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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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魔獣の脅威と

危険だという事は分かっている。

自分勝手な理屈で動いているという事も、十分承知している。

胸を張れる生き方なんて、とっくに捨てている。


そんな自分だからこそ、勝手極まる理屈に誰かを巻き込む気はない。

あたしの因縁と恨みは、あたし自身の天恵でカタを付ける。でなきゃ、

あたしは何に対してもまともに責任を持てない人間に成り下がる。



そこだけは、譲りたくなかった。


================================


覆いを外した籠の中から、2匹のネコがこちらをじっと見返していた。

ほんの子猫だ。2日前に捕まえた。親は死んでいたし、生き残っていた

この2匹も飢えて死にかけていた。細かい事は考えず、連れて帰った。

とりあえず、食べ物と水を与えた。情が湧かないよう、名前は付けずに

今日まで生かしておいた。もちろん今も飢えているだろう。


ネズミで上手く行ったのなら、次はネコだ。そしておそらく、ネコなら

人間を食い殺せる魔獣になり得る。制御しようと思えば、ギリギリだ。

そしてネコなら容易に調達できる。どの街にも必ずいる生き物だから。

この2匹を魔獣化させ、どれほどの力を得るかをここで検証する。

ただし、もう野良犬相手では検証にならない。どう考えても、ネコより

ネズミの方が強くなるとは思えないからだ。ならどうやって検証する?


簡単な話だ。…と言うか、最初から想定したから2匹を保護したんだ。



この場で2匹を魔獣化させ、そして殺し合わせればいいってだけ。


================================


魔核がどんな味なのかは知らない。いや、知りたくもない。とは言え、

ネズミは喜んで食べていた。案外、そこそこおいしいのかも知れない。

飢えていればなおさらだろう。


「さあ、食べて。」


細かくした肉片に魔核を砕いた粉を混ぜ、格子の隙間から差し入れる。

2匹は、競うようにしてその肉片を貪り食った。それを確かめてから、

あたしは籠を地面に等間隔で置いて後ずさる。次の反応は知っている。


数秒後。


バツン!!


耳障りな音が炸裂し、粗末な構造の籠が内側から破裂するように歪む。

格子の隙間からはみ出した獣毛は、どちらも灰色に変色していた。

やがて籠は、内部からの膨張圧力に耐え切れずに弾け飛んだ。中から、

大型犬を超える体躯の魔獣が2体、ゆっくりと姿を現す。さっきまで、

飢えて死にそうな子猫だったとは、誰も信じられないだろう。


…なるほど、ネコならこうなるか。想像を超えた体躯の肥大化だ。

見慣れているせいで、恐怖はない。やはり探求心が勝る。さあ、今度は

その力を存分に見せて欲しい。戦う相手は、互いの目の前に…


「…………………え?」


そこで初めて、あたしは我に返る。

誕生と同時にお互いを喰い合うかと思っていた2匹は、それまで同様に

お互いを嗅ぎ合っている。まるで、互いの間の絆を確かめるように。


…そんな姿になっても、家族としてお互いを認め合うって言うの?

あたしに出来なかった事を、たかがネコが魔獣になった後でもやるの?

あんたたちは一体…


次の瞬間。



あたしに向き直った2匹は、明確な殺意を瞳に宿し飛び掛かってきた。


================================


「ヒイッ!!」


かすれた悲鳴を上げつつ、あたしはどうにか体を動かした。力いっぱい

地を蹴り、飛び掛かってきた2匹の爪を横飛びでかわす。繰り出された

爪の一撃は、石造りの椅子の表面を削って派手な火花を散らした。


まずい。マズイマズイマズイ!!


どういうわけだかあたしは、自分が襲われる想定をしていなかった。

2匹いれば殺し合いするだろうと、最初から決めてかかっていた。


甘かった。


考えてみれば、ネコはネズミよりも繁殖力が低く、そして知能が高い。

血を分けた相手に対する感情というものが、消える保証などなかった。

あたしは魔獣化という現象に対し、あまりにも理解が浅過ぎたらしい。


そう思った時には、もう遅かった。


ザシュッ!!


「ウグうぅッ!!」


次の一撃は避け切れなかった。右の太ももをざっくりと裂かれ、激痛が

頭にまで走り抜けた。もう駄目だ。逃げきれない以上、あたしは死ぬ。

家族への復讐はおろか、マッケナー先生との約束も果たせないままに。


ああ。



つまらない人生だったなあ。


================================


ギイィィィン!!


いきなり、ガラスがひび割れるかのような甲高い音が軋み渡った。

と同時に、あたしに飛び掛かろうと狙っていた2匹のネコ魔獣の両足が

ガッチリと地面に固定される。


「ガッ!?」

「ギャォッ!?」


驚愕と痛みに呻く2匹の背中から、白い煙のようなものが駆け上がる。

それが冷気である事は、すぐ近くに倒れるあたしにもはっきり判った。


次の瞬間。


バツン!!


形容し難い音と共に、2匹の眼球がほぼ同時に凍り付いた。その凍結は

勢いそのまま、2匹の頭を真っ白な霜に包み込んで氷像に変えていく。

やがて。


ガキィン!


顎の下まで凍りついた頭部は、その自重により付け根が砕けて落ちる。

ゴトンという重い音を立てて地面に落ちた2つの頭は、2つに割れた。

まるで大きなメロンを落としたかのように割れ、凍り切っていなかった

中の組織が果肉のように流れ出る。その様もまた、果実を想起させた。

頭を失った肉体は、そのまま健気に立っていた。足を氷で縫い止められ

倒れる事さえもなかった。


わずか数秒で、あたしの生み出した魔獣は氷の躯と化していた。


「…な…何で…」


足の激痛に苛まれながら、あたしの探究心はそれでも答えを求める。

一体全体、何が起こったの?


「まったく、悪い子ちゃんねェ。」


薄れる意識の中、そんな呆れ気味の声が頭上から聞こえた。

あたしを見下ろす、女性の顔。

誰だったっけ。

紹介されたのは憶えてる。


この人は確か…


「…ゲイズ…マイヤー…ル…さん?」

「はいはい、話はあとでね。」


そこが限界だった。



あたしの意識は、闇の底に墜ちた。

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