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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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首都ロンデルンにて

鉄道に揺られて6時間。こんな遠出は何年振りだろうか。

いささか腰が痛くなりつつ、目的地到着でテンションは上がっていた。


首都・ロンデルン。

はるばる来たぜ。


================================


予想していたけど、交通量の多さがそれを遥かに超えていた。

まさに大都会だ。どうしても田舎者丸出しでキョロキョロしてしまう。


「あー見て見てホラ時計台!!」

「おぉ、すげえな!」


はしゃぐネミルを諫める気も、この状況ではさすがに起こらない。

用事はひとつだけなんだから、少しくらい観光してもいいだろう。

観光ガイドマップを片手に、二人で散策する。いいな、こういうのも。

許嫁だ同棲だと、突っ走ってきた。それ自体に後悔なんかはない。が、

こういうデートみたいなのをやってみたかったのもまた、事実だ。

いい機会になったと割り切ろう。


そうこうしている内に、宮殿の前に到着。衛兵の隊列が遠目に見える。

鉄柵越しにその姿を見ながら、俺とネミルはちょっと感慨に耽った。


少なくとも、嘘を言っているという雰囲気はなかった。だとすれば、

ここにいる女王陛下の三男と先日、あれやこれやと話をした事になる。

あのルトガー爺ちゃんが、女王陛下と知り合いだったのも驚きだった。


「しゃんとしないとな、俺たち。」

「うん。」


何か、身が引き締まる思いだった。


================================


夜行列車で来たので、時間には少し余裕がある。とは言え、いつまでも

遊んでいるってわけにはいかない。てなわけで俺たちは、目的地である

中央庁舎に向かう。聞いた話では、特殊登録課…って所に行くらしい。


迷う事もなく中央庁舎に到着した。が、中に入ってからは散々迷った。

ようやく見つけたその課は、かなり小さな窓口だった。…まあ当然か。

神託師登録のための課だとしたら、めちゃくちゃ閑職なんだろうし。


来意を告げたら、中年女性が応対をしてくれた。机を挟んで座る。


「ルトガー・ステイニーさん…と、インザーレ地方ミルケンの街在住の

神託師ですね。今年の6月7日没…確かに申請されてます、はい。」


書面を確認し、その女性係員は顔を上げて俺たちの顔を見つめた。


「遠方からようこそ。登録課主任のカチモ・シルツと申します。」

「トラン・マグポットです。」

「ネミル・ステイニーです。どうぞよろしく。」


物腰の柔らかい人で良かった。


「お手紙拝見しました。ネミルさんが祖父のルトガーさんの跡を継ぐ、

という形になるんですね?」

「はい。」

「一代飛ばしは稀なケースですが、生活基盤は大丈夫ですか?」

「ええ、そこは何とかします。」


俺が答えると、カチモさんは何だか納得顔で頷いた。一緒に来た時点で

それなりに察してくれたんだろう。俺も多くは語らなかった。


「住所…はい、間違いないですね。ここに引き続き住まわれると。」

「そうです。」

「では本登録という事で…」


これで終わりか。

名ばかり職だけあって、登録自体もやっぱり形式だけなんだろうな。

まあ、すんなり済んで何より…


「ネミルさんには、今から私の天恵を見てもらいます。」


================================


「え?」


俺とネミルの声がダブるの、これで何度目だろうか。


「今ここでですか?」

「ええ。」

「でも、ネラン石が…」

「ありますよ、ホラ。」


事もなげに即答したカチモさんが、机に置かれていた小箱を開ける。

そこには、確かにネラン石の小さな玉が収められていた。


「…って、そんな簡単に天恵宣告をしていいんですか?」

「ご心配なく。ちゃんと考えられている手順ですから。」


俺の質問に、カチモさんはやっぱり事もなげに答えた。


「実を言いますと、私は自分の天恵を既に知ってます。この職に就く際

神託師に見てもらってるんです。」

「え…」

「あまり知られていませんが。」


そこで言葉を切ると、カチモさんは箱の中のネラン石を指さした。


「ネラン石は天恵宣告の触媒として用いられますが、1~2回の使用で

変質するのは天恵を「授ける」時の使用のみです。相手が自分の天恵を

既に知っている場合、確認のために使ってもすぐには変質しません。」

「つまり、繰り返し使えると?」

「ええ。」


答えたカチモさんが、ネラン石の玉を指でそっと摘み上げた。


「およそ20回くらいは使えます。これは今日までに8回使いました。

まあ、必要経費の範疇ですよ。」

「………………」


本当に知らない事だらけだ。

でも確かに、20回も使えるのなら惜しくないんだろう。何と言っても

この人は神託師じゃない。あくまでその登録の管理をしているだけだ。

こんな機会はそうそうないだろうと思えば、色々と納得はできる。


「…分かりました。」


俺と同様納得したらしいネミルが、襟口から指輪を取り出そうとする。

しかし。


「あ、装身具などは着けない状態でお願いします。規則ですので。」

「えっ?」


かすかに声が裏返ったのが判った。と言うか、俺も声が出そうだった。

指輪使っちゃダメなのか…?


「詠唱文を憶えてらっしゃらないのなら、テキストがありますよ。」

「いや、あの…」


これまた机の脇に最初から置かれていた、特殊詠唱の古語が記載された

テキストが差し出される。ネミルは明らかに目が泳いでいた。おそらく

俺も同じだろう。


まさかここで、こんなテストが実施されるとは思っていなかった。

見通しが甘かったのは事実だろう。だけど、出来なくてもいいってのが

この神託師って仕事の継承条件じゃなかったのか。



相変わらず、簡単には行かないな。

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