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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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空っぽの自分の姿

私の天恵は、自分と誰か一人を共に転移させるだけの能力に過ぎない。

その転移の際、相手の記憶の一部がこちらに写される。この点に関して

他言した事はない。母にさえも秘密にしている。


どのみち、他人にとって私は便利な移動手段でしかない。そして私も、

他人の天恵に対してあれこれ細かく考える事はない。興味ないからだ。

ロナモロス教の幹部は、ほぼ全員が母から天恵の宣告を受けている。

初めから覚醒していたオレグスト氏のような例外もいるけど、その皆が

大体ロクでもない事に自分の能力を使っているのは同じだ。今の世界に

よほど波風を立てたいのか、もはやテロリスト集団もかくやと思うほど

危険な勢力拡張を続けている。私は正直ついて行けない。行けないから

なおの事、興味を持たないようにと心掛けている。


だけど、そんな私でさえ今回の件はリスクが高いのではと思っている。


「洗脳」の天恵を持つという少女、ランドレ・バスロ。私より3歳も

年下ではあるけど、もしその天恵が本当なら、軽々しく手を出した時の

返り討ちが恐ろしい。下手をするとこちらが瓦解しかねない相手だ。


もちろん、引き入れる事ができればこの上ない戦力になり得るだろう。

ネイル・コールデンの考える事は、もはや記憶共有がなくても読める。


オレグスト氏が天恵を見た後、偽の神託師に宣告をさせた「背信者」。

宙ぶらりんになっているあの人たちを、あらためて引き込む際に洗脳を

施すつもりだ。恵神ローナに対して背信しているという先入観を与え、

弱っているところに洗脳で刷り込みを加える。そこまですれば、彼らは

一片の曇りもない狂信者として完成を見るだろう。忠実な兵士である。


嘘の宣告だけでも、洗脳の天恵だけでも足りない。人の心は複雑だ。

しかしその両方を重ね掛けすれば、人格を塗りつぶす事も可能だろう。

そのくらい私でも想像できる。

いかに懸念は多くとも、ランドレ・バスロは必ず手中に収める。



忌まわしい思考は、リスクを目の前にしてもなお揺るがないって事だ。


================================


「じゃあ、頼みますよ。」

「本当に手加減なしでいいんだな?どうなっても知らねえぞ。」

「大丈夫。ちゃんとフォローしますからご心配なく。」

「よし。」


オレグスト氏とエフトポ氏が、すぐ背後に立つ男性と言葉を交わす。

私はなるべく、そっちの方に視線を向けないようにしていた。


彼の名はゴラモロ。

もちろん、私が共転移を使ってこの場所まで連れてきた信者の一人だ。

例によって「背信者」のレッテルを貼られた結果、更なる救いを求めて

再びやって来た。扱いやすい相手と見なされ、入信を許されたらしい。


ひらたく言うと、前科者である。

もちろんそんな事は誰からも聞いていないけど、当然共転移で知った。

おそらく彼の経歴に関しては、私が教団内で最も詳しいだろうと思う。

前科そのものは、強盗と傷害そして殺人未遂だ。若かった頃の大半を、

刑務所の中で過ごしている筋金入りの犯罪者らしい。


しかし、私だけは知っている。別に知りたくもなかったけれど。


未遂ではなく、4人の人間を殺して死体を完全に処理しているらしい。

そのうちの2人はまだ幼児だった。それらの罪がもし露見したのなら、

間違いなく死刑になるだろう。完全犯罪はこんな男にもできるらしい。

死体がなければ罪もないって事か。


彼のそんな素性を知っているのは、例によって私だけである。

つくづく嫌になってしまう。



醜悪な、目の前の謀が。


================================


影の向きが、少しだけ変わった頃。

屋敷から出てきた中年男性が、本を読んでいるランドレに近づいた。

没頭していた彼女も、彼の顔を見てにっこりと笑ったのが見て取れる。


あの男性がペイズド氏か。


ランドレの伯父であり、収監されているシャドルチェ・ロク・バスロの

夫でもあった人物だ。二人とも洗脳され、爆弾事件を引き起こした。

少し世の中の話題になったものの、今ではここで静かに暮らしている。

二人がどういう関係なのかまでは、調べていないらしい。


いや、違う。

あの二人がどういう関係なのかを、これから明らかにする算段だ。

他でもない、ゴラモロを利用して。


ああ、本当に嫌になる。


私は一体どうしてここにいるのか。

何を見届けようとしているのか。


分からない。

私に限って言えば、分からない。


オレグスト氏もエフトポ氏も、その目的は明確だ。

何の関係もないあの少女を、教団に引き入れるためにここに来た。

ネイルに命令されたとは言え、この二人は少なくとも自分の意志で己の

手を汚そうとしている。


じゃあ、私は何なんだろう。


転移が使えるというだけで、教団の穢れた目的を目にし続けている。

何もかも黙過して、関係ないという言い訳をずっと己にし続けている。

何の意思も目的も持たないままに、ここで経緯を見ている。


何もない。

空っぽだ。



真に醜悪な存在は、私なのかも。

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