるべき事なんだろう。


「逆に訊くけどさ。」


少し尖ったネミルの口調は特に意に介さず、ローナは訊き返した。


「天恵って、何だと思う?」

「…恵神ローナ、つまりあなたから人間に授けられる、その人だけの

特別な力じゃないんですか?」

「合ってるよ、まさにその通り。」


即答したローナが、両手を広げる。


「あたしは、15歳になった人間に等しく何かしらの「力」を授ける。

天恵ってのはただそれだけの代物。意味も意図も何もない、この世界の

理のひとつでしかないのよ。」

「意味も意図もないって…」


さすがに、その言葉は引っ掛かる。意見せずにはいられなかった。


「それを決めるのは、神たるあなたじゃないのか?」

「違うよ。あたしはあくまで恵神であって、創世神じゃないからね。」

「…………………………」


次元が違い過ぎて、何がどう違うかよく分からない。そんな俺の困惑を

察してか、ローナは苦笑した。


「前に言ったと思うけど、あたしもこの世界の一部でしかない。外から

俯瞰する超越的な存在じゃないし、天恵を授ける任を果たしてるだけ。

もっと上がいるって話じゃなくて、単にそういう成り立ちなのよ。」

「…そうなんですか。」


複雑な表情を浮かべつつポーニーが呟く。さすがの彼女も理解の外か。

でも、何となくその理は分かった。


「だけど、その話と今の状況と何の関係があるんだよ。」

「あなたたちはつまり、天恵を悪用する連中を止めたいんでしょ?」

「…ええ、そうです。」

「そこがそもそも違うのよ。」

「違うって、何が…」

()()()()()って言葉自体がね。」



語るローナの口調に、ふざけている気配は一切なかった。


================================


「ネミル。」

「えっ、はい?」

「神託師になったんなら知ってると思うけど。」

「…何でしょうか。」

「この世界には、どう考えても人を傷つけたり殺したりするためだけの

天恵が存在するわよね。」

「ええ、確かに。」


訝しげにネミルが頷く。その事実は俺も知ってる。読み込んだ資料にも

過去の実例が数多く出てきたっけ。


「それを得た人間が、気に入らない誰かをその天恵で殺したとしたら。

それは悪用したって事になるの?」

「えっ」


問われたネミルの視線が泳いだ。


「それは…そうとも言い切れないと思うけど…」

「そう。悪用でも何でもない。ただ単に授かった力を使ったってだけ。

天恵ってのはそういうものなのよ。人間社会の常識や道徳で定義できる

代物じゃないって事。」


言いながら、ローナはふと遠い目になった。


「授けた天恵を、嘘で歪める事だけは許せない。だから200年前に、

一度だけ人間たちに苦言を呈した。それは知ってるでしょ?」

「デイ・オブ・ローナだよな。」

「そう。でもあんなの一度きりよ。それで勝手にあたしを怖れて天恵の

宣告が廃れたって、知ったこっちゃない。あたしはずうっと変わらず、

授け続けていた。得た人間たちが、それを使ってどんな事をしようと

別にかまわない。嘘さえ言わなきゃどうでもよかったのよ。」

「…………………………」


言われてみれば、天恵宣告の衰退は人間たちの独りよがりなんだろう。

恵神の存在が明らかになったという事実だけで、200年前の人たちは

過剰に委縮してしまったって事だ。ローナからすればくだらない話。


「じゃ、嘘の宣告さえしなければ、何をしてもいいという事ですか。」

「そう。それが天恵の正しい在り方なのよ。少なくともあたしには。」



ネミルの問いに答えるローナには、迷いも躊躇いも一切なかった。


================================


「…それじゃあ、ウルスケスの事も首を突っ込むなと?」

「そう。」

「オレグストやロナモロス教と結託して、何かをしているとしても?」

「直接あなたたちに関わらない話であれば、黙ってるべきだと思う。」

「…………………………」


返す言葉に詰まったのは俺だけじゃない。ネミルもポーニーも同じだ。

あまりにも、納得からほど遠い話と思った。思ったからこそ、簡単には

返答できなかった。


「たとえ鑑定眼だろうが魔核の生成だろうが、それは立派な天恵よ。

彼らなりに活用すると言うのなら、それ自体を否定すべきじゃない。」

「俺たちはこの世界の中で生きてる人間なんだぞ。」


思わず口調が激しくなった。


「見過ごす事で不幸になる人がいるなら、やるべきじゃないのかと思」

「それが矛盾なんだよ。」


俺の言葉を遮るローナの口調には、抗えない強さがあった。


「人間だと言いつつ、あんたたちのやろうとしてる事は神様のマネ事。

悪いけど、それは看過できない。」

「…………………………」


俺たち三人は、グッと黙り込む。



目の前にいるローナが放った圧は、まさに神のそれだった。

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