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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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扉の向こうへの思い

「世界の在り方も色々なのよね。」


几帳面にホットケーキを8つに分割しながら、ローナが語る。


「あたしみたいな高次存在は、大体どこの世界でも「神」と呼ばれる。

ま、そうカテゴライズするのが一番安心できるからね。」

「どこの世界にもいるのか?」

「いやそんな事ないよ。少なくともあたしの知ってる限りでは、むしろ

いない世界の方が割合的に多い。」


とんでもなく次元の高い話を聞いているはずだけど、切り分けた一片に

丁寧にバターを塗る姿に神性などは微塵も感じ取れない。神経質だなと

月並みに思うだけだった。


「で、どこの世界にも大抵、異界と繋がる架け橋的な存在がいるのよ。

神自身がその役を担う事もあるし、ここみたいに個人の天恵が担当する

ケースも稀にある。この世界だと、他の世界のあれこれがかなり頻繁に

流入してるでしょうね。」

「なるほど…」


いいかげん不条理な現実にも慣れてきたけど、さすがに圧倒される。

説明を聞く限り、いわゆる異世界も割とちょくちょく覗いてるんだな。


「と言っても、あたしはあくまでも「偉大なる架け橋」の力を借用して

つまみ食いをしてるだけ。あんまり褒められる行為じゃないだろうけど

まあこのくらいならね。」

「このくらいなら、か。俺にはその基準は全然分からないけどな。」

「こう見えてそれなりに弁えてる。ま、心配しないでよ。」

「ああ。」


テーブルの反対の端に置かれているノートパソコンを見て、俺は頷く。

こればっかりはもう、ローナの良識を信じるしかない。彼女だって別に

わざわざこの世界を混乱させる気はないだろうから。



外は曇り空だった。


================================


「…偉大なる架け橋、か。」


話は一段落したものの、その言葉のインパクトはやはり大きかった。


「なに、やっぱり気になる?」

「多少はな。」


皿洗いに励むローナに答えた俺は、あらためて彼女に向き直った。

気になる事は訊いておく。何だか、最近は特にそれが重要な気がする。

この際訊ける事は訊いておこう。


「さっきも言ってたけど、その天恵の持ち主は誰か判らないんだな?」

「本人の目の前に行けば判るけど、それ以外の方法で見つけるのはほぼ

無理ね。探すとなれば、それに特化した天恵の持ち主の方があたしより

早く見つけられると思うよ。」

「そういうもんなのか。」


つまりイザ警部の「追跡」とかか。個人の天恵が恵神の限界を上回ると

いうのは、かなり衝撃的な話だな。宗教観が揺らいでも仕方ないほど。


「少なくとも、誰なのかくらい把握しておきたいと思ってる?」

「…そういう気持ちがないわけでもないけど、でも個人の事だからな。

それに、宣告を受けてない可能性もあるわけだろ?」

「今のところは五分五分かな。」

「むしろ、宣告を受けて覚醒したら何が出来るのか…って方が怖いよ。」


この際だから本音を返す。



そう、俺が怖いと思うのはそこだ。


================================


架け橋という名前らしいけど、俺が思うにその天恵はむしろ「扉」だ。

こことは異なる世界を覗き見る事ができる扉であり、天恵の持ち主は

おそらくその扉を開く事ができる。そして話を聞いた限りで言うなら、

ローナはその扉の「合鍵」を持っている...という感じなんだろう。


天恵宣告を受けない限り、その扉は開かれる事はない。しかし扉には、

おそらく小窓や鍵穴のような隙間が存在していて、そこから何某かが

たまにこちらの世界に零れてくる。具体的な形を持ったままではなく、

こちらの世界の誰かの天恵として。変速自転車なんかはそういう形で

もたらされた「異界の知」の結晶と形容すべきだろうし、リマスさんが

得た「合気柔術」も技術として直接あの人の天恵になったんだろう。


あくまで俺の想像でしかないけど、そう考えれば「異界の知」が何かを

そこそこ説明する事ができる。これ世界的に見てもかなり貴重な発見と

考えられるなあ。神が言ってる事を基にしてるから、たぶん正解だし。


もちろん、俺もネミルもポーニーも今日まで全く知らなかった。多分、

ルトガー爺ちゃんも同じく知らないままだっただろうなと思う。常に

この世界に存在している天恵らしいけど、覚醒に至らなかった所有者も

かなりの数に上るんだろう。正直、知らなくてもよかったかもと思う。


だけど知ってしまった以上、俺には一つの大きな疑問がある。


その扉を開けられるようになれば、一体どんな事ができるのだろうか。

少なくともローナと同じ、あるいはそれ以上かも知れないのである。

それが世界のバランスを崩す結果を招くなら、これほど怖い事もない。

ローナが無茶をしないのは、彼女が高次存在として他の世界をそこそこ

見聞きしているからだ。このくらいなら大丈夫と線引きができるから、

せいぜいノートパソコンくらいしかこの世界に持ち込まないのだろう。

その点に不安はない。


だけど、もし「偉大なる架け橋」の所有者が天恵宣告を受けて覚醒し、

欲望のままに己の得た力を使ったとしたら。世界はどうなるのだろう。

その時ローナはどうするのだろう。


「なに、そんなに不安?」

「ちょっとだけな。」


カチャカチャと皿を積むローナに、俺はそれだけしか言えなかった。

今さらながら、恵神ローナの存在の持つ「重さ」を両肩に感じる。


止められる事じゃない。と言うか、止めるべき事でもないだろう。

しかし、だからこそ不安にもなる。こんな時期だからこそ、尚更だ。


「ただいまー!」

「戻りました!」


片付けが終わる頃になって、やっとネミルとポーニーが帰ってきた。

その笑顔を見ながら、俺は今という現実に対しあらためて姿勢を正す。


このまま平穏が続くのなら、それに越した事はないだろう。とは言え、

そうならないだろうといった思いも大いにある。


しっかりしないとな、俺も。

そう。人間として。



あるいは、魔王としても。

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