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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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禍々しきレンネ

今もなお、「魔王」の天恵は理解の及ばない一面を見せる時がある。

授けた本人であるローナでさえも、完全には把握していないらしい。


「あたしが使うんじゃないもん。」


神なのに何で知らないんだと訊いてみたら、そんな答えが返ってきた。

何と言うか、妙な説得力があった。

確かにそうだ。

青物屋だって、売った野菜がどんな料理になるかなんて知らない。

得た者がどう使うかによって、天恵も解釈が変わるって事なんだろう。

結局、魔王の定義も俺次第だ。



だからこそ、こういう時には警戒が必要になってくる。


================================


レンネ・ヘーゼル。


ジューザーの街で起こった大事件の犠牲者の家族であり、行方不明に

なっている少女の元ルームメイト。俺たち自身は何の面識もなかった。

だが今、彼女は何かしらの禍々しい影を全身にまとっている。今までの

経験からしても、まとう影の濃さに関しては、間違いなく過去一番だ。

ローナは別として、リアクションを見るにネミルやドルナさんには影は

見えていないらしい。という事は、「魔王」でのみ見える現象だろう。


しかし、今まで何度となく見てきた「俺への悪意の具現化」ではない。

そもそも会った事も話した事もない相手だし、悪意を持たれるような

心当たりが何もない。実際、今でも俺を意識している様子はない。

だとすれば、この影は何なんだ。

ついさっき秘かに確かめたけれど、ネミルの見立てでは彼女は「白」。

つまり、現時点でまだ天恵の宣告を受けていないという事になる。

なら内なる力の発現などでもない。ひょっとすると、誰かが何らかの

天恵を用いて、彼女に被せたのか。


もしそうなら、何のために?

かつてこの店に来たランドレたちと同じく、何か目的があるのか。

考えたくはないけど、彼女と同様に操られていたりするのだろうか。

ただの仮定でしかないけど、こうも濃密な影を見ると不安になる。

もし何かあった場合、俺は何を…


「ちょっ、本当に大丈夫?無理やり誘ってゴメンね。」

「いえ…別に…気にしないで。」


「大丈夫ですか?」


数秒目を離した隙に、レンネの影は信じられないほど広がっていた。

その影のせいで逆に見えないけど、実際に顔色もかなり悪いらしい。

一体どうして、急にこんな事に?



やがて彼女は、発作を起こした。


================================


「グルルルルゥッ!!」


人間のものとも思えないうめき声を耳にして、ネミルが肝をつぶした。

異常を察したドルナさんも、咄嗟に立ち上がりレンネから距離を取る。

手をテーブルについた姿勢のまま、レンネは髪を逆立てていた。


「何だ、何が起こった!?」

「分かんないよ!」

「レンネちゃん!!」


そんな悲鳴が飛び交う中、レンネは真っ赤に充血した目を俺に向けた。

明らかに異常だ。いや、人間の目かどうかさえ怪しい。もしかすると、

内なる天恵に呑み込まれたのか!?


ガタッ。


音を立てて立ち上がったレンネの目が、標的としてこの俺を捉えた。

こちらへと向き直った姿に、慄然としたその瞬間。


「「魔王」で止めろ、トラン。」



あまりにも場に似つかわしくない、平常運転なローナの声が聞こえた。


================================


「止まれ!!」


ギイィン!


迷う間もなく、俺は「魔王」の力でレンネを抑え込もうと試みた。

正直言って、うまく行くとはとても思えなかった。


しかし、結果はいつも以上だった。


俺がひと言を受け、獣の如き発作を起こしていたレンネは停止した。

文字通りピタリと動きを止めると、そのまま倒れ込む。危ういところで

駆け寄ったネミルが抱き留めた。


「おい大丈夫か!?」

「むしろ彼女は大丈夫なの!?」


カウンターから駆け出た俺の声と、向き直ったネミルの声が交錯する。

倒れたとはいえレンネのまとう影はまだ濃い。俺の視野ではネミルにも

べっとりと絡みついている。いつもなら硬化しているのに、その点でも

経験が役に立たない。


「ローナ!」


もはや、彼女に訊くしかなかった。


「これ、どうすりゃいいんだ!?」

「あんたが手で触れればいい。」

「…マジかよ。」


正直、ちょっと尻込みしてしまう。これ触れても大丈夫なものなのか。

しかし神の保証付きだ。ここはもう覚悟を決めるしかないだろう。

屈み込んだ俺は、意識を失ったままのレンネの頬に手で軽く触れた。


刹那。


キュイン!!


「うおっ!?」

「きゃあっ!?」


べっとりまとわりついていた影が、まるで弾けたかのように消えた。

その消失の衝撃は、見えないはずのネミルにさえ影響を残したらしい。

だが、弾けた影は俺自身の体に吸収されたようにしか見えなかった。


青白かったレンネの顔色が、あっという間に元に戻るのが判った。

影が消えた事で、何かしらの影響が霧散したらしい。だけど俺の方は…


「心配ないよトラン。」


いつの間にか傍らに歩み寄っていたローナが、そんな事を言った。


「その子がまとっていたのは魔力。あんたとは最も相性のいい代物よ。

体に吸収したところで、滋養にしかならないから大丈夫。」

「ホントかよ?」

「それが魔王ってもんだよ。」

「…………………………」


理解が追いつかない。


魔力?

滋養にしかならない?

俺がか?

正直、分からない事だらけだ。


俺自身の事も。



そして、レンネの禍々しい豹変も。

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