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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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エフトポの天恵

よほど確信があったのだろうか。

ゴラモロの良識を多少は信じていたのだろうか。

それとも。

目的達成のためであれば、人一人の命などどうでもよかったのか。


分からないし、分かりたくもない。

出た結果こそが全てという事だ。


ゴラモロに与えられていた任務は、ペイズド・バスロ氏を人質にして

ランドレ・バスロを脅迫する事だ。それで彼女を外まで連れて来いと、

それだけ命じられていた。きわめて単純な任務であり、ある意味非常に

彼向きの内容でもあった。案の定、彼は何の迷いもなく取りかかった。


私の言う事じゃないけど、ゴラモロにこんな回りくどい役目は無理だ。

展開によっては、人質として捕えたペイズド氏を勢い任せで傷付ける…

というのも十分にあり得るだろう。殺す展開だってないとは言えない。


凶悪犯の思考は理屈じゃないんだ。

その責任は誰が取るつもりなんだ。


だけど。



全ては杞憂でしかなった。


================================


ギュイン!!


離れたこの位置からでも、ランドレの瞳が紫の光を放ったのが見えた。

離れた位置でチラッと見ただけにも関わらず、かすかに頭が痛んだ。

私だけじゃなく、オレグスト氏たち二人も同じ痛みを覚えたらしい。


ゴラモロは、中途半端な姿勢で刃物を構えたまま止まっていた。


「な、何だこの男は!?」


咄嗟にランドレを庇おうとしていたペイズド氏が、そんな言葉を放つ。

困惑は無理もない。あまりにも唐突で、脈絡のない襲撃だっただろう。

しかしランドレは、その唐突極まる襲撃者を事もなげに無力化した。


もはや、疑う余地もないだろう。

ランドレ・バスロは、自身の伯母であるシャドルチェ・ロク・バスロと

全く同じ天恵「洗脳」を得ている。得ただけではなく、我がものとして

完璧に使いこなしてさえいる。


「どうやら決まりみたいだな。」

「ですね。」


押し殺した声で交わされた言葉に、私は寒気を覚えた。


私には関係のない話ではあるけど。

彼女がどんな人だろうと、どうでもいい話ではあるけど。


それでも心のどこかで、この展開を避けたいという思いがあった。

ランドレ・バスロは取るに足らない天恵しか持っておらず、私たちは

無駄足だったと愚痴を言って帰る。シャドルチェ・ロク・バスロへの

文句を口にしながら。

間違いなく、私はそんな結末を心のどこかで願っていたらしい。


いつも現実は私の手をすり抜ける。



嫌でしょうがない。


================================


「…あそこまで強力だと、うかつな接触は命取りになるだろうな。」

「確かに。」

「じゃあ、どうするんだ?」

「そこは抜かりないよ。」


そう答えたエフトポ氏が、にやりと意味ありげな笑みを浮かべた。

オレグスト氏はピンと来ないのかも知れないけど、私は分かっている。

エフトポ・マイヤールという男が、どれほど抜け目ない人物なのかを。


ここへ来る際の共転移で、どういう策を講じているのかは知っていた。

あまりに狡猾なその策は、彼という人間を知ればこそ戦慄に値した。

そう。

彼の持つ天恵を知っていればこそ、そのおぞましさは心を削る。


「では。」


そう言って右手をかざすエフトポ氏から、私は無意識に目を逸らした。

これから起こる事を、まともに目にしたいとは思えなかった。



ゴラモロは、役に立つ。

まだまだ使える消耗品なのである。


================================


ドサッ!


鈍い音と共に、洗脳によって動きを封じられていたゴラモロが倒れる。

糸が切れたかの如きその倒れ方は、紛れもなく完全な意識の途絶だ。

そしてそれは、エフトポ氏の仕込みが発動した瞬間でもあった。


「お、おい君!?」


ゴラモロが崩れ落ちたのを目にしたペイズド氏が、彼に歩み寄った。

倒れた際に刃物は弾け飛んでおり、とりあえず脅威は無くなっている。

正確に言えば、もうゴラモロという人間は絶対に脅威にはなり得ない。


「伯父さん気をつけて!」

「ああ分かってる。しかしこれは…まさか何かの発作でも起こしたか?

とにかく警察を呼んで保護して」


屈み込んだペイズド氏に、私は心の中で訴えた。

触っちゃダメだと。

その男に触ってしまったら


あなたは…


================================


ドサッ。


「伯父さん!?」


ランドレの声は、甲高く裏返った。

倒れたゴラモロの肩に触れた刹那、ペイズド氏もその隣に倒れたのだ。

駆け寄ったランドレの呼びかけに、反応するような気配はなかった。


「よし、移ったな。」

「あれ、あんたの仕業か。」

「ああ。私の天恵の効果だよ。」


事もなげに告げるエフトポ氏の顔に浮かぶ笑みが、見るに堪えない。

そんな彼をここまで運んだ己にも、吐き気を禁じ得ない。


エフトポ・マイヤールの持つ天恵は【病呪】。



おぞましい、連鎖の力だった。

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