魔核の可能性
「これが限界か、ウルスケス?」
「ええ。」
「なるほどな…」
さすがにマッケナー先生は、不満と不信を隠し切れていなかった。
もちろん、あたしが生成した魔核が小さ過ぎるのが最大の理由だろう。
まだ詳しく聞いてないけど、先生の目的を果たすのに、この大きさでは
足りないんだろうと思う。サイズで言えば、レンネに渡した餞別よりも
二回りほど小さいからなあ。
また、あたしが口にしてる「限界」を全面的には信じてない…ってのも
態度で判る。出し惜しみしてるのにそこそこ勘付いているんだろうと。
正直、あたしはそこまで上手な嘘をつける自信がない。最初からない。
分かってて見逃されてるんだろう、というのも十分に自覚している。
だから何?
嘘をついてるのは事実だし、それで先生に迷惑がかかっているってのも
まあ事実なんだろうなと思う。早くもっと大きな魔核を生成してくれと
言いたげな表情は、あたしに対する先生のお決まりになりつつある。
だけど、それはお互いさまだろう。
先生も他の人たちも認めてたけど、あたしに声がかかったのは最初から
天恵の内容を知られていたからだ。見方を変えればプライバシー侵害。
なに勝手に覗き見てんだと、文句を言う資格はあたしにもあるはずだ。
今さらそれを声高に責める気なんかない。お互いさまなんだから。
だけど少なくとも、あたしは自分の天恵をもっと深く知っておきたい。
自分だけに授けられた力とすれば、それはごく当たり前の権利だろう。
知った上で、納得した上での話なら協力は惜しまないつもりだ。
だから、もうちょっと待ってて。
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魔鎧屍兵、だっけ。
マッケナー先生が作った異界の知の結晶。概要だけは既に聞いている。
どんな兵士にも軍隊にも勝るという駆動兵器。何だか浪漫溢れる話だ。
いい歳して何言ってんだとも思ったけど、冗談とかではないらしい。
そしてその中枢部に、あたしの生成する魔核が絶対に必要なんだとか。
実物を見せてくれと言ってみたら、完成してからでないとと断られた。
まあそれは分かるし無理もないか。だからあたしが協力しない限りは、
その魔鎧屍兵ってのは完成しない。他は全て出来てるらしいんだけど。
求められるサイズは、今すぐにでも生成できる。いたって簡単な話だ。
だけどあたしはどうしても、先生や教団の人たちが求めるのとは別の
価値が欲しかった。自分の天恵を、他人に全て定義されてしまうのは
どうしても嫌だったのである。
天恵に呪われるって、もしかするとこういう事なのかも知れないな。
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あたしはまだまだ子供だけど、学園では奨学金を取れる実力者だった。
たとえ専門外であっても、そこそこ理論立てて検証する事はできる。
魔鎧屍兵の起動に必須という事は、何かしらのエネルギーの結晶だ。
名前からすると魔力か何かだろう。魔力って概念自体、数千年以上前に
衰退してしまっているらしいけど。あたしは時代遅れって事なのかな。
古代の歴史書や石板などを見ると、確かに魔獣は存在していたらしい。
今の時代ではもう完全に滅びたか、いたとしても幻レベルなんだろう。
その力の結晶だとすれば、何かしら他の使い方があるはずだ。かつて、
同じ天恵を得た人もそう考え、検証したのではないかと考えてみた。
ハッキリ言って、マッケナー先生のやっている事は少しチート気味だ。
異界の知をどうやって得たのかは、直接訊いても答えてくれなかった。
だけど多分、教団幹部の誰かしらがそういう力を持ってるんだと思う。
だからこそ、魔鎧屍兵に必要なのがあたしの魔核だと確信してるんだ。
別にそれを責める気はない。けど、探究者としてはどうなのかと思う。
少なくともあたしは、そんな感じの近道やズルをしたいとは思わない。
未知の天恵を得たなら、自分なりのやり方で深く知りたいと思うだけ。
だから、自分でできる範囲の検証をやってみる事にする。
そう、生物実験だ。
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結晶とは言っても、魔核はそれほど硬い代物じゃない。叩けば割れる。
おそらく、嚙み砕ける動物なんかは肉食・草食を問わずいるだろう。
ならばもう、実際にやってみるのが一番の近道だ。
現状、あたしはこの街から遠出する許可をもらっていない。その一方、
街の中ならほぼ自由に行動できる。お金も支給され、買い物もできる。
ここでなら、初期段階の検証くらいすぐに出来るはずだ。
方法はいたって簡単。
粉末状にまで砕いた魔核を、穀類や骨粉に混ぜて動物に食べさせる。
そして起こる変化を観察する。まあ何も起こらない可能性もあるけど、
それならそれで納得できるだろう。あたしは別に劇的な結果が欲しいと
切望してるわけじゃない。ただ単に自分の天恵を知りたいってだけだ。
ついこの間まで学校で勉強していた身なんだから、こういった探究心は
大目に見て欲しい。
さあてと。
まずは、ネズミあたりでやるか。