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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ランドレ・バスロの天恵を

嫌になる。


大概の事はもうどうでもいいけど、さすがにこういうのはウンザリだ。

目的が何であろうと、さすがに卑劣が過ぎると思わないのだろうか。


思わないんだろうな。

こんな風に嫌になっていながらも、黙って見ている私だって同罪だ。

声高に糾弾する資格なんて、ない。



本当に、嫌になる。

何もかも。


================================


オレグスト氏とエフトポ氏。

この二人を共転移で移動させる機会は最近、特に増えている気がする。

実際、他の幹部格と比べても二人の出張る機会は多くなっている。


「移動手段」という役割がはっきりしているからこそ、私はそれ以外の

役割を与えられる事がない。大体、いつも転移する場所だけ伝えられ、

そこに誰か運ぶか迎えに行くかだ。当然の事ながら、送り届けた相手が

具体的に何をするか聞かされる事はほぼなく、また質問する事もない。

余計な詮索をしないからこそ、母もネイル・コールデンもこのあたしに

大した興味を示さない。あくまでも生きた転移装置としか見ていない。


それでいい。余計な期待される方が煩わしいし、危険な目に遭うのも

願い下げだ。扱いやすい転移要員と思われてる方が、ずっと気が楽だ。


どっちみち、私の天恵は否応なしに転移した人間の記憶をもたらす。

あれこれ詳しく説明されなくても、彼らがどんな事をやってるかくらい

ほぼ筒抜けだ。知りたくもない話を知らされるのは、もう慣れている。

勝手な事ばかり言う母やネイルたち相手に、あれこれ考えるだけ損だ。


現代のロナモロス教が、どんな風に腐敗しているのか。

どれほど危険な事をしているのか。

教主のミクエさんが、どれほど何も知らないお花畑思想の持ち主か。


私は何もかも知っている。

オレグスト氏とエフトポ氏が、今日これから何をするのかも。

誰を相手に、どれほど卑劣な企みを実行しようとしているのかも。


知った上で黙っている。



本当に、私は自分が嫌になる。


================================

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「あれか?」

「そうですね。間違いない。」


共転移で移動すると、どこにいるかさっぱり判らなくなるのが難だ。

とは言え、帰りもモリエナが受持つ以上、詳しく知る必要も特にない。

やるべき事をやって帰るだけだ。


建物の様子からすると、イロノ州の田舎街といったところだろうか。

緑豊かな環境で、目に入る家も全てかなり大きい。いい所だな本当に。


そんな中、俺たちはひときわ大きな庭を持つ一軒の屋敷の前にいた。

生垣から覗いた庭の東屋に、一人の少女が座って厚い本を読んでいる。

想像していたより更に若い。天恵を持っているという情報がなければ、

未成年かと思ってしまうほどに。


あれがランドレ・バスロって子か。

かつて「洗脳」の天恵を持つ伯母に操られ、爆弾騒ぎを起こした少女。

詳しい経緯までは知らないが、その伯母は捕らえられ収監されている。

罪には問われなかった彼女は、現在伯父のペイズド氏と暮らしている。


相続したこの屋敷で、平穏に。


「平穏に、ねえ。」


果たしてその平穏は、本物なのか。今の彼女は、どういう存在なのか。

それを見極めるのが、俺の役目だ。控え目に言って下衆な仕事だろう。

少なくとも、その自覚はある。

だが、俺も言い分くらい持ってる。いや、言い訳かも知れないけれど。


もしその平穏が本当なら、俺たちはこのまま彼女に手を出さずに帰る。

慎ましく暮らしているその人生に、わざわざ波風を立てる気などない。

だが、もしもその平穏が彼女自身の天恵によって作られた偽りならば。

俺たちと同じ後ろめたさを、彼女も多少なりと持っているのならば。


話くらい、してもいいはずだろう。

シャドルチェ・ロク・バスロの言う事が、本当に正しいとすれば。


「では頼むよ、オレグスト君。」

「ああ。」


距離は遠いが、これなら射程内だ。エフトポが取得したシャドルチェの

調書を信じるなら、仮に同じ天恵を彼女が得ていてもそっちは射程外。

万一気付かれたとしても、ここまでその影響は届かない。

何にせよ、一瞬で済む話だ。



俺の天恵は速いんだからな。


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「どうだった?オレグスト君。」

「当たりだ。」

「そうか、やっぱりな。」

「あの子は「洗脳」の天恵持ちだ。とりあえず、それは間違いない。」

「よし。じゃあ確認だな。」


ああ。

やっぱりそうだったんだ。


ため息をつきたくなったのを堪え、私は彼らの背後から東屋を見る。

そこで一心に本を読んでいるのは、明らかに私より若い女の子だった。


「洗脳」の天恵の持ち主。


それだけを聞けば、どれほど危険な存在なのかと誰もが身構える。

かく言う私も、さっきまでそういう警戒心を多少なりと抱いていた。


理不尽だ。


天恵は、選べるものじゃない。

彼女だって、それを心から望んだかどうかなんて分からないはずだ。

なのにどうして、彼らはさも当然の事のような顔をしているのか。


教団のためか。

野望のためか。

もっと深い、あるいは浅い目的でもあるのだろうか。

そのために彼女を巻き込むのか。


エフトポ・マイヤールの天恵で。

あの、醜悪極まりない力で。


本当に嫌になる。



私自身を含めた、何もかもが。

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