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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ランドレの涙

どこかの誰かが言っていた。

天恵とは、呪いのようなものだと。


最初は、意味など分からなかった。

だけど今では、誰よりもその言葉を実感しているという確信がある。

もちろん、悪い意味で。


伯母さんは、本当にあたしを憎いと思っていたのだろうか。殺したいと

本気で願われるほど、嫌われる事をした覚えがない。どこにもない。

あたしがそれなりの遺産を受け継ぐと、決まっていたからだろうか。


多分、そうじゃないと思う。

伯母さんは、洗脳の天恵を得たからこそあたしを殺そうと思ったんだ。

成し得る手段を手にしたからこそ、あたしの命を切り捨てたんだろう。

それだけに留まらず、伯父さんまで一緒に亡きものにしようと考えた。


悲しいけど、それが現実だ。

逮捕された伯母さんが、実際にそう供述したらしい。せっかくだから、

縁者を根絶やしにしようとした…と伯母さんは悪びれもせずに語った。


天恵が、伯母さんを歪ませた。

あたしの殺害を迷わなかったのは、その手段を持っていたからだ。

呪いだった。

あたしにとって、天恵はまさに呪いそのものだった。


だからあたしは、自ら望んで天恵の宣告を受けに行った。もしもそれが

本当に逃れ得ない呪いというなら、いっそ食らい尽くそうと思った。


あたしが得た天恵は、シャドルチェ伯母さんとまったく同じだった。

我が耳を疑ったけど、次の瞬間にはその現実を受け入れていた。



やっぱりこれは、呪いなんだと。


================================


「それじゃあ、お大事に。」

「ありがとう。」

「機会があればまた来ます。それとランドレちゃんにもよろしく。」

「ああ、伝えておきますよ。」

「ご自愛ください。」


そう言って出ていく女性の背中を、あたしは入口カーテンの影に隠れて

見送った。顔は見えなかったけど、声には何となく聞き憶えがあった。


どうして咄嗟に隠れてしまったのか考えるのは、何だか悲しかった。

せっかく伯父さんのお見舞いに来てくれた人を、怖れる自分がいた。


得た天恵のせい?

いいえ、それだけじゃない。


あたしは、不幸しか生まないんだ。

あたしと関わった人たちは、みんな苦しむ事になってしまうんだ。


きっとこれからもそう。

だからあたしは…


「いるのか、ランドレ?」

「うん。」


気配を察したのか、カーテンに影が映っていたのか。

呼びかける伯父さんの声は、いつもどおり優しかった。


伯父さん。



ごめんね。


================================


「遅くなってごめんね。」

「いやいや大丈夫だよ。それより、足りないものはなかったかい?」

「大丈夫。」


そう言いながら、あたしはテーブルの上に置かれた包みに目を向けた。

明らかに子供向けと思しき、可愛いラッピングがされている。


「ところで、これは?」

「入れ違いになったが、お見舞いに来てくれた人が置いていったんだ。

残り物で恐縮ですけどと言ってた。お菓子らしいよ。」

「お菓子…」


そっと手に取ると、予想よりも少し重く感じた。


「開けてもいい?」

「もちろんいいよ。」


ガサガサと包みを開けると、中から出てきたのはクッキーだった。

いかにも子供の口に合わせたように小ぶりで、カラフルなクッキー。

かすかな香りに、憶えがあった。


カリッ!


ひとつ摘まんで口に入れた刹那。


「大丈夫か、ランドレ?」

「う、うん。」


あたしは不覚にも涙を流していた。



優しい味に、記憶と思いが溢れた。


================================


「伯父さん。」

「うん?」

「これ、もしかしてあの時の喫茶店のお菓子?」

「よく判るんだな。」


伯父さんはちょっと呆れ顔だった。


「そうだ。あの日の喫茶店の人が、偶然この病院に来ていたらしいね。

入口にかかっていた私の名を見て、顔を見せたんだと言っていたよ。」

「そうなんだ…」


今となってはもう、懐かしい話だ。


あの日、あたしは爆弾を携えてあの喫茶店に乗り込んだのである。

操られていたと言っても、その時の記憶は今もしっかりと残っている。


あの時。

お店の人が機転を利かせてくれた。

もしあたしの言うままにしてたら、きっとまとめて殺されただろう。


「あのお店の人がここに。」


もうひとつ、クッキーを噛み砕く。

それが合図になるかのように、新たな涙が零れ落ちた。


何を思うのか、自分でもわからないままあたしは唇を噛みしめた。

あの日と同じクッキーの味に、心が何かを叫んでいるのを感じた。


絶対に口にできない言葉だ。

何もかも呪われているあたしには、口にする事が許されない言葉。


だからこそ、心の中で叫ぶ。



あたしと伯父さんを助けて、と。

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