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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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異界を繋ぐもの

釈然としない思いは、今でもある。


神託師の連続殺人は、まだ解決には至ってはいない。騎士隊も警察も、

地道な捜査を続けているのだろう。同様の境遇にある全国の神託師は、

不安を拭えないのかも知れない。

だけど、俺たちはこの件にこれ以上深入りすべきじゃないと思う。

俺もネミルもポーニーも、迷った末の結論だった。


ここまでの状況を鑑みれば、やはりオレグストの関与の可能性は高い。

あの男がオトノの街でロナモロスと接触したと考えれば、あれやこれや

つじつまが合うのは事実だ。これで事件が一気に解決する可能性だって

大いにあるだろう。


とは言え、どれもこれも仮定の域を出ていないってのもまた事実だ。

オレグストが悪堕ちしたという部分さえも、想像でしかないのである。

一歩引いて考え直せば、あまりにも人聞きの悪い仮定が重なっている。

俺たちはオレグストを何だと思っているんだと、問い詰めたくもなる。


「…結局、俺たちって一般人でしかないもんな。」

「そうね。」

「ですよね。」


トーリヌスさんが拉致された時とかとは違う。はっきりこいつが悪いと

断言できない状況で、うかつな事を言ってしまうと冤罪もあり得る。

少なくともこれは、神託師ごときが首を突っ込む事象じゃないはずだ。


でも、まだ完全に納得したわけじゃない。気持ちは宙ぶらりんだ。

もしかしたら、俺たちが会った時のオレグストもこんな感じだったか。



分からないまま、日は過ぎていく。


================================


一年も店を経営していると、お客の切れ目ってのも割と正確に読める。

それを読んで、ネミルとポーニーが買い物に出かけた。来月に迫った、

小児病棟慰問の準備なんだとか。


というわけで、今この店にいるのは俺とローナだけという構図だ。

当のローナは、ノートパソコンとかいうやつをカチャカチャやってる。

原理を聞いても俺たちにはあんまり分からなかったけど、時代が進めば

作られるかも知れない機械らしい。とにかく便利なんだとか。


「フリック入力は個人的に好きじゃないから、スマホも嫌いなのよね。

やっぱ物理キーボードが一番。」


単語が何ひとつ分からないものの、言わんとする事は感覚で察した。

要するに、このノートパソコンってのが一番性に合ってる…って事か。

しかし、そんな未来のテクノロジーをホイホイ使っていいのだろうか。

神として無責任が過ぎる気がする。この際、一度訊いてみようと思う。



何を心配しなきゃいけないか、もう本当に分かったもんじゃないな。


================================


「そういう心配はないよ。」


カチャカチャの手を止め、ローナは紅茶を啜りながらそう答えた。


「前にも言ったけど、あたしという存在はあくまでもこの世界の一部。

だからあたしは、この世界の未来や過去に干渉する事はできないのよ。

同じようなものが未来で開発される可能性はもちろん多分にあるけど、

少なくともこれは完全に異世界から持ち込んだものだからね。」

「そうか…」


安心していいかどうか分からない。が、まあ「異界の知」なんて言葉が

一般的になっている世の中だ。多少無茶な事してもいいって事だろう。

あんまり神経質になる必要はない。そういう事にしておこう。


そう言えば、俺の変速自転車も元をただせば異世界からの恩恵だ。

目の前に神がいると、普段思わない疑問などが割と頭をもたげてくる。

この際、少し訊いてもいいだろう。まあ、予想できる話ではあるけど。


「なあ、ローナ。」

「うん?」

「やっぱり異界の知って、あなたがこの世界にもたらしてるんだよな?

天恵と同じで。じゃあ」

「いや違うよ。」

「え?」


違うの?

大いに予想が外れた。


「じゃあ、どうやって…」

「異世界のファクターをこの世界に引き込んでるのは、とある天恵よ。

あたしはそれを利用してるだけ。」

「天恵って…つまり人間の誰かが、この世界と異世界を繋ぐのか?」

「そう。この世界にたった一人しか持ち得ない、絶対の天恵なのよ。」


ノートパソコンを閉じたローナは、俺の顔を見ながら告げた。



「【偉大なる架け橋】っていう名前の天恵。これが世界を繋いでる。」


================================


思いもかけず、午後の喫茶店談義で世界の真理を聴く羽目になった。

せっかくの機会なんだから真面目に聴こう。そう思い俺は姿勢を正す。


「ずいぶん大仰な名前だな。」

「それだけすごいって事よ。」


どうやらローナも、話すいい機会と思っているらしい。語る口調には、

いつもより真剣な響きがあった。


「この天恵は、常に存在している。天恵宣告を受けようと受けまいと、

必ず世界に一人だけ存在するのよ。そしてその存在自体が、この世界と

よその世界を繋ぐって事。もし仮に所持者が死ねば、同時に他の胎児に

移る。そうやって存在し続けてる。まあ、世界を支える柱の1本よ。」

「天恵としては、具体的にどんな事ができる代物なんだ?」

「さあ、それは知らない。」

「は?」


なんで恵神なのに知らないんだよ。


「宣告を受けたかどうかは判らない上に、実際に覚醒した人の姿なんて

見た事もないもん。…って言うか、できる事も個人差はあると思う。」

「ざっくりしてるんだな本当に。」

「とにかく、その天恵の存在がこの世界に異界の知をもたらしてるのは

間違いない。超の上に超がついてるレア天恵ってわけよ。」

「…………………なるほど。」


【偉大なる架け橋】か。

もちろん聞いた事もない。資料にも全く出てきていなかったはずだ。

ローナの言う通りだとするならば、人智を超えた存在かも知れない。



興味深い話だな、本当に。

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